地方の実力派企業と共に
日本経済新聞社クラウドファンディングサイト
日本経済新聞社のクラウドファンディングサイト「未来ショッピング」の中で展開する特集企画「NIPPON PRIDE Vol.2 with ものめぐり」。筆者は、参画する事業者のチョイスから、具体的な商品プロジェクト内容の提案や実現への協力までを担っている
クラウドファンディングを、事業展開に活用しようと考えている経営者の方は少なくないでしょう。
クラウドファンディングは、新しい商品の開発、新規事業を立ち上げるアイデアをサイトで公開して、それに賛同する人から少額(多くは、1万~2万円前後)の支援金を募るシステムですね。
日本にクラウドファンディングのサイトが登場したのは2011年。現在、ざっと調べただけでも100以上のサイトがあります。2016年度の市場規模(新規プロジェクト支援額)は745億円超(2017年、矢野経済研究所調べ)。この連載でも、育児に励む父親たちが考えた「パパのツナギ」を事例として紹介しました(2018年7月号)。
ただ、課題もあります。いまやサイトも掲載案件も乱立気味ですから、もはや「出しさえすれば賛同を得られる」とはいかないでしょう。
実は今回お話ししたいのは、私自身が携わっている案件なのです。それも現在進行中の。
この春、日本経済新聞社が運営するクラウドファンディング「未来ショッピング」から私に声が掛かり、地方で頑張る実力派の事業者を集め、10案件程度のプロジェクトをクラウドファンディングとして展開してほしいとの依頼を受けました。未来ショッピングの中で展開する特集企画、「NIPPON PRIDE Vol.2 with ものめぐり」という名称です。ものめぐりというのは、私が代表を務める会社の名前。ちなみに、この特集企画の「Vol.1」は経済産業省とのタイアップ案件だったそうです。経産省の次が弊社という話。これには、しびれました。
8月には、プロジェクトの第1弾がサイトにアップされました。今後、順次公開予定のプロジェクトから、今回は3つの案件を紹介します。
裸で触れたいブランケット
福田織物
静岡県掛川市の福田織物は、「綿300番手単糸」という世界で唯一の製織に成功している。1枚10万円するストールの生地は、“カシミアよりも優しく、絹よりも滑らか”。その風合いを生かし「肌に直接触れる商品を作ろう」と判断。ブランケット(裸で寝てほしい、との思いを込めて)と、赤ちゃんのおくるみを企画
静岡県掛川市に、小さいながらも欧州の名だたるハイブランドと取引を続けるほどの織物工場があります。福田織物(2016年4月号)といい、OEMでの生産のみならず、自ら独自のテキスタイル(生地)を生み出して、販売しています。人呼んで「掛川コットン」。町工場から、世界が驚く綿織物を作っているところが素晴らしい。
同社がすごいのは、普通なら編めないような極細の綿糸を製品に使っているところ。聞けば、「300番手」という超極細の綿糸を織れる技術は、世界で福田織物だけが物にしているらしい。そして、その300番手による織物は、1枚10万円もする高級ストールとして販売されています。
手にすると、これがまた感動的なのです。表現するなら、春風をまとっているような感じ。生地はふんわり、触感はどこまでも繊細。生地自体が透けているほどです。
さあ、どうするか。「ストールだけじゃもったいない」というのが私の考え。さらに言えば、この300番手の感動は、使う人の肌に直接触れてこそ、真価がある――。
私は「寝るときに掛けるブランケットを作りましょう」と提案したのでした。さらに「裸で寝ることを勧める商品を」と。
福田織物の社長は、叫びました。「北村さん、そんなことをしたら、バチが当たります!」。それはそうです。この300番手の綿織物、作るのが大変で、百戦錬磨の同社をもってしてもロス率が6割にも上るといいます。編む工程でどうしても糸がよれたりする箇所が出る。
「いや、そのロスになった余り布を使いましょうよ」と私は重ねて提案しました。ブランケットにするなら、そこは気にならないからです。
そして、こうも言った。「社長、この300番手の織物を裸で全身に掛けてみたくないですか」
社長の答えは「う~ん、やってみたい!」でした。
ブランケットともう1つ、赤ちゃんを包むおくるみ。この2つをクラウドファンディングの目玉とすることに決めました。
ずっと作りたかったチーズ
ファットリアビオ北海道
ファットリアビオ北海道(札幌市)は、イタリア人の実力派チーズマスターを招聘し、数々の国際的アワードで輝いているチーズ工房。私は同社のスタッフに、「彼(チーズマスター)が本当はやってみたいけれど諦めていることがあるのでは?」との仮説のもと、質問を重ねた。その結果、チーズマスターがごくたまに「羊の乳で作ったリコッタを、本当はみんなに食べてもらいたいんだ」と呟いていたという話を掘り起こせた。羊乳は、日本での流通量が少なく極めて高価だが、道内の牧場から仕入れることに成功。実際に試作すると、実に官能的な味わいに……
ファットリアビオ北海道は、札幌市で2013年に立ち上がったチーズ工場です。超実力派のイタリア人チーズマスターを招へいし、北海道の牛乳でチーズを作っている、というのが同社の旗印。
北海道のチーズ工場としては後発の部類ながら、その味がとても高く評価され、初出荷から間もない時期から、日本を代表するシティーホテルやイタリア料理店がこぞって取引を始めるほど、実力が認められている存在です。
では、同社と何を成すか。私は、同社のスタッフに何度も何度も尋ねました。「チーズマスターが『実はこんなチーズを作りたい』と話していたことってないでしょうか」。どのスタッフも最初は「いえ、彼はやりたいことをやれていると感じていると思います」との返事。でも、さらに粘って聞くと、「あっ、思い出した」と言うのです。
イタリアで実力を磨いたこのチーズマスターは、時折、部下である日本人スタッフに、ぼそっと呟くことがあったそうです。「羊の乳で作ったリコッタ※を、みんなに食べさせたい」
※チーズ生成過程で生じたホエーを煮詰めて作った乳清チーズ。
時間をかけて、この言葉を引き出せたのはよかった。現在、日本で生産されるリコッタと言えば、牛乳が原材料であるもの。本場のように羊の乳を使いたくても、ほとんど流通していないし、さらに仕入れ値は1?3000円にも上るらしい(牛乳だと70円前後なので、普通に考えればお話にならないんです)。
「それ、やりましょう」と私は強く申し入れました。チーズマスターがそこまで言う羊乳のリコッタ、食べてみたいじゃないですか。理由はもう一つあります。リコッタのようなフレッシュチーズは、時間が命です。イタリアから羊乳のリコッタを輸入しても最短で3日はかかる。それでは風味が変わってしまいます。日本で作って、すぐさま消費者が食べられるなら、それこそが真の「羊乳のリコッタ」となり得るはずです。
その後、試作に立ち会いました。いや、すさまじく官能的で、艶めかしいリコッタでしたね。チーズ好きならずとも、濃密極まりないこのリコッタを経験したくなるのではないかと踏んでいます。
「ジャパニーズ」を集める
RISE&WIN
徳島県上勝町のRISE&WINは葉っぱビジネスの展開や、ゼロウェイスト(ごみゼロ)の活動で知られる小さな町で立ち上げられたクラフトビールのブルワリー。もともと、過疎化に悩む町をどう活性化し、その存在を広く知ってもらうかが、同ブルワリーの大きなテーマ。ここから生み出したいと考えたのは、日本のクラフトウイスキー蒸留所で使われているたるを用いた、バレルエイジドビール(たる熟成ビール)造り。それも、1つの蒸留所だけではなく、日本各地で奮闘するいくつもの蒸留所の力を得て、ここ上勝町に一気にジャパニーズウイスキーだるを集め、複数のバレルエイジドビール造りを敢行するという企画を立てた
もう一つ、進めている案件をお伝えしますね。徳島県上勝町で奮闘するクラフトビールのブルワリー、「RISE&WIN」(2015年11月号)と一緒に手掛けるのは、バレルエイジドビール造り。
バレルエイジドビールとは、ウイスキーなどを寝かせた後の酒だるに、醸造したビールを入れて寝かせたものを指します。たる醸造ビールということ。アルコール度数は上がり、さらにそれまで寝かせていた酒類の特性もビールに反映され、なんとも魅惑的な味に仕上がることが多い。日本でもすでに、いくつものクラフトビールのブルワリーが挑んでいます。
問題はそこです。ただ単にバレルエイジドビールを造るというだけでは、クラウドファンディングにかける企画としては脆弱でしょう。すでに国内でも存在していますから。もっと言えば、なぜRISE&WINがバレルエイジドビールをこしらえるのか、その必然性もなければいけない。
RISE&WINの代表やスタッフと議論を重ねると、いくつもの思いがそこにあることが明らかになりました。まず、RISE&WINは地方にある過疎の町に根付いている存在であり、今回の案件でも地方と地方を結びたいと考えていること。次に、地方と地方だけでなく、携わる酒の種類こそ違っても職人同士を結べればという願いもあること。
そうであれば、答えは一つです。私は伝えました。「日本の各地で頑張っているクラフトウイスキー蒸留所、それも1軒ではなく、多くの蒸留所と連携しましょう」
1対1ではなくて、1対5、できれば1対10……。RISE&WINのビールを、北から南までのいくつものウイスキー蒸留所のたるで寝かせ、完成すれば、いろいろなジャパニーズウイスキーの持ち味が生きたバレルエイジドウイスキーを堪能できる、というプラン。
いま、まさに各地の蒸留所と折衝を重ねているところです。
人を振り向かせるには
最後に。この3つの案件、共通点を挙げるなら、どれも「それは無理かも」というところから実現にこぎ着けた点ではないかと思います。それはできないでしょう、と感じさせるような企画だからこそ、人は振り向き、クラウドファンディングを通して支援しようと考えてくれる。このあたりが極めて重要ではないかと、あらためて実感している次第です。