次の時代を生きる営業の在り方とは?:経営コンサルティング本部
ソリューションセールス時代の終焉
「御用聞き営業はダメ、これからの時代は『ソリューション営業』のスタイルが求められる」とちまたをにぎわせていたソリューションセールスだが、近年、その価値を失いつつあるといわれている。そもそもソリューションセールスとは、単純なモノ売りではなく、顧客が抱えている課題や問題点に対する解決策を提案し、それを実現する商品やサービスを販売するというもの。言い換えるなら、いくら自社製品の性能・品質・価格に自信があっても、顧客のニーズに合致していなければ意味を成さず、顧客の抱えている課題に対する解決策(ソリューション)を提案して初めて価値を発揮する、という考え方である。
顧客の“状態変化”
『ハーバード・ビジネス・レビュー』(ダイヤモンド社)2012年12月号に、「ソリューション営業は終わった」という見出しの論文が掲載され、インパクトを残した。「ソリューション営業の終わり」とは、顧客が「自社の課題のみならず、その解決策もすでに把握している」という状態変化が起こっていることから導き出されている。
この変化の最大の要因は、「IT(情報技術)の発達による情報収集スピードの向上」にあると捉えられる。論文によると、BtoB(企業間取引)の顧客1400社以上を対象に行った調査で、一般的な購買の意思決定(ソリューションの調査、選択肢のランク付け、要件の設定、価格のベンチマークなど)のうち、平均して60%近くを、サプライヤーと話をする前からすでに完了させていたという。
ITの発達により、顧客はいつでもどこでもスピーディーに正確な情報をつかみ、私たちが提案するより先に、十分な検討材料を持ち合わせているのである。このような状態の顧客にソリューション提案型営業のアプローチを試みても、商談の成約にはつながらないだろう。
インサイトセールスの時代へ
ソリューションセールスに代わる新しい営業スタイルとして、「インサイトセールス」が台頭してきている。インサイトとは「洞察・見識」を意味し、インサイトセールススタイルとは「顧客すら気付いていない課題を見つけ、顧客と合意する営業プロセス」を指す。
ある老舗食品メーカーA社の営業担当者は、卸先の店舗(GMS/総合スーパーマーケット、SM/食品スーパーマーケットなど)へ自社商品を提案する際、季節・催事に合わせて担当バイヤーや消費者の声・要望を聞き入れ、商品提案に反映していた。
しかし、従来はこの流れでスムーズに決まっていた商談が、近年は決まり難くなってきたと嘆く。業界をリードし、商品力で優位に立っていながら、価格勝負に陥る傾向となったことで、品質が良く、付加価値の高いA社商品は、従来のやり方では商談を思い通りに進めることが難しくなってきたのである。
ITの発達に伴い、世の中の全ての企業が変化の渦中にあるが、その変化を把握し、先手を打って新しい営業スタイルを身に付けていくことが求められる。この新しい営業スタイルが、「インサイトセールス」と呼ばれるものである。
顧客すら気付いていない課題を見いだす
「顧客は私たちの提案前から、すでに検討材料を持っている」と先に述べた。顧客が課題を明確にし、解決策までを特定しているケースが増えている中、顧客自身すら気付いていない課題を見いだすことは困難を極めるように思われる。しかしながら、企業内にいると自社の組織が見えづらいものだ。顧客自身が自社の課題を客観的に、俯瞰的に観察し、課題を漏れなく抽出しきることは容易ではない。つまり、かなりの確率で「未知の課題」が存在する。
ソリューションセールスの手法では、「帰納法的に決められたゴール=自社ソリューションによる課題解決」から逆算してヒアリングを行う手法がポピュラーだが、インサイトセールスでは顧客の客観的事実から課題を探していくスタイルとなる。この2つの営業スタイルの違いについて、前述した『ハーバード・ビジネス・レビュー』では【図表】のようにまとめられている。
【図表】営業担当者のための新しい営業ガイド
インサイトセールスにおいては、「いかにうまく課題を聞き出すか」ではなく、「いかに顧客を指導できるか」に重点が置かれていることが分かる。
では、具体的にどう取り組むべきか?押さえるべきポイントは次の3点である。
(1)経営理念やビジョンの実現イメージを持つ
顧客の持つニーズをそのまま受け取るだけでは、「顧客すら気付いていない課題」を見いだすのは難しい。それを見つけ出す一つのアプローチが、経営理念やビジョンの理解である。経営理念やビジョンを実現するためにはどうすべきか、という視点を持ち、その過程でニーズに合わせてアイデアを創り上げることが、顧客の真の課題解決につながる。
(2)業界・市場の動向を把握し、気づきを与える「仮説と判断」
いまだ表面化していない課題を顧客自身に認識してもらうためには、業界や経済市場の動向を把握し、それらを踏まえた「仮説と判断」によって顧客を導くことが求められる。顧客の周囲を取り巻く環境についての知識・情報を集め、そこへ顧客に関する情報を積み重ね、問題の仮説を再構築する作業サイクルを繰り返すことで、仮説の精度を高めていく。
(3)訓練――営業ロールプレーイングによる強化
基本的な訓練ではあるが、現に営業力の高い企業は、ロールプレーイングを日常茶飯事のように実施して成果を上げている。この訓練により、客観的な事実の収集や合意形成、顧客へ「伝える力」を磨くことで、効果的な営業スタイルを創り上げる。
現状は、「ソリューションセールスが最大限の成果を上げる手段である」と位置付けている企業もあるだろう。しかし今後、加速度的にテクノロジーが進化し、同時に破壊的イノベーションも進む中、AIやIoTが台頭して「営業」という仕事がなくなるとまでいわれている。そうした時代で生き残るためにも、インサイト営業への取り組みは避けて通れない道であると言えよう。