学校の教育改革で生まれる”新人類”:細江 一樹
現在、日本の学校は「危機」に瀕している。一般的な大学進学年齢である18歳(男女)人口は、この10年ほど横ばいで推移(120万人程度)してきた。ところが、2018年から減少傾向へ転じるとみられており、教育現場を騒がせている。これが、いわゆる「2018年問題」である。(【図表1】)
今後、進学率が特段伸びるとは考えられない。従って、大学間で入学生の取り合いとなり、私立大学(以降、私大)を中心に淘汰が進むことだろう。すでに私大では定員確保に苦しむ状況を迎えつつあり、入学定員充足率(2016年時点)が100以上の私大は55.5%と半数程度にとどまっている。(【図表2】)
文部科学省の外郭団体「日本私立学校振興・共済事業団」が実施した経営診断調査(2017年度)によると、私大914校(短大などを含む)を運営する全国662法人のうち経営困難な状態にある法人は103法人(15.6%)に上った。内訳は、2020年までに破綻の恐れがある「レッドゾーン」が17法人(2.6%)、21年度以降に破綻の恐れがある「イエローゾーン」は86法人(13.0%)であった。
国立大学も状況はそう変わらない。国からの運営費交付金は2004年の独立大学法人化後、毎年1%ずつ縮小している。10年間で総額は約1兆2400億円から約1兆1100億円へと約1300億円も減額した。国立・私立にかかわらず大学経営の効率化が急務となっている。
現在、国が教育改革に取り組んでいることをご存じだろうか。「戦後最大の教育改革」といわれており、ビジネス誌でもたびたび特集が組まれているほどだ。なぜ、いま教育制度改革なのか。社会を生き抜くために必要な能力が、これまでと変わってきているからである。そのため、変化の激しい複雑な時代を生きる子どもが、社会の中で活躍できる資質、能力を育成することに教育方針の軸足を置こうとしているのだ。
具体的には、文科省は育成すべき資質・能力の3つの柱を「学びに向かう力・人間性等」「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」と定め(【図表3】)、これらをベースにした教育が行われるようになる。
この教育改革のポイントを3つお伝えしたい。1つ目は、教育のアプローチが変わるということだ。例えば、最近よく耳にする「アクティブラーニング」が導入される。従来の受け身型の授業から転換し、子どもたちは調査学習やグループワークなどを通じて主体的・能動的に授業に参加する。
2つ目は、教育カリキュラムが変わるということだ。従来の教育は「学んだことをきちんと理解しているか」という知識習得に評価のウエートが置かれていたが、今回の改革では知識習得だけでなく、思考力や判断力、表現力といった「理解した知識をどう使うか」に大きなウエートが置かれるようになる。民間企業の一般的な人事評価制度では「思考力」や「判断力」などの優劣が評価されるが、学校現場はそれらの教育が不十分であった。
また、履修科目も大きく変わる。一例を挙げると、小学校では3年次から英語教育活動がスタート。コンピューターに意図した処理を指示するためのプログラミング教育も必修化される。
3つ目は、大学入試の仕組み自体の変化だ。こちらは新聞などでも騒がれているので、ご存じの方も多いかもしれない。従来のセンター試験がなくなり、「大学入学共通テスト」が新設される。センター試験はマークシート方式が主だったが、記述式の問題が一部導入されるほか、英語では「読む・聞く・話す・書く」の総合的な能力も求められる。前述した思考力・判断力・表現力が問われるようになる。(【図表4】)
企業は日々刻々と変わる市場に応じて、人に求める能力(人事評価)を変えてきた。一方、日本は「高校で習うこと」「入試で問われること」「大学で学ぶこと」がそれぞれ違い、社会が求める教育ニーズとの乖離が広がった。そこで高校教育・入試制度・大学教育を一体的に改革(高大接続改革)するため、新しい教育が始まるということである。
これは見方を変えれば、従来の教育システムで育った私たちが、それとまったく異なる教育システムで育った子どもたちに「教える」ということが、容易にできなくなる時代が目の前に迫っているのだ。