2018年8月号
ミュージシャン活動に転機が訪れるとき
41歳の若尾亮さんは、山梨県甲州市勝沼町でも人気の高い老舗ワイナリー「マルサン葡萄酒」の3代目です。こんなふうに言うと幼い頃からブドウやワインに囲まれて育ったように聞こえますが、出身こそ山梨県でも、ごく普通の家に育ちました。
大学進学のために上京。そこではまったのが音楽でした。気付けばトロンボーン奏者として仲間とライブ活動やレコーディングに熱中し、「就活」とは無縁のままミュージシャンとして都会生活を満喫していました。
ところが、卒業して数年たつと、就職した同級生の多くは企業でそれなりの給料を得て、安定した暮らしを楽しんでいる様子です。音楽活動は自分が一番大事にしていたクリエーティブな欲求を満たしてくれますが、それだけでは食べていけません。彼によると、アルバイトを掛け持ちしながらのバンド活動に迷いが出始めるのは、たいてい25歳を過ぎるころだそうです。
若尾「25歳ぐらいって、その気になれば就職活動にギリギリ間に合う年齢なんですよね。『サラリーマンなんてダサい』って言って一緒に音楽やっていた連中でも、ちょうど25歳を境にバンド暮らしにピリオドを打つケースが出始めたんです。たいてい付き合っている彼女から『いつまで夢を追い掛けているの?』と迫られたケースが多いんですよね」
梶原「思いっきり売れているミュージシャンなら別だけど、そうでもないと、相手も不安になっちゃうかなあ」
若尾「深夜近くにライブを終えて、しこたま飲んで、帰宅して、寝るのが朝4時過ぎ。数時間寝て、今度はバイトに出掛けて行く。そんな暮らしに、自分自身も『これでいいのか?』って迷いが出たり……」
梶原「朝4時過ぎの帰宅は体にあんまりよくないなあ」
若尾「仲間の一人が、練習場にいきなりスーツ姿で現れ、『僕は残念ながら降りる(バンドを抜ける)、君は頑張ってくれ』なんて、安いドラマのシーンみたいのがあったりして」