地元密着の多角経営を支えるのは「人」
ヤスサキは1966年に衣料品スーパーマーケットとして設立し、福井県を中心として石川県にも店舗展開をする地元密着型の小売企業だ。同社の大きな特徴は、自社で培った衣料スーパーのノウハウだけでなく、食品スーパーやホームセンター、レンタルビデオ店などさまざまな業態のFC 事業を手掛けることによって多角的に展開し、地元に密着しながら、顧客のニーズをくみ取った店舗作りを行ってきたことにある。現在は食品スーパーの他、ホームセンター・100円ショップ・レンタルビデオ店などのフランチャイズ事業、衣料品販売の3業態を軸としながら、地元住民の生活を支えている。
ヤスサキの経営理念は「全てはお客様のために」。店舗に足を運ぶ顧客にいかに満足してもらうかを追求し続け、すでに設立50年の大きな節目を超えた。
以前は創業者(現代表取締役会長・安﨑政士氏)がカリスマ性を発揮して拡大をけん引してきたが、2010年に子息である安﨑昌治氏が代表取締役社長に就任して以来、組織的な経営を展開。役職にかかわらず、従業員全員が自ら積極的に考え、行動できる組織づくりを実施してきた。
小売業にとって「人」は、自社の付加価値や他社との差別化の源泉であり、重要性が高い。そのため、同社では「ES(従業員満足)なくしてCS(顧客満足)なし」を掲げ、従業員の待遇改善や教育・研修の整備に、日々取り組み続けている。
「ヤスサキ版働き方改革」でES向上を目指す
ヤスサキは今、「ヤスサキ版働き方改革」を推進している。継続的な売り上げ・粗利益拡大により生産性を向上させつつ、働きやすい職場づくりを目指すものだ。具体的には、15年ぶりに就業規則を抜本的に見直し、定年後の再雇用制度、パート社員の正社員登用など、社員が「自分にとっても家族にとっても働いて良かった」と実感できるような会社を目指す取り組みを強化している。
また、さまざまな資格や技能の習得に向けた研修や講座に対する補助も積極的に行っている。例えば、これまでは従業員が自己負担で資格試験などを受け、合格後に一定額を補助する方式だったが、今後は会社が人材育成に必要と認めた教育カリキュラムの場合、受講費も含め会社負担へ改善するという。
さらに、工場見学などを行い「自分たちが販売しているものがどうやって生み出されているか」を学ぶ機会を重視。直近では、精肉売り場のメンバーが食肉処理場を見学した。「売り場では見えない“川上の仕事”を知り、仕事に対する理解を深めてもらうのが狙い」と常務取締役の船津譲氏は語る。
研修で部門を超えてコミュニケーションが活発に
「継続的な成長を目指すには、『人』の成長が欠かせません」と安﨑氏が指摘するように、マンパワーが成長の要であるヤスサキが人材育成に力を注ぐのは、ある意味で必然とも言える。
研修の一環として、タナベ経営が主催する店長研修やバイヤー研修を始めたのは2008年のこと。それ以前にも他社の研修を受けたが、その実態は社員に圧力をかけ続ける厳しい内容であったという。船津氏は「厳しい研修は、その場では効果があるかもしれないが、その環境から解放されるとすぐに忘れてしまう」と感じ、タナベ経営には論理的な研修を求めた。
2008年に1度実施し、10年が経過した2018年にも再び店長研修とバイヤー研修を行った。安﨑氏は「10年たつと、学んだことを忘れてしまいます。体系的に整理し、店長が研修で学んだことを現場のマネジャーに伝えることが必要だと感じ、再びタナベ経営に依頼しました」とその経緯を話す。
人は、学んだことを人に伝えることで理解を深める。研修での学びを、かみくだいて部下などに拡散することで、より効果が高まるのである。実際、「今回の研修では、受講後に各店舗や現場で、学んだ内容を周囲に伝えた受講生もいた」と安﨑氏は笑みを浮かべる。
研修の前後では受講生の問題意識や現状認識、「気付き」のレベルにも大きな変化があるという。「研修によって、マネジャークラスは店長レベルへ、店長など幹部は経営層へと、1ランク上の知識やマインドを持つことを期待しています」と安﨑氏。一方で「人材育成はすぐに結果が出るものではない」とし、ある程度の時間をかけて人材を育成することが重要とも指摘する。
何より、「研修を通じて部門を超えたコミュニケーションが図られ、社内の風通しが良くなったことがメリット」と安﨑氏は言う。
事業を多角的に展開していると、それぞれの間に見えない「壁」ができてしまう。互いに同じフロアで仕事をしていても、他部門のことは分からないままだ。こうした職場環境でも、外部研修で共通のテーマで議論をする機会があると、交流が生まれるとともに、他部門のことを知り、それが会社として共通の目的を持つ一体感を生み出す。
安﨑氏は、これからの時代を担う社員に対し「これからも省力化・省人化には取り組まなければならない。しかし、人が携わる部分はなくなりません。判断や決断、創造、コミュニケーションは、人が担うべき仕事です。こうした能力をいかに高められるか、自分をいかに磨くか、そして、日々の仕事を通じて、地域の消費者にいかに貢献しているかを喜びとしていただきたい」と強調する。
AIやIoTが普及し、小売業界でも機械化が加速しているが、丁寧な接客や気配りといった“人間らしい仕事”が顧客に支持され、付加価値を生んでいることに変わりはないのである。
PROFILE
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- ㈱ヤスサキ
- 所在地:福井県福井市新保北1-303
- 創業:1966年
- 代表者:代表取締役社長 安﨑 昌治
- 売上高:238億円(2019年2月期)
- 従業員数:1643名(パート社員含む、2019年2月現在)
タナベ担当者より
「全てはお客様のために」を経営理念に掲げるヤスサキ。創業50年を超える同社で、安﨑社長は「ESなくしてCSなし」を念頭に日々取り組んでいる。
社員の成長を見据えた教育の充実に加え、大手チェーンとの差別化に向け、従来の「衣・食・住」に加えて「遊」「健康」をキーワードに既存店活性化を推進。移動スーパー「とくし丸」は地域見守り活動に協力するなど、高齢者の支援活動にも積極的だ。
「ヤスサキ版働き方改革」のもと、顧客の潜在ニーズを掘り起こし、社会貢献に関わるヤスサキの今後に期待が高まる。