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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2017.11.30

伝統と革新でメード・イン・ジャパンのサービスを世界へ 帝国ホテル 代表取締役社長 社長執行役員 定保 英弥氏

“日本のために大事な仕事をしている”という使命感から事業は広がっていく

 

若松 2017年3月期(連結ベース)の売上高は560億3100万円、経常利益は51億6500万円。2020年には東京オリンピック・パラリンピックという大イベントが控えています。経営戦略上の重点課題や新たに挑戦したいテーマはありますか。

 

定保 中期経営計画では、「安全性の追求」「帝国ホテルブランドの向上」「顧客満足の追求」「イノベーションへの挑戦」という4つを、重点課題として挙げています。まずは安全性の追求。地震や火事はもちろん、食材の表示や食品アレルギーへの対応、緊迫する海外情勢に対するリスク管理など、安心してゆっくりと過ごしていただける安全な環境をつくることが基本です。全ての課題の基盤となる最重要課題として取り組んでいきます。その上で、顧客満足の追求やブランド力を向上させてファン拡大を図っていきます。現在、メインの顧客層の世代はもちろんですが、次の世代のファンを開拓していくことが必要です。おかげさまで、これまで親と子、孫と世代を超えて代々ごひいきにしていただいているお客さまは少なくありません。何世代にもわたってご愛顧いただけるよう努めていきます。

 

若松 2020年に向けて、今は顧客層を拡大するチャンス。この時期にリピーターを増やすことができれば、その後の成長につながります。

 

定保 東京都内のホテルは宿泊客の7割以上を外国人が占めるところも多くありますが、私ども帝国ホテルは年間で平均しますと国内のお客さまが5割を占めます。ようやく国内のホテル業界は上向いてきましたが、リーマン・ショックや東日本大震災後には非常に厳しい局面に立たされました。その際、私どもが比較的早く回復できたのは、日本全国からいつも定期的にお越しいただいていたお客さまが、途切れることなく来てくださったから。お客さまに助けていただいた経験から、人と人とのつながりでホテルが成り立っていることを痛感しています。

 

若松 長い歴史の中で積み上げてこられた、顧客との強い信頼関係がうかがえます。これは引き継いでいくべき伝統でもあります。一方、パイオニアとしての革新の部分、イノベーションについては、どのような挑戦を視野に入れているのでしょうか?

 

定保 将来も変わらず、帝国ホテルらしく帝国ホテルであり続けるために、しっかりと世界に通用する人材を育成していく。一方、企業としての発展を目指して、機会があれば新たなホテル事業にも挑戦していきたいですし、日本のお客さまに喜んでいただける場所や、海外からのお客さまに楽しんでいただける場所を提案していきたいと考えています。

 

若松 さまざまな業界で新しいビジネスが動き出しています。2020年の後も成長を続けられるかどうかは、ここ数年のビジネスモデル戦略が鍵を握るだろうと思います。

 

定保 2020年に帝国ホテルは開業130周年を迎えます。東京オリンピック・パラリンピックも控えており、経営者としてあらためて初代会長の渋沢栄一がどのような言葉を残しているのか、ひもといてみました。創業当時、文化や習慣が異なる外国人を受け入れることは、今よりも大変だったことは想像に難くありません。そうした中、渋沢は社員に「あなたたちが一生懸命サービスをしていれば、自国に帰った後も日本のことを懐かしく思い出す。あなたたちは、日本のために大事な仕事をしている」と語りました。この言葉を、現在にも通じるものとして私も皆に伝えています。やはりホテルで最も重要なのは人。これからも人材育成に愚直に取り組んでいきます。

 

若松 渋沢栄一翁の言葉は、帝国ホテルで働く皆さんの使命、仕事の原点を表しており、それを定保社長が発信されることで、社員に受け継がれていることに意味があります。今後も伝統と革新によって帝国ホテルらしさを磨き、130周年はもちろん、150年、200年と、ますます発展されることを祈念いたしております。本日はありがとうございました。

 

 

帝国ホテル 代表取締役社長 社長執行役員 定保 英弥(さだやす ひでや)氏
1984年学習院大学経済学部卒業後、帝国ホテルに入社。入社後1年半の研修期間中、フロント、客室、調理場、レストラン接客などホテルの最前線で経験を積む。その後、宴会部、営業部、ロサンゼルス案内所、宿泊部など多彩な現場を経験。営業部長、ホテル事業統括部長、東京副総支配人、帝国ホテルハイヤー取締役、インペリアル・キッチン取締役などを歴任し、2009年に第12代東京総支配人に。2013年帝国ホテル代表取締役社長に就任。2017年3月まで東京総支配人を兼任し、現在に至る。

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ・たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院 (経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

PROFILE

  • ㈱帝国ホテル
  • 所在地 :〒100-8558 東京都千代田区内幸町1-1-1
  • TEL : 03-3504-1111
  • 創業 : 1887年(開業は1890年)
  • 資本金 : 14億8500万円
  • 売上高 : 560億3100万円(連結、2017年3月期)
  • 従業員数 : 1976名 (2017年3月末現在)
  • 事業内容 : ホテル(東京、大阪、上高地)の運営、不動産事業

http://www.imperialhotel.co.jp/