2020年1月号
世界3億件の企業データ提供会社であるビューロー・ヴァン・ダイクの調べによると、2018年の世界のM&A案件数は9万7709件(前年比6.8%減)、総額は5兆3037億ドル(同9.9%増)だった。総額は2015年以来3年ぶりに5兆ドルの大台を回復したが、案件数は3年連続で減少し、5年ぶりに10万件を下回った。(【図表1】)
【図表1】 世界のM&A件数・総額推移
大型案件は、ウォルト・ディズニーによる21世紀フォックスの買収(851億ドル)、武田薬品工業によるアイルランドの製薬大手シャイアーの買収(624億ドル)、米携帯電話3位のTモバイルUSによる同4位スプリントの買収(590億ドル)、米ケーブルテレビ大手のコムキャストによる英有料テレビ大手スカイの買収(479億ドル)など。世界の趨すうせい勢としては、ディールサイズ(取引金額)の大型化が進んだ一方、案件数はやや低調である。
案件数の国別構成比を見ると、米国(1万9386件、構成比19.8%)と中国(1万4743件、同15.1%)で全体の3割超を占める。次いでドイツ(6364件、6.5%)、英国(6218件、6.4%)、日本(3949件、4.0%)が続く。日本は案件ベースで世界5位の規模だが、個々のディールサイズが小さいため総額ベースの世界シェアは1.8%にすぎない。これはインド(2.0%)を下回る規模である。(【図表2】)
【図表2】 M&A活動の国別構成比(2018年)
ただ、近年の日本は世界の動向とは逆に、M&A市場が活況を呈している。レコフデータの調べによると、日本企業のM&A案件数は2018年に3850件(前年比26.2%増)と7年連続で増加。また2年連続で過去最多だった(【図表3】)。総額も29兆8802億円(同2.2倍)と過去最高を更新した。
【図表3】日本企業のM&A件数の推移
米投資家ブーン・ピケンズ氏による小糸製作所の株式買い占め(1989~91年)や「村上ファンド事件」(2006年)などのマイナスイメージが尾を引き、これまではM&Aに消極的な日本企業が多かったが、現在は様相が一変。2019年にソフトバンク傘下のヤフーがTOB(株式公開買い付け)によるZOZO(ゾゾ)買収やLINE(ライン)との経営統合を発表し、大いに話題を呼んだ。ようやくM&Aが企業の成長手段として注目され始めている。
株式や事業の譲渡に否定的な傾向が強かった中小・零細企業でも、M&Aを模索する動きが顕著だ。帝国データバンクの調べによると、企業約1万社のうち3社に1社(35.9%)が「近い将来(今後5年以内)にM&Aに関わる可能性がある」と回答。また51.5%の企業が今後のM&Aの必要性について「高くなる」と認識していた(【図表4】)。後継者不在の場合の事業承継手段として、M&Aへの期待感が高まっている。
【図表4】今後はM&Aの必要性が高まるか
中小企業庁の試算によると、2015~25年に社長の平均引退年齢である「70歳」を超える経営者数は約245万人、そのうち約半数の127万人(日本企業全体の3分の1に相当)が後継者未定だという。放置すると中小・零細企業の廃業が急増、約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性を指摘している(「事業承継2025年問題」と呼ばれる)。
そうした中、注目されているのがM&Aブティック(企業間の買収・合併の取りまとめを行う専門事業者)やM&Aプラットフォーム(売り手と買い手の企業マッチングサイト)だ。最近は後継者難の中小企業を、一般の人が老後の資産形成として300万~500万円で買収する個人M&Aも増えているという(【図表5】)。転職や起業ではなく、オーナー社長を目指すビジネスパーソンが意外に多いのだ。
数百万円の手元資金とスマートフォンさえあれば、インターネット通販で買い物をするように会社が買える。そんな「誰もが資本家になれる時代」が近づきつつある。
【図表5】個人が会社買収に興味を持ったきっかけ