「適応」と「対話」が求められる若手社員教育:経営コンサルティング本部
いつの世も経営者を悩ませる「人の問題」
「ゆとり世代」「さとり世代」などといわれる若手社員世代。4000年前のエジプトにも「今の若い者は」という言葉が残されていたそうで、今も昔も、若い世代をどう教育するのかは悩ましい問題のようだ。
コンサルティングの現場でも、若手社員教育の課題について、多くの経営者や責任者からディスカッションやアドバイスを求められるケースが多い。人の問題はいつも経営を悩ませる大きな要因である。
パソコンスキルなど技術的問題ならまだしも、多くの場合は経営者・若手社員ともに今までの慣習や考え方を変えなければならない「適応」が課題である。適応するためには、互いに「対話」することが必要だ。
今回は若手社員教育において、対話を行いながら改善を実行した3つのケーススタディーをご紹介したい。
ケーススタディー1
部下の望みを聞き出す
若い世代は、なりたい自分や求めるものと仕事が結び付いたとき、驚くほど頑張り、成果を出すものだ。
ある会社のAさんは営業部からマーケティング部に異動届を出したものの、希望かなわず財務経理部の配属になった。その情報を聞いた私はAさんに、財務経理部で働くことや、財務経理の知識を習得することがマーケティングを行う際にどれほど役に立つかを説明した。その際に彼は、財務経理も仕事として面白いと感じるようになったそうだ。
その後、財務経理部で経験を積んだAさんは、半年後、子会社の経理の責任者を任されるようになった。そして1年後、他のグループ会社の財務経理を兼任するほどに成長した。Aさんは望まぬ異動先でも、自分の目的の一部を達成する具体的方法を理解できたので、経理財務の理論と実践を積極的に遂行できたのである。
このケースでは、上司に「Aさんは実はマーケティング部門が望みである」ということを認識してもらった。Aさんには、現時点で望みはかなえられていないが、望む方向に進んでいることを認識してもらった。まず、部下と対話する機会を持って、望みを聞き出し、現状を正しく認識すること。そして、仕事・役割との接点を見つけることが重要である。
ケーススタディー2
自社について丁寧に教える
B社は、派遣社員の離職率の高さに悩んでいた。よって入社した派遣社員がどういった仕事を行い、どういった指導をされているのかを確認してみた。
すると、入社1日目の始業時間から早速、先輩社員が作業の仕方を教えているのだという。そこで私は、半年ほど勤めている派遣社員にB社のことをいくつか聞いてみたが、何を誰に売っている会社なのかあまり理解していない様子であった。
そこで、新たに入社した派遣社員CさんとDさんの教育係である社員に、次の3つを実施するように指導した。1つ目は、新卒採用で使う会社案内のレジュメを使い、初出勤日に自社のことを説明すること。2つ目に、社内を案内して、仕事で今後よく関わる人を紹介すること。3つ目は所属部署、担当業務について会社における役割を説明すること。
それらを実施後、CさんとDさんはすぐに業務を覚え、半年後には契約社員、その1年後には正社員となり活躍しているとのことである。これは生産性にも影響し、派遣社員を雇っていた時よりも、無駄な採用費用と教育に要する時間が減った結果、人的コストも下がった。
すぐ辞める前提で仕事を教えるから、すぐ辞めてしまうのだ。すぐ辞めてもいい教え方を実施しながら、「すぐ辞める」と悩んでいる。文章にすると滑稽だが、現場ではよくあることだ。
ここでは教育担当に適応が求められた。負担がかかることであり、最初は疑いながら実施していたが、毎回新しい人に単純作業を教えなくてもよいというのは、教育担当にとってありがたいことでもあった。
ケーススタディー3
業務の意味を理解する
ある会社から「経理がうまくいっていない」と相談を受け、訪問した時のことである。経理担当者のEさんは「なぜ」その業務をしているのか、「なぜ」その作業手順が必要なのかを理解しないまま、業務を行っていた。聞けば前任の担当者にやり方は教わったが、仕事の意味を教えてもらったことがないとのこと。業務自体のスピードは速く正確だが、“なぜ”その仕事や作業が必要なのかを知らないため、人に聞かれても説明できない。よって、関係部署からの評判も良くなかった。
そこで、自分が記録した数字がどのように生かされているのかを知ってもらうために、財務諸表がなぜ必要なのかを教えることにした。意味を教えると同時に、Eさんに2つのタスクを与えた。1つ目は経営会議・営業会議に出席すること。2つ目は、その会議で全体に共有すべきことを管理部門の社員に説明すること。もともと仕事の早かったEさんだが、試算表の読み方を覚えるにはかなり時間が掛かった。Eさんは経理を4年担当しており、記帳はできるが、実は売上原価の意味や在庫との関係性も分かっていなかったのだ。
取り組みを始めて半年後、Eさんは生き生きと仕事をしていた。その成果は社内の他部署にも表れており、Eさんをもともと嫌っていた営業責任者は「Eさんもよくやってくれている。Eさんの賞与が増えるように、社長に交渉している」とのこと。Eさんの社内評価も向上していた。
以前は他部門から文句をつけられると、「上司に言われたので」「ルールなので」と説明していたEさんだが、今は相手に分かるような説明ができるようになった。
このケースでは、Eさんに仕事の考え方を変えてもらうという適応が求められたが、教える側も教え方を変える必要があったことを留意していただきたい。
本質的な課題改善を行うには
若手社員教育の課題は、教育側と被教育者の両者の考え方を変える「適応」が求められる場合が多い。若手社員と「対話」の上、それぞれに合った改善が必要である。
本稿で紹介した3つのケーススタディーを参考に課題改善に臨んでいただきたい。