メインビジュアルの画像
コンサルティングケース
コンサルティングケース
TCGのクライアントが持続的成長に向け実践している取り組みをご紹介します。
コンサルティングケース 2020.04.30

シード平和:業務改善と人材育成で事業を加速

 

 

シード平和によるファミリー分譲マンション施工事例(レ・ジェイド南茨木ミューゼ)

 

 

6期連続の増収、また過去最高の売上高と建設請負受注高(2019年6月期)を上げているシード平和。タナベ経営との連携で業務改善プロジェクトとシード平和アカデミーを導入し、売上高500億円の関西トップクラスゼネコンへの道をひた走る。

 

 

利益重視へ方針転換し大型案件の受注相次ぐ

 

巻野 シード平和は大阪市に本社を置き、関西エリアを活動拠点とするゼネコンです。自社施工によるマンション分譲を強みに、2019年6月期には過去最高となる6期連続の増収を達成。同期の売上高は前期比15.6%増の237億9792万円、また建設請負受注高は過去最高の152億円と好調です。まず、シード平和の概要と特徴についてお聞かせください。

 

青山 1909(明治42)年創業の奥田組がルーツになり、100年以上にわたって建設業を営んでいます。1993年にシードを設立して建設業と不動産業を展開し、2013年には三栄建築設計(東京都新宿区)の連結子会社となって2014年にシード平和へ商号変更。現在は三栄建築設計を中心に“住宅総合生産企業”が集まった「メルディアグループ」の一員として、「総合建設事業」「不動産事業」「不動産賃貸管理事業」「戸建分譲事業」を展開しています。また、同グループの会社と連携して不動産への投資事業も行っています。

 

巻野 関西エリアにおけるメルディアグループの事業は、シード平和が中心になって推進しているというイメージですね。グループに入ってから業績は好調に推移しています。

 

青山 三栄建築設計のM&Aで不動産事業と戸建分譲事業が加わり売上高が急増しました。それまで主力事業であった建設事業は請負なので建物の建築代金しか売り上げ計上できませんでしたが、不動産事業に進出して土地代金が加わり、売り上げが増したのです。

 

磯部 三栄建築設計を率いる小池信三が当社の代表取締役社長に就任し、「案件当たりの利益額重視」へ方針転換したことが成長を呼び込みました。それまでは1億~2億円規模の案件を数多くこなして売り上げを稼いでいましたが、これでは利益を上げることはできません。当初は受注額5億円を目標に、大型案件の営業に力を注ぎました。

 

巻野 利益重視へ転換することで、ビジネスモデルが変わったのですね。

 

青山 そうです。ターゲットも個人から企業へ移行しました。大型案件を獲得するには与信力が欠かせませんが、親会社の信用度や資金力が強力にバックアップしてくれました。受注額が1億円から5億円になり、顧客が個人から法人になった時の現場の緊張度合いはすごかったですよ(笑)。今では20億円超の案件も出るようになり、現場の社員は5億円の仕事は当たり前のようにこなしています。

 

巻野 奥田組から続く100年を超える歴史の中で受け継がれてきたものは何でしょうか。

 

青山 「顧客満足度の高い建物を提供する」という精神だと思います。

 

巻野 順調に成長しておられる中で、2017年に「メルディアホテル京都二条」、2019年には「ホテルメルディア大阪肥後橋」を建設・開業されました。これは新規事業になるのですか?

 

青山 そうですね。ただ、当社と三栄建築設計はホテルの所有者という立ち位置をとっており、ホテルを実際に運営しているのはメルディアホテルズ・マネジメントというグループ会社です。

 

 

 

取締役 執行役員 経営企画本部長 青山 志行氏
1970年東京生まれ。2002年三栄建築設計入社。2007年横浜支店開設時支店長、2009年浦和支店長、2011年名古屋支店開設時支店長、2012年執行役員名古屋営業本部長。2013年シードM&Aに伴いシード取締役営業本部長に就任。2018年メルディアホテルズ・マネジメント代表取締役社長(現任)。2019年シード平和取締役執行役員経営企画本部長(現任)。

 

取締役 執行役員 工事本部長 磯部 善男氏
滋賀県出身。滋賀県立短期大学工学部建築学科卒、1977年旧平和建設入社。戸建住宅・商業施設・工場倉庫・マンションなど建築一般を担当。旧平和奥田で工事長・次長を経て工事部長。シード平和では工事本部長として統括管理を行う。

 

 

高齢化と空洞化を見据えた業務改善プロジェクト

 

巻野 利益重視を掲げて成長する中、タナベ経営と組んで業務改善プロジェクトに取り組まれました。業務改善が必要だと感じた背景をお聞かせください。

 

青山 2018年に関西ナンバーワン企業を目指す成長戦略を立てた際、実現するためには、生産性の向上が不可欠という結論に至りました。タナベ経営に社員の生産性を調査してもらうと、改善すべき課題が明確になりました。

 

磯部 3億円程度の案件なら現場監督を含めて1、2人のスタッフでこなせます。単純な足し算では5億円規模の案件になると3人、10億円規模になると4、5人必要になりますが、それでは生産性は上がらないし、採用難で人材を確保すること自体が難しい状況です。

 

案件の大型化が進む中、仕事のやり方自体を変えていかないと利益も労働生産性も上げることができないという危機感がありました。

 

大裏 プロジェクトで「現場監督が1人でやっていた作業を、いかにチームでこなしていくか」をテーマに仕事のやり方を見直し、どのように簡素化・分業化していくかを議論しながら、生産性を向上させる仕組みづくりに取り組みました。現場事務作業の分業化・効率化などを推進されていますが、成果が上がっていると感じますか?

 

磯部 「成果あり」と自信を持って言えるのは、前さばき(初期工事)・後工程をできるだけ所長がやらないようにすることで、所長の担当できる物件が増えたこと。これが受注拡大に直接貢献しています。また、請求書チェックや発注管理といった日々の管理業務を減らし、空いた時間を原価の見直しに充てることで、原価圧縮効果が出ています。

 

ただ、分業することで「空いた時間」はできたものの、それを「他の業務に充てて生産性を上げる」ことに関してはもう少し工夫・改善の余地があると考えており、時間をかけて取り組みたいと思います。

 

巻野 案件単価が下がることはないでしょうから、周囲の人材をうまく使って分業しながら案件を竣工させる調整能力が大切になります。空いた時間で、より生産性の高い業務に取り組むことが今後の課題と言えるでしょう。

 

 

タナベ経営 経営コンサルティング本部 本部長代理 巻野 隆宏
企業の持続的な変化と成長をサポートする戦略構築に取り組んでおり、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。新規事業開発コンサルティングチームのリーダーとしても、成長戦略の構築を提言している。

 

 

タナベ経営 経営コンサルティング本部 チーフコンサルタント 大裏 宙
外食産業における店舗の出店・改装などの業務を経験後、タナベ経営に入社。実務経験を生かした、現場重視の実践的なコンサルティングを信条としている。綿密な市場分析とさまざまな実体験に基づいた事業戦略構築、事業立案を得意とする。顧客と一体になってマネジメントの改善、事業改革に取り組み、企業の成長を支援している。

 

 

案件の長期化による経験不足をアカデミーで補填

 

大裏 先ほど採用難の話がありましたが、思うように人材が採用できない状況においては、入社した人材にしっかり活躍してもらえる環境づくりが必要です。その一環として企業内大学の「シード平和アカデミー」を開校されました。アカデミーが必要と思われた背景をお聞かせください。

 

磯部 5年後には社員の高齢化、中間層の空洞化があらわになります。現在は第一線で活躍する社員が50歳を超えて次第に現場から離れ、20歳代や30歳代の社員は未経験者を含めた中途採用が多いため、従来の育成システムでは5年後に所長レベルまでステップアップできる社員はごく少数……。そんな悩みを抱えていたところにタナベ経営からアカデミー設立の提案を受けました。われわれが若手だった時代は「一人前になるのに10年かかる」と言われましたが、今はそんなに待っていられません。外部研修だけでなく、社内研修を充実させることも必要と感じてアカデミーを導入することにしました。

 

以前は工期が半年くらいの案件が多かったので、5年間で10ほどの現場を体験できました。現在では案件の大型化に伴って工期が長期化し、5年間で経験できる現場は三つ程度。経験した現場の数が減ると、仕事の知恵やイレギュラーな出来事への対処法などを多様に習得できませんし、前の現場で教えられたことを次の現場まで覚えているのも難しいかもしれません。先輩社員も「2年前の現場で教えただろう」なんて言えません(笑)。それを補うためにアカデミーを活用してもらうという方針です。

 

青山 教わる側はもちろん、教える側のスキルアップにもつながるところも導入を決めた大きなポイントです。カリキュラムやテキストは所長クラスが作成しますが、その作業を通して自分の持つ知恵やノウハウを棚卸しすることができますからね。効果的な教え方を探求することは、部下に対する配慮や気付きにもつながると思います。

 

大裏 今教わっている社員が教える立場になったときは、自分の経験を基にブラッシュアップできますから、より効果的な授業ができるでしょうね。教える体制が整っていることは、新入社員にとっても安心材料になります。

 

磯部 私は採用面接に必ず立ち会っています。新卒採用でも中途採用でも、自分をきちんと教育してくれるかが会社選びの最大のポイントになっていて、教育研修に関する質問が多いですね。

 

青山 シード平和アカデミーの仕組みづくりの次は、継続的な運用に取り組まなければなりません。これは社内の人間よりも、外部の専門家から講師となるべく指導を受けた方が効果的だと思うので、タナベ経営に期待しています。

 

 

シード平和によるファミリー分譲マンション施工事例(イーグルコート山科椥辻シエロガーデン)

 

 

売上高500億円の関西トップクラスゼネコンへ

 

巻野 今後の目指すべき姿と事業展望についてお聞かせください。

 

青山 2019年度の建設請負受注高は過去最高(152億円)になり、同年度の受注残高も過去最高の165億円となりました。このような状況の中、中期経営目標として「関西トップクラスの総合建設会社への飛躍」と「売上高500億円を視野に入れたビジネスモデルの確立」を掲げています。この目標を達成するための重要課題として「スケジュール管理、予算管理及び品質管理の徹底」「投下資本利益率を意識し、収益性の向上を図る」「関西有力デベロッパーとの更さらなる関係強化と新規開拓」「ホテル、商業施設、店舗などの鉄骨造の建設受注強化」「戸建分譲事業の拡大」などを打ち出しました。今後の業績目標(売上高)については2020年度300億円、2021年度350億円、2022年度380億円としています。

 

巻野 この先の関西の市況をどう見ていますか。

 

青山 大幅増はないけれど、減ることもないでしょう。一時期、土地代が急騰し、デベロッパーは土地の仕込みが困難でしたが、最近はようやく沈静化。デベロッパーは土地を確保でき、物件の建設ニーズが高まっています。ただ、当社がそれに追い付ける体制を組めるかどうかが問題。人材不足でこれ以上受注できないのが現状なのです。

 

巻野 だからこそ、業務改善や人材育成の重要度が増しているのですね。

 

青山 戸建分譲事業の強化にも取り組んでいます。新規開拓よりも競合との顧客争奪なので、商品力が勝敗を決するポイントになります。「同じ家は、つくらない。」というメルディアブランドの関西エリア浸透を目指し、関西市場のシェア5~7%くらい取れたらいいと思っていますが、これにも社内の人材育成が不可欠です。

 

磯部 幸いなことに、2年ほど前から新卒が定期採用できるようになりました。2020年4月には全社で14名、うち工事本部に3名の新卒が入社します。これからは離職率を抑えることが重要課題ですね。

 

巻野 関西に根を下ろしたトップクラスの総合建設会社として規模、品質、人材力を高め、売上高500億円を達成することを祈念いたします。本日はありがとうございました。

 

 

 

PROFILE

  • シード平和(株)
  • 所在地:大阪府大阪市淀川区西宮原 2-1-3 SORA新大阪21 9F
  • 創立:1993年
  • 代表者:代表取締役社長 小池 信三
  • 売上高:237億9700万円 (2019年6月期)
  • 従業員数:135名 (2019年6月末現在)