小売店・商業施設で物販や個人向けサービスを行う店舗型ビジネスは、「待ちの商売」と呼ばれる。顧客が来なければ、売り上げは見込めない。これは事業の問題点ではなく、事業特性である。もし、それが会社のアキレス腱となるならば、自社の事業そのものが店舗型ビジネスに向いていないと考えなければならない。
従って、店舗を構える小売業やサービス業が売り上げを上げるために必要な資源(成長エンジンへの燃料)は、①ハードウエア(店舗・施設)、②人材(採用・育成)、③広告宣伝・販売促進の三つである。このうち①と③への投資について、それぞれの重要なポイントを述べていきたい。
ハードウエア投資のポイント
ハード面への投資においては、店舗(または施設)の設計コンセプトを明確にすること、そしてコンセプトと現場で行われるオペレーション(作業)との整合性が重要である。これを深く考えずに新設・増床や改装を行い、結果として無意味な投資になってしまうケースが多々見られる。
(1) 設計コンセプト
どの企業も、マーケティングやブランディングの観点から考察を重ね、店舗・施設のコンセプトを練っている。設備投資額が数千万~数億円に及ぶことも多い。そのため、第一歩となる設計コンセプトが一朝一夕に決まることはない。投資回収計画など定量的な施策から、経営者のビジョンに至るまで、ディスカッション内容の幅と深さは相当なものになる。
そうしたディスカッションを経て、経営者が社内に設計コンセプトを発信すると、一気に士気が上がる。「なぜ、そんなにテンションが上がるのか」と従業員に聞くと、「お客さまが来店して、私たちが接客する姿を思い浮かべるから」といった反応が返ってくる。
逆に、あまりはっきりしない設計コンセプトだと従業員の反応は薄い。自分たちが接客している姿を具体的に思い描けないため、反応のしようがないのだろう。ピンときていない従業員の間では、「そんなに予算を使っていいのか」「建てる意味があるのか」という議論まで始まる場合もある。
店舗や施設で活躍したいと願う従業員は、顧客と関わり合うことを望んでいる。とりわけ士気の高い人材は、「良い提案をしてリピート購買につなげ、顧客にとって唯一無二の店に成長させて業績に貢献する」という流れを理解している。そのためにも従業員の士気を高めるコンセプトが必須である。
経営者が自分の思いを込めてコンセプトを設計しても、現場から共感を得られなければ意味がない。従業員に届かないコンセプトは、コンセプト自体が存在しないのと同じなのである。
(2) オペレーションとの整合性
前述したように、店舗型ビジネスの基本は「顧客を待つ」ことだ。私は店舗・施設の良しあしを、この「待機時間」の活用度合いで判断する。そもそも“ 待つ” という行為は、顧客が来るまで休憩するということではない。準備を整えて接客機会に備える作業であり、購入や契約に至る過程の一つだからである。
大切なのは、この待機時間をいかに使うかだ。固定ファンが多く、新たな顧客も創出している店舗・施設の共通点は、この時間を活用して有効な商品提案方法の周知や接客レベルの向上などを追求している。つまり、どうすれば待機時間を“ 提案時間” に変えることができるかを研究し、生産性を上げている。
一方、業績が芳しくない店では、「待機時間=休憩時間」という認識がまん延している。「待機」できていないため、顧客が来店したときのあいさつはバラバラで、誰が接客に行くかをスタッフ同士でけん制し合う。売り場の人間関係の“ 序列” で最も立場が弱い(若い)スタッフが接客に対応するも、経験が浅いため購入につなげられず、バックヤードで先輩のスタッフが小言や嫌味を言う――。こんな店舗や施設の業績が上がるはずもない。
ハードウエアに投資した結果、店舗や施設への来店客数が増えていくことが最良である。だが、来店客数が増えても、買い上げ客数が減っては意味がない。例えば、集客強化を目的に店舗の大幅増床に踏み切ったものの、スタッフの新規採用を考慮しなかったため、売り場の人員不足と接偶レベルの低下を招き、対顧客提案がおろそかになるといった具合である。
かつて、来店客数の対前年比は、店舗・施設の実力を示すバロメーターであったが、現在は有効なシグナルではなくなっている。現在は、「顧客への提案件数(アプローチ数)」を重視すべきだ。
店舗・施設の設計コンセプトとオペレーションの整合性を取るという観点が必要である。コンセプトとオペレーションの整合性とは、換言すれば「舞台・演者・演技がマッチしているか」である。これがピタリと合っている店舗・施設は、顧客にとってもスタッフにとっても“ 居心地の良い場所” になる。
広告宣伝・販促投資のポイント
店舗型ビジネスでは、広告宣伝と販売促進(以降、広宣・販促)への資源投下が欠かせない。とはいえ、紙媒体やウェブ、SNSなどメディアは多岐にわたるため、売上高および営業利益に占める年間支出コスト比率は他業種に比べ際立って高くなる。
私がコンサルティングの現場で感じるのは、広宣・販促の金額や対売上高・営業利益比率に対する考え方が、非常に主観的な経営者が多いということだ。「多い、少ない」「意味がある、意味がない」「広宣・販促にお金を使わないから〇〇できない」などのタラレバ話まで、反応はバラエティーに富んでいる。
こうした反応を見るたびに、客観的な基準を定める重要性を痛感する。業種・業態により基準は異なるが、自社の広宣・販促費が“ 成り行き投下” になっていないかを検証いただきたい。
(1) 資源の投下基準は何か
店舗型ビジネスでの広宣・販促には、「やめることが怖くてやめられない」という本音と実態がある。これは顧客と向き合う現場の最前線(店長・支店長・所長など)だけではない。役員クラスであっても、情緒的な理由で例年通りの資源投下を決定することが多い。
以前、私もフードサービス業に身を置いていたので、広宣・販促費の予算を削減したり、やめたりすることへの恐怖感は理解できる。しかし、費用の垂れ流しを防ぐためにも、判断軸を確立しなければならない。
(2) 営業利益へリターンさせる
「広宣・販促に連動して来店があったか、なかったか」で費用対効果を測っている企業が多い。しかし、来店客数のみを判断軸にすると、「何人来たのか」だけが注目され、店舗の実態(何人買ったのか、何がよく売れたのか、利益はいくらだったのかなど)が置き去りにされてしまう。
広宣・販促費は、本業利益である「営業利益」にリターンさせたい。営業利益はオペレーションとの因果関係が明白だ。来店客数や買い上げ客数(利用客数)を最重要指標にすると、肝心な部分を見失う。
設計コンセプトをとがらせ、店舗・施設を作って形にし、そこでスタッフが活躍することにより業績はつくられる。来店客数や買い上げ客数(利用客数)の推移は、業績を上げる過程にすぎない。利益が上がっていない時点の数字だけで次の投下判断を行うと、成り行き投資を助長しやすい。投下した資源が回収できているのかという判断を現場に求める必要がある。例えば、「〇人が来店されました」から、「〇円の利益貢献をしています」という報告に変える必要があるということだ。
この判断軸を、他の指標とすり替えてはならない。また、指標の数を増やしてもいけない。さまざまな判断軸があると、広く薄く資源を投下することになり、重点がぼやけてしまう。
店舗型ビジネスにおける資源投下は、ハードの設計コンセプトをしっかりと立て、従業員に届くよう明確化し、オペレーションとの整合性を図る。そして、広告宣伝・販売促進費の投下基準を定め、利益貢献(営業利益)を測定することが重要である。