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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2019.04.26

若手人材の定着と成長のポイント:盛田 恵介

 

若手が残らない、育たないという課題

この時期、多くの企業では、4月入社の新入社員導入研修に取り組みつつ、同時に来期に向けた採用活動へ着々と準備を進めている頃である。人材獲得競争が激化している中、無事に新入社員を迎え入れて安堵する経営者も多いだろう。

しかし、注意していただきたいのは、採用した若手社員の面倒をしっかりと見て、定着・活躍させていくことである。

厚生労働省の「雇用動向調査」(2017年)によると、20~24歳の離職率は男性が25.8%、女性が27.3%と、19歳以下に続き高い数値を示している。よく「新人は3カ月か、3年で辞める」と都市伝説のようにいわれるが、あながち間違いではない。その原因は人間関係や仕事内容、賃金への不満などさまざまである。

苦労して採用した若手社員が定着し、活躍してもらうために何か手を打っているだろうか。私はここ数年、さまざまな業種・業態でアカデミー(社内大学校)の設立支援コンサルティングを手掛けており、特に若手人材の早期育成・定着に携わっている。本稿では、その経験の中で得た育成のポイントを紹介していきたい。
 

若手人材の成長を促進させる4つの要点

(1) キャリアビジョンを明確にせよ

人事制度の再構築や採用強化を行う上で、自社の理念・ビジョン・方針を実現する「求める人材像」(人材ビジョン)をあらためて明確にする企業が多く見受けられる。だが、抽象的かつ期限・職種に関係なく設定されているため、3年後、5年後、10 年後に理念やビジョンがどのような姿になっているのか、具体的に落とし込まれていない。従って、社員は何を目指して頑張ればよいのかがよく分かっていない。

アカデミーの設立支援コンサルティングでは、人材育成の最も根幹部分である「年次ごとに求める人材像(人材ビジョン)」を示すことにこだわっている。ある建設会社では、「技術職は3年目で現場代理人になる」という人材像を示し、さらに具体的なイメージを持ってもらうため、どれくらいの物件を担当できるようになるのか、案件名・物件の規模(金額)まで明示化している。

定性面・定量面の双方を押さえることが、キャリアビジョンを描く上で重要なポイントである。

(2) 部門・拠点・先輩任せから脱却せよ

ある製造会社に、人材育成についてヒアリングを行ったところ、教育制度の体系図を見ながら「階層別に新人から幹部クラスに至るまで、満遍なく教育を実施しています」と説明を受けた。

そこで私は、「階層に応じて必要な知識・スキルを高めることはよいが、実際に各事業部・職種で必要とされる知識・スキルを高める仕組みがあるか」を尋ねたところ、「現場に任せています」との回答であった。

教育制度の体系図を見ても、「OJT」と記されているだけである。何を教えているのかと聞いても、具体的な回答は得られなかった。さらに、「教えている人は優秀な人材ですか」と問うてみたが、「現場の先輩社員が教えている」と言うだけであった。

ある卸売会社に至っては、新入社員が営業の進め方を会社から教わることはなく、先輩社員と同行して学ばせるのだという。結果として、一人前になるまで多くの時間を要している問題点が明確になった会社もある。

このように人任せで育成していくと、成長させるために時間を要し、かつ指導をする先輩の知識・スキルに多くが委ねられることから、若手社員の成長にばらつきが出てしまうという問題があった。

従って、部門・職種ごとに必要とされる知識・スキルにおいても、教えるべき人が教えるという仕組みの構築が必要であると言える。

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(3) 若手視点に立った「学ばせ方」を工夫せよ

教育といっても、講師・ファシリテーターがいる社内研修・勉強会や外部研修、実際に手を動かして教える実地(ハンズオン)研修、主体的に経営・部門課題を解決する「プロジェクト」など、“ 学ばせ方” は多様である。

もちろん、それらが悪いと言いたいわけではない。私がここで提言したいのは、最近は若手から子どもに至るまで、動画サイトから知識を吸収し、分からないことを学んでいる傾向があることに着目してほしいという点である。

私自身も、休日に料理を作る時は、以前であれば必要な食材や作り方を本で学んで調理をしていたのが、最近では動画サイトを見て作っている。簡潔で分かりやすいところがいい。小学1年生の娘も、動画サイトを見て欲しいものを発見したり、スマートフォンのゲームの攻略方法を学んだりと、学びの手段が動画になっている。

ある企業は、吸収してほしい知識やスキルを動画で見せて、手で動かす・体を使うことは実地研修にするなど、インプットとアウトプットのバランスをとり、学ばせ方に工夫をしている。動画は繰り返し確認できるため、必要に応じて復習できるメリットもある。今の若手視点に立ち、働き方改革時代に合わせた学ばせ方に工夫することが重要である。

(4) 育成体制・指導役を明確にせよ

制度や仕組みに共通して重要なポイントは「運用」である。方針や人事制度においても、運用面でキーパーソンになるのは部門責任者や考課者であり、役割・責務を明確にする必要がある。それに応じてスキル・能力を高める研修(幹部研修、人事考課者研修など)も多くの企業で行われている。

一方、人材を育成するための体制はどうだろうか。部門の上長に育成を委ねたり、「メンター制度」(上長とは別に先輩社員が指導・相談役としてサポートする制度)を設けて若手をフォローしたりするものの、「活躍させる」視点には至っていないのではないだろうか。

ある飲食会社では、経営会議の中で人材成長に関する報告(教育の実施状況や習得しているスキル状況)を義務付け、会議で出された対策はすぐに実施させている。若手を成長させる責任者は誰か、指導役は誰かを明確にして、人材育成強化に努めていただきたい。
 

若手人材の育成により、定着化と戦力化を実現

前述した4つのポイントを具現化させるには、経営者自らが人材育成に対する思いを社員に語り、自らプロジェクトを組成して、推進することが何よりも大事である。実際、採用活動においては、会社説明会への参加から面談、選考に至るまで、経営者が深く関わる企業も増えてきた。

しかし、そうして苦労を重ねてやっと採用した若手人材を、すぐに退職させてしまう結果に終わらせるのはもったいない。仕組みとして若手人材の成長をサポートし、定着化・戦力化まで面倒を見ることが、企業としての責務であろう。

 

 

 

 

PROFILE
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盛田 恵介
Keisuke Morita
2001年タナベ経営入社。SP(セールスプロモーション)部門にて営業経験を積んだ後、コンサルティング部門へ異動。セミナー責任者を経てコンサルティングに携わる。現在は、中堅・中小企業の次世代経営幹部育成や営業戦略構築から営業力強化に至るまで一貫してサポートし、業績アップに向けて日々、クライアントと共に戦っている。モットーは「顧客創造なくして、企業の成長なし」。