営業の生産性を高め、業績を向上させる:石丸 隆太
「営業強化」は企業の永遠の課題
いつの時代も、「営業を強化したい」と考える経営者は数多い。“営業は永遠の課題”だと言っても過言ではないだろう。
私自身、営業のコンサルティングを生業にしているため、企業の経営者や管理職から営業に関する課題や不満を多く聞く。その中で、「○○(営業社員の個人名)はダメだ」という声をよく耳にする。
「では、なぜダメなのですか」とヒアリングを行うと、「提案力がない」「ヒアリング力が足りない」「訪問しない」という返答が大半である。「なぜ提案力がないのですか」「ヒアリング力が足りないのですか」「訪問をしないのですか」とさらに質問をしていくと、「能力がない」「やる気がない」といった結論に落ち着く。
ちなみに、こうした結論を出す企業が選ぶ“最善”の対処法と言えば、「辞めさせて、新しい営業社員を雇う」だ。まったくナンセンスである。こんなことを始めた暁には、SNSで世間に拡散されて人が集まらない企業になってしまう。
では、問題を抱える営業社員に対し、企業はどう対処をすればよいのだろうか。
私の経験上、その多くの場合は、提案力やヒアリング力という以前に、そもそも適切な営業活動を展開できていないケースが多く見られる。そこで今回は、営業の基本である「行動×成果」に焦点を当て、営業生産性を高めるためのデータ活用について述べていきたい。
営業生産性の視点から考える
営業生産性とは、どれだけの行動で、どれだけの成果を得られたかである。
これは言い換えれば、限られた労働時間内で営業活動時間を最大化し、最大化した営業時間内でどれだけ多くの売り上げを上げられるかということだ。それを計算式で表したものが、【図表1】である。
つまり、「営業効率×営業稼働率」の掛け算が営業生産性となる。分析方法としては、営業活動における代表的な行動である「商談」「商談先までの移動」「営業会議」「見積もり作成」「その他書類作成」などを分類し、営業の稼働データとして15分刻みに記録し、データ化すると総労働時間と営業活動時間が算出可能になる。これらをマッピングしたものが【図表2】である。
算出したデータを基に、部署や営業担当者をマップ内に入れる。すると、営業生産性が低い場合、原因は効率の問題なのか、稼働率の問題なのかが見えてくる。
実際に私がコンサルティングを行ったA社の事例を紹介したい。A社では当初、営業活動の課題について「営業活動はしっかりやっているが、提案力が不足している」という認識であった。しかしながら、営業担当者に個別面談を行い、ヒアリングを重ねたところ、実際は「顧客に対する営業時間が取れていない(営業活動がしっかりと行えていない)」という、逆の結論に至った。
そのため、営業担当者ごとに活動時間データを分析したところ、営業時間の半分を「配送」が占めており、外出はしているが商談時間を捻出できていなかった。要するに、稼働率に問題があった。
また、分析する過程で、売り上げが上がらない顧客へ月に複数回行くなど、無駄な活動が多発していたことも判明した。そこで、配送業務の見直しに加え、顧客ごとの適正訪問数をルール化し、有効な営業活動時間を増やした。その結果、毎月の営業実績が前年比で10%以上伸びたのである。
データ活用における留意点
データの活用においては、あくまでも営業担当者が記録しなければならない点を留意していただきたい。細かいデータであればあるほど分析がしやすい。
ただ、データ分析を重視し過ぎたあまり、営業担当者はデータを記録することが活動の目的となってしまい、本来の目的である「業績を上げること」への意識が消え、業績が落ちるケースも散見された。
取得するデータについては、営業担当者との面談や、既存データを基にした仮説を立てた上で、範囲を絞り、何のデータを新たに取得する必要があるのかを明確にしなければならない。
余談だが、米国の大リーグでは2015年からドップラーレーダーと複数の光学高精細カメラを使用して、グラウンド上の選手やボールの位置と方向、速度などを計測し、それらのデータを記録・分析・数値化する「スタットキャスト」が導入された。分かりやすく説明をすると、「野球におけるプレーの数値化」である。
数値化した結果、従来は「フライは打つな、ゴロを打て」(転がして打った方がヒットの確率は高い)が打撃の基本だったが、今は「ゴロは打つな、フライを打て」(実際はボールを打ち上げた方が長打の確率が高い)という指導法に切り替わり、ホームランバッターが続出した(フライボール革命)。このように、数値化によって常識が覆され、成果を生み出す例もある。
顧客にアプローチを行わずして成果は生まれない。最近はインターネットを介したプル型営業に注目が集まっているが、それは自社の商品や技術、サービスが明確に差別化されている場合に効力を発揮する。他社との競合が激しい企業においては、どうしても価格競争に陥りやすい。やはり営業の基本は対面であり、売り上げと直結する有効対面数をどれだけ増やせるかが、営業生産性を高めるポイントである。