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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2020.01.31

日本で一番質の高い「“食”&“ホスピタリティ”グループ」を目指す ロイヤルホールディングス 代表取締役会長 菊地唯夫氏

 

 

“日本の外食王”として名高い故江頭匡一氏が興したロイヤルグループは、リーマン・ショック時の停滞から回復し、いまやグループ総売上高1377億円、経常利益58億円(連結、2018年12月期)を計上するに至っている。この成長過程で多大なリーダーシップを発揮したのが、ロイヤルホールディングス代表取締役会長の菊地唯夫氏だ。東証1部企業としても、全てのステークホルダーにとって存在意義のある「サステナブル企業」を目指すビジョンと戦略を伺った。

 

 

外食、コントラクト、機内食、ホテルの4事業を展開

 

若松 ロイヤルホールディングス(以降、ロイヤルHD)とタナベ経営のご縁は、創業者・江頭匡一氏と当社の創業者・田辺昇一が、互いの創業時に出会ったことがきっかけです。今回の対談も、本当にご縁の不思議さを感じています。

 

ロイヤルHDはファミリーレストラン「ロイヤルホスト」をはじめとするロイヤルグループの持ち株会社です。ファミリーレストランだけではなく、現在は『ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎2019特別版』(日本ミシュランタイヤ刊)に一つ星で掲載された「レストラン花の木」なども含む「外食事業」と並び、「コントラクト事業」「機内食事業」「ホテル事業」という四つの主力事業を展開しておられます。まず、各事業の特性やビジネスモデルをお聞かせください。

 

菊地 外食事業は、ロイヤルホストの他に天丼や天ぷらを提供する「天丼てんや」、サラダバー&グリル・レストランの「シズラー」、ピザレストランの「シェーキーズ」などのブランドで全国571店舗を運営しています。コントラクト事業は、空港のターミナル、高速道路のサービスエリアやパーキングエリア、百貨店、オフィスや病院など全国のさまざまな施設225カ所で食とサービスを提供。機内食事業は、成田・羽田・関西・福岡・那覇空港で多彩な機内食を約30社の航空会社へ供給。ホテル事業は「リッチモンドホテル」というブランドで全国40ホテルを展開しています。(【図表1】)

 

若松 菊地会長は日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、ドイツ証券を経て2004年にロイヤルHDに入社され、執行役員総合企画部長兼法務室長として経営に参画されます。当時のロイヤルグループはどのような状況でしたか。

 

菊地 社会から必要とされる存在意義を十分に持ちながら、時代の波にうまく乗れないというイメージでした。ファウンダー(創業者)の江頭匡一は1人で経営のかじを取って求心力の強い会社を築いてきましたが、2003年に経営の第一線から引退。私が入社した当時の経営陣は、分社化を推進し、現場に近い社員が知恵を出し合って機動的に動く体制への移行を図ろうとしていました。しかし、リーマン・ショックも重なって、ロイヤルHDは2008年から2年連続で赤字(当期純損失)を計上しました。

 

若松 2010年に代表取締役社長就任、2016〜2019年は代表取締役会長兼CEOとして経営に当たり、ロイヤルHDをV字回復へ導いてこられました。その指針となっているのが「ロイヤルグループ経営ビジョン2020」(【図表2】)ですね。

 

菊地 業績回復のための改革が急務と判断し、社長就任半年後の2010年9月に策定しました。特徴のある事業が補完し合う有機的な集合体“ワン・ロイヤル”を構築するためのビジョンです。外食、コントラクト、機内食、ホテルという4事業を貫くキーワードが必要と考え、「日本で一番質の高い“食”と“ホスピタリティ”グループ」としました。

 

当社の経営基本理念には「ロイヤルは食品企業である」と記されていますが、ホテル事業にはそぐわないので「“食”と“ホスピタリティ”グループ」と翻訳し直したのです。

 

若松 四つの事業領域にまたがる経営コンセプトとして、非常に深く、本質的な価値ですね。私は経営コンサルタントとして、「経営理念は変えるのではなく、時代ごとに翻訳することが重要だ」と提言しています。翻訳のために熟考を重ねると、創業の精神や真の存在価値が浮かび上がってくるからです。

 

菊地 グループビジョンに続いて、四つの「目指すべき姿」を示しました。ここでは、“増収増益”という言葉をあえて入れてサステナブル(持続可能)な成長を掲げ、さらに社会的責任を果たして全てのステークホルダーに支持され、社員が誇りを持って働ける企業を目指すとしています。つまり、お客さま・従業員・株主・取引先という全てのステークホルダーにとってフェアな会社になると宣言しているのです。

 

この経営ビジョン2020に立脚し、中期経営計画「Fly to 2014」(2012~2014年)、「Fly to 2017」(2015~2017年)、「Beyond 2020」(2018~2020年)を策定。2012年から2017年の6期連続で増収増益を達成するなど大きな成果を上げることができました。

 

 

【図表1】 ロイヤルグループの主な事業セグメント

出典:ロイヤルホールディングスIR資料よりタナベ経営作成

 

 

【図表2】 ロイヤルグループ経営ビジョン2020

出典:ロイヤルホールディングス「ロイヤルグループ中期経営計画2018~2020『Beyond2020』」(2018年2月)

 

 

 

互いにリスペクトしワン・ロイヤルを目指す

 

若松 菊地会長は、天丼てんやを展開するテンコーポレーションを傘下に収めたり、大和ハウス工業との合弁事業であったリッチモンドホテルを買い取って運営会社のアールエヌティーホテルズを設立したりと、総合企画部長の時代から数多くのM&A(合併・買収)を実行されました。どのような視点から取り組まれましたか。

 

菊地 現在、ロイヤルHDは1377億円の売上高で58億円の経常利益を上げています。しかし、2000~2010年にM&Aを一切やらなかったら、売上高600億円で経常利益9億円の会社になっていたと推測されます。

 

当時はロイヤルホストへの依存度が高かったので、環境変化を踏まえ、バランスのとれた事業ポートフォリオを構築すべく2007年ごろまでに多くの会社を買収しました。探していたのは、ロイヤルホストとは異なる事業を展開し、ロイヤルグループと目指すものが共通化できる会社です。

 

社長時代に私が推進してきたのは「PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション:M&A効果を最大化するための統合プロセス)」と言えるでしょう。その時に使ったキーワードが「リスペクト」です。

 

PMIの肝になると思ったのが、譲り受けた会社を含む事業会社間の壁をなくすこと。そのためにはリスペクトし合う関係性が欠かせないと考えたのです。例えば、「てんやとリッチモンドホテルは互いをリスペクトすべき。それができなければ、お客さまからリスペクトしてもらえない」と啓蒙しました。

 

若松「リスペクト」とは良い言葉ですね。相手の立場を理解した上での共感がないと、リスペクトはできませんし、会社はOne(一つ)になりません。そして、それをトップが発信することに意味があります。

 

私も仕事柄、多くの企業支援を行う中で、不振企業や組織ほど「この事業部が悪い」「ここより私たちの方が上だ」「本業は私たちだ」と他責的になり、変えることができない過去を批判している人が多いことに気付きました。「グループ経営は一つであり、互いにリスペクトすること」という発信は、リーダーの大切な仕事です。

 

菊地 その通りです。リスペクトし合うことでワン・ロイヤルという有機的な一体感が醸し出されます。会社における関係も同様で、従業員をリスペクトする経営者は、従業員からリスペクトしてもらえる。一方通行は絶対にないと思います。

 

その上で、先ほど申し上げたグループコンセプトを基軸に、各事業のビジネスモデルを踏まえた戦略と組織、収益性をデザインして改革を断行しました。

 

若松 同じ外食でも、ロイヤルホストと天丼てんやではビジネスモデルが異なります。また、ホテル事業とコントラクト事業も似ているようで違います。それぞれをビジネスモデルとしてデザインしながらも「日本で一番質の高い“食”と“ホスピタリティ”グループ」というミッションは同じなのですね。