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コラム
TCG社長メッセージ
タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
コラム 2018.12.27

トランスフォーメーション戦略。変わる未来へ、1ページから始めよう:若松 孝彦

 

明日は、今日の延長ではない――。
産業構造や価値観の急速な転換が訪れている「ポスト2020」に「10年後も安泰」と言える企業が、果たしてどれくらいあるだろうか。2019年は「未来への物語」の「章立て」が変わる年になる。古いものを復活させるのではなく、新しい会社へ「変身」することで未来の社会、顧客、社員から「共感」される「フューチャービジョン2030」をつくろう。

 

 

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バックキャスティングでリーダーシップを発揮

 

2019年4月に平成が終わり、5月から新たな元号になります。私たちの「新たな章」が、まさに1ページから始まるのです。これまで提言してきたように、「ポスト2020の本質」は今の延長線上にある好景気の反動ではなく、「価値観の大転換」という地殻変動が起きることが本質です。

 

タナベ経営の創業者・田辺昇一は、「経営者には、望遠鏡と顕微鏡の両方の目が必要だ」「目は遠くの山を見ながら、手は卵を握るが如し」と言っていました。今ほど、望遠鏡と顕微鏡の両方の視点が必要な時代はありません。価値観が大転換する時代は、マネジメントよりもリーダーシップが求められる時代です。事故なく運転するマネジメント能力以上に、望遠鏡と顕微鏡を駆使して、道なき道を切り拓いていく「リーダーシップ」が求められます。

 

2019年に提言する「トランスフォーメーション戦略」を一言で表現すると「会社まるごと変身戦略」。「顕微鏡」の目で2020年までを見つめ、「望遠鏡」の目で、2030年から2020年を見る。顕微鏡で見ると「厳しい現実」も見えます。だからこそ、望遠鏡をのぞいて、2030年から逆算的視点=バックキャスティングで会社を見つめ、経営理念以外は全て変えるほどの決断と実行を伴うリーダーシップが、今、求められています。

 

「共感の経済」へ転換するプッシュ型からプル型企業へ

 

2019年以降に、「5つのポスト」が訪れます。①「働き方改革法」の施行、②ポスト平成、③消費増税、④東京オリンピック・パラリンピック、⑤アベノミクスの終わり。このようなポスト経済下における変化の本質は、「価値の転換」にあります。価値の転換は、企業を評価する「ものさし」が変わることも意味します。「経済性より社会性」「スケールよりクオリティー」「労働量より生産性」「競争より共生」といったように、これからの企業に対する社会的価値を再認識しておく必要がありそうです。(【図表1】)

 

【図表1】これからの企業に対する社会的価値

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2019年は、東京オリンピック・パラリンピック開催前年の経済成長ピーク、消費増税による駆け込み需要という「山」が訪れます。そして2020年以降における五輪景気のピークアウトと、駆け込み需要の反動減による「谷」が訪れることが予測されます。2020年以降の未来を悲観的に捉えて、その谷に備えることは大事ですが、それだけでは未来の成長はありません。先般、「大阪万博2025」が55年ぶりに決まりました。今こそ、あらためて長期的視点に立った戦略を構築する必要があるのです。(【図表2】)

 

【図表2】2030年の環境まとめ
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デジタルトランスフォーメーションによる産業構造の変化や社会と個人の価値観の変化は、今まで主流・主役であったビジネスモデルや商品・サービスを覆していきます。すなわち、競争戦略でライバル企業に勝利するのではなく、まったく異なった視点で主役に躍り出ることを可能とするのです。

 

価値観の変化に伴い、社会はプッシュ型からプル型へと変化しています。プッシュ型とは、企業が主導で、ユーザーの意思にかかわらず企業側のタイミングで技術やサービスを提供するものを言い、プル型とはユーザーの「共感」を得ながら能動的にそれらを繋ぐ活動です。例えば、ある食品メーカーは、ターゲット顧客である子ども向け工場を建設し公開。年間2万人の親子を集客し、共感を得て、ファンを繋ぎ、拡大しています。

 

あるハウスメーカーは、「宿泊できる展示場」を建設。顧客に住宅を体験してもらい、ブランドや品質に対する共感を集めています。しかも、この宿泊型展示場には営業社員がいないのです。さらに、採用活動もプル型へ移行しています。ある建設会社では企業内大学の設立や働く環境を整えた人事制度を構築し、採用ホームページにそれらの内容を発信しています。それらの先進的活動が評価され、国や業界からの賞を受賞。結果的に業界の常識を超えた優秀な人材を採用することに成功しています。

 

プル型企業とは、私たちが提唱してきた「100年先も一番に選ばれる会社 ファーストコールカンパニー」になることでもあります。プル型企業に共通しているのは「共感を繋ぐ」技術です。選ばれる理由や価値をまるごと変身させていきましょう。

 

 

世界経済の循環的変化
貿易摩擦に警戒が必要

 

次に、2019年の世界経済について確認しておきましょう。IMF(国際通貨基金)によると、2018年の世界の実質GDP(国内総生産)成長率は3.7%。先進国、新興国・途上国ともに成長を遂げています。2019年も同程度の成長を維持する見込みですが、先進国については、米中貿易摩擦の影響で景気の鈍化が予測されています。地域別にGDP成長率を見ると、2019年の世界全体の予測成長率は3.7%、先進国が2.1%(2018年は2.4%)、新興国市場および途上国・地域は、4.7%(横ばい)となっています。

 

成長のけん引役が先進国から発展途上国や新興国へと代わり、多極化・多様化が進んでいます。IMFのデータを見ると、アジアとアフリカの成長率の高さが目立ちます。また、中国の名目GDPが、世界のGDP(約80兆ドル)の15%を占めるまでに拡大しています(2017年)。しかも、OECD(経済協力開発機構)が発表した購買力平価GDPランキングを見ると、購買力平価の米ドル換算では、2017年時点ですでに中国が米国を抜いて世界1位になっているのです。「米中の新しい冷戦の時代」に突入したと言えます。

 

足元が堅調な米国経済も、2019年は減速リスクが高まるでしょう。トランプ政権の公約の一つであった税制改革法案の成立が内需を後押しし、現在は堅調に推移していますが、IMFでは、大型減税効果は一時的であり、またFRB(米連邦準備理事会)の金融引き締めによる景気下押し圧力も加わると指摘。2020年以降に実質成長率が大きく減速するとの見方を示しています。後述する保護主義政策に端を発する貿易戦争拡大のリスクも高まっており、?国の動向に警戒が必要です。

 

2つ目のリスクは、長期金利の上昇です。個人消費を減速させるリスクにもなるからです。すでに?国では減税による家計の恩恵を帳消しにするほど住宅ローン金利が上昇しているともいわれていますが、行き過ぎた金利の上昇は?国経済を圧迫するだけではなく、新興国からの資金流出などにより世界経済に混乱を招く恐れもあり、金融政策では慎重な判断が求められます。

 

回復基調の欧州も、不透明感は拭えません。ユーロ圏経済は、ECB(欧州中央銀行)が2015年に導入した金融緩和による好調な内需と世界経済に支えられ、経済回復が遅れていた南欧諸国も含め堅調な拡大が続いています。2017年の主要国の実質GDP成長率は軒並み1%を上回る水準となり、ユーロ圏全体では通年で2.4%増と前年を上回りました。これに伴い、失業率もスペイン、ギリシャなどをはじめ軒並み改善を見せています。

 

EUを含めた貿易額を見ると、FTA(自由貿易協定)カバー率は7割を超え、世界的に保護主義が広まる中で開かれた自由貿易戦略の動きをとっています。ただ、自動車関連の雇用が1260万人と多く、しかも23.6%が米国向けなので、ここでも米国の貿易摩擦がリスクになってきます。また、英国のEU離脱や移民政策も、欧州の分裂につながりかねない大きなリスク要因となっていることは周知の通りです。

 

一方、中国経済は底堅い成長と、産業構造の変化が進むでしょう。2017年は純輸出がマイナスからプラスに転じたことが寄与し、実質GDP成長率は政府の目標である6.5%を上回る6.9%。7年ぶりの上昇となりました。すでにGDPの過半を占める第3次産業の伸びが顕著であり、特に情報通信・情報技術サービスは26%増と突出した成長を見せています。

 

ただ、中国の生産年齢人口は2010年ごろにピークアウトしたとみられ、労働力の減少局面に入っています。都市部における求人倍率は1.22倍となり、特に北京、上海では人件費の高騰が顕著です。中国は、2049年の建国100周年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に、3段階の発展計画「製造2025」を発表しています。その第1段階として「2025年までに世界の製造強国入りする」と示しています。

 

ASEANの対世界貿易は堅調に推移しています。特筆すべきは中国依存の拡大です。1998年から2017年の20年間の中国への輸出割合は、9%から20%へ拡大しています。ただし、中国の「製造2025」の推進に伴い、中国企業の国内垂直統合でASEAN依存が減る可能性があります。その場合は、経済が減速する確率が高まるでしょう。

 

インド経済は、ICT政策によるデジタル経済の拡大が進み、長期的な成長が見込まれます。モディ首相が就任したのが2014年。以降、「デジタル・インディア」と呼ばれるICT政策は急速に進展し、屋台や農村エリアにもキャッシュレスが浸透しています。

 

 

PROFILE
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若松 孝彦
Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。