若手営業パーソンが「25歳の壁」を乗り越えるための3つの習慣:本間 貴大
【図表】離職率の推移
今どきの若手営業
「入社4年目の営業X君が辞めてしまった。昨年から今年に入って若手はもう2人目だ。どうも若手がうまく定着しない」。そう語るのは、不動産仲介業A社の社長。X君に退職してしまった理由を聞くと、「営業として活躍できるイメージが湧かず、自分に向いていない」とのことだったそうだ。
また、小売業B社の営業部長は「今どきの若手は何を考えているのかさっぱり分からず、自分の部下育成や指導方法に自信をなくしてしまう」と、ため息をつきながら語ってくれたこともある。
かく言う私自身も、26歳の時に転職を決意した。まさに“今どき”の若手営業だったのかもしれない。しかしながら、今どきの若手営業パーソンは、決して仕事ができないわけではなく、むしろ成長意欲は高い。もっと言えば、本人の営業に対する習慣を変えることで大きく飛躍する可能性を秘めている。
そこで今回は、若手営業パーソンの「25歳の壁」と、それを乗り越えるための3つの習慣について、私自身の経験も交えて述べていきたい。
若手営業パーソンの「25歳の壁」
唐突であるが、離職に関して、新卒は「3年以内に3割離職する」といった話をどこかで耳にしたことがあると思う。
私がさまざまな企業に訪問をすると、今どきの若手に対して「ゆとり教育が影響している」「昔に比べてバイタリティーが足りない」といった意見を聞くことがある。中には、離職率が高いのも「今どきの若手だからだ」と強い口調で述べる経営者もいる。
しかし、意外なことに、実はこの「3年以内3割離職」状態は、10年以上も続いている※1のである。厚生労働省が発表している「雇用動向調査」をタナベ経営でまとめた【図表】を見ると、直近10年間の大卒3年以内の離職率は、平均30%前後であることが確認できる。
また、参考までに販売従事者(営業職)離職率を算出してみると、2007(平成19)年には19.0%、直近の2016(平成28)年には14.0%と推移しており、全職種離職率よりもやや高い傾向にあった。大卒3年目までの離職率と、営業職の離職率から、私はここに「25歳の壁」が存在していると考えている。
では、具体的に25歳の壁とはどういった“壁”なのか。私自身の経験やさまざまな企業の若手に対して行ったヒアリング結果から分析してみると、若手営業パーソンの25歳の壁は次の3点となる。
(1)失敗を恐れ、周囲や環境に責任転嫁してしまう(悪い「慣れ」から起因する営業マインドの低下)
(2)何も戦略を考えず、行きやすい訪問先ばかりに行く(不安定な業績)
(3)顧客第一と言いながら自分本位の商談になってしまう(仮説構築力・ニーズ嗅覚力の不足)
(1)と(2)は、大多数が陥るパターンだ。特に注意したいのは、目標達成率7~8割をマークし、ある程度の結果を残せている若手営業パーソンである。器用さゆえに失敗をしない業務のこなし方・コツに慣れてしまっており、失敗しないことが営業であるという潜在意識を持っている可能性がある。
失敗に関して、元野村證券トップセールスパーソンの津田晃氏が、著書の中で「失敗をしたくないから行動をしない。これは営業にとって一番危険な考え方」※2であると述べているほど、営業にとって失敗は大切なものである。
余談であるが、私自身も新卒から1年間、上司と週4日間、同行営業で全国を飛び回る中で上述した3点について口酸っぱく、そして言葉通り箸の上げ下げまで厳しい指導を受け、何度も失敗し、お客さまから叱咤を受け、壁にぶつかってきた。
※1 出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」
※2 津田晃著『伝説の営業術――元野村證券トップセールスが教える』(プレジデント社)
若手営業が「25歳の壁」を乗り越えるための3つの習慣
若手営業パーソンが「25歳の壁」を乗り越えるためには、次の3つの習慣を身に付けるとよいだろう。
(1)毎年、自分にしかできない目標を設定する(自身の提供可能な価値×価値提供可能な顧客の数=最大化)
(2)顧客との商談は、事前にゴールの仮説設定を行うだけでなく、“お土産”を用意する
(3)自身の営業活動を“見える化”する
(1)とは、現時点の自身のレベルを把握した上で、最も多くの顧客に最も自身が価値を提供できる場を設定することである。例えば、前述した不動産仲介業A社の入社4年目の営業パーソン(関東・小売店舗主担当)を事例とした場合には、次のような考え方が可能である。
駅前立地小売店空物件〇〇件×関東本社小売業売上高50億円以上の330社=最大化
このように会社から求められる最低限の能力を基礎としつつ、自身の提供可能な価値(情報)を、具体的にどれだけの顧客に提供できるかを明確にすることが重要だ。
(2)に関して、“お土産”とは、次回のアポイントにつながる情報提供を指す。例えば、私が訪問しているサービス業C社の社長は、新規取引先と自社の受注の話をする前に雑談で必ず困り事をヒアリングし、自身ができる最大限の誠意(企業・取引先紹介など、C社社長はこれを「愛ある行動」と表現)を見せるそうだ。そのようにして関係性を築き、創業15年で取引先を1200社(うち上場企業200社)まで広げることに成功した。
(3)はタナベ経営でも実践しているが、営業パーソンの行動時間における各行動(商談、移動時間、会議、在社時間など)の占める割合を算出し、業績を上げるための行動最適化につなげるというものである。
これまでに述べた3つの習慣を心掛け、私自身、新卒入社3年目から約1年で新規訪問先を120社開拓することができた。
「25歳の壁」は、目の前にすると大きくそびえ立つものだが、ちょっとした習慣を変えるだけで乗り越えることができる可能性が高くなる。そして壁を乗り越えれば、大きく業績につながる可能性を秘めている。習慣を見直す機会をつくってみてはどうだろうか。