「5S活動」が定着すると企業は変わる:内田 佑
【図表1】5Sに取り組んでいる「ように見える」未定着企業の特徴
5Sが定着しない企業の特徴
私はさまざまな業界の企業の工場を見る機会がある。そうした中で、「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)に取り組んでいる“ように見える”企業を多く見かける。「ように見える」と表現したのは、5Sが単なる清掃活動になっており、企業の「文化」として定着していないからだ。
5S活動は工場にとって基本中の基本なのに、なぜそのようなことになるのだろうか。5Sが定着していない、または取り組んでいる「ように見える」企業には、次に挙げる4つの共通点がある。(【図表1】)
私は工場で5Sの定着度合いを測る場合、まず「何のために5Sをしているのか、それぞれの定義は何か」を社員の方々に尋ねる。その問いに対して返答がなければ、5Sは定着していないと判断している。
皆さんも一度、社員に問い掛けていただきたい。5Sが定着しているように見えても、その問いに明確な返答がなければ、実際は定着していないと疑ってかかった方がいいだろう。
5S活動を工場だけが実施している企業も多い。5Sがその企業の風土として定着している企業は、工場だけでなく事務所においても積極的に取り組んでいる。
また、5S活動の仕組みやルールが明文化されていない企業の場合、現在取り組んでいても、社長が代わる、工場長が代わる、新入社員が入社してくる、といった環境の変化があれば元に戻ってしまう。そんな状態では、5S活動が「社風として根付いた」とは言えない。
5S活動が文化になっている企業は、たとえ環境が変わっても、5Sが徹底されているものである。
5Sの真の目的
では、どうすれば5Sが「社風として根付く」のだろうか。そのためには、「何のために5S活動をするのか」という目的を、全員が理解することが重要だ。
5Sには、生産効率の向上、品質向上、安全活動の推進、原価低減などさまざまなメリットが挙げられるが、タナベ経営では特に、次の3つを大きな目的として掲げている。
1.リーダー人材のリーダーシップの向上
2.良好なチームワークづくり
3.自主・自律・自発的な社員(スタッフ)の育成
5S活動を通じ、リーダーがリーダーシップを発揮して、チームワークが醸成されていき、ルールを守り自発的に動く社員が育つことで、生産性の向上、品質の向上などが実現するのである。
5Sを単なる清掃活動と捉えている社員が多くいる状態では、そもそも5Sの重要性を理解できていないため、改善も進まず、活動が定着しない。まずは目的を共有することから進めていただきたい。
目的を共有した後、5S活動を定着させていく上で重要なポイントは次の通りである。(【図表2】)
(1)工場や特定部署だけでなく全社で取り組む
工場や特定部署だけで5Sに取り組むと、そこで働いているスタッフたちは「なんで、自分たちだけさせられるのか」と考える。他部署や本社に行くと事務机の上は汚れており、棚の中をのぞけば整頓されていない書類が無造作に置かれている。こんな状態で、スタッフたちはモチベーションを保てるだろうか。
どこの部署も一生懸命、5Sに取り組んでいるからこそ、「自分も頑張ろう」と考えるのだ。「社長室は別」「経理は扱う書類量が多いから難しい」など、聖域をつくるべきではない。社長や役員が自ら率先して自分の周囲や担当エリアで5S活動を進めれば、社員に本気度が伝わり、活動が定着していく。
(2)エリアを分け、それぞれにリーダーを設ける
リーダーのリーダーシップ向上が、5Sの真の目的のひとつである。多くの社員にリーダーシップ発揮の機会を与えるため、担当エリアを分け、そのエリアごとにリーダーを設けて、権限と責任を渡すようにすることが重要である。
また、各々のリーダーに全てを任せるのではなく、「5S委員会」という組織を設けて、月に1回程度、リーダーが集まり、5Sの進捗具合の発表などを行うこと。それが刺激となり、5S活動が進みやすくなる。
(3)基準を設ける
基準のない5S活動は、結局、元に戻ってしまう。元に戻ることのないよう、特に、整理・整頓・清掃(3Sと呼ばれる)のそれぞれに基準を設けることが重要である。この際にも、“聖域”をつくらないことが大切だ。例えば、工場であれば工具箱の中、事務所で言えば机の中など、全てにおいて基準を作り、それを守らせることが肝要である。
(4)整理を徹底的に実施し、まず景色を変える
5S活動を進める大きなポイントとして、私は整理の徹底を挙げたい。すなわち、整理基準を定め、不要・不用なものを徹底的に捨てて景色を変えることで、社員は初めて達成感を得ることができる。その後は整頓も進みやすい。
捨てたものを1カ所に集め、成果が目に見えるようにする工夫なども、社員の意識の変化に役立つ。
(5)継続フォローの仕組みづくり
5S委員会とは別に、社長が全エリアを視察する「5Sパトロール」などを設けることも、5Sの定着に役立つ。タナベ経営が5S定着の支援を行う場合は、5Sパトロールを実施し、各エリアの5S状況を点数化する。その点数を全体発表することで、エリアごとの競争心を芽生えさせる。
すると、点数の高いエリアの社員は自信をつけ、さらに5S活動に励む。一方、点数の低いエリアからは、「もっと頑張って他のエリアに勝ちたい」とリーダーにプレッシャーをかける社員が出てくる。
このようにして、5S活動に対し全員が興味を持つような仕組みを作ることで、5S活動の定着が実現する。
5S活動が真の意味で定着すると、現状の多くの課題が改善に向かう。もしくは、改善の糸口が見えてくる。今まで5Sに取り組んできた企業においても、一度、自社の5Sについて見直しを図り、5S活動に取り組んでいる「ように見える」企業から、企業文化として根付いている企業へと転換を目指してほしい。