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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2017.02.28

子どもが夢中になるリアルな世界「キッザニア」 KCJ GROUP 代表取締役社長兼CEO 住谷 栄之資氏

キッザニア東京内にて。KCJ GROUP 代表取締役社長兼CEO 住谷 栄之資氏 (左)と、タナベ経営 代表取締役社長 若松孝彦(右)

 

教育と娯楽を融合した職業・社会体験施設「キッザニア」が日本にオープンして10年。実社会を再現したリアルな施設と体験プログラムが人気を集め、東京と甲子園を合わせた累計来場者数は1400万人を突破した。多くの子どもたちを夢中にさせる秘密は何か――。オープンから陣頭指揮を執るKCJ GROUP代表取締役社長兼CEOの住谷栄之資氏に伺った。

 

新たなビジネスモデルは社会に求められる価値

 

若松 KCJ GROUPは、子どものための職業・社会体験施設「キッザニア」を東京(江東区)と甲子園(兵庫県西宮市)で運営されています。キッザニア東京のオープンは2006年10月ですから、10周年を迎えられたところですね。おめでとうございます。

 

住谷 ありがとうございます。キッザニアは現実の約3分の2のサイズに再現された街の中で、子どもたちがさまざまな仕事やサービスを体験できるエデュテインメント施設です。来場者数は、キッザニア東京と2009年にオープンしたキッザニア甲子園を合わせて累計1400万人(2016年10月末時点)となっています。

 

若松 キッザニアのコンセプトは「エデュテインメント」。教育(エデュケーション)と娯楽(エンターテインメント)を融合した革新的な施設です。住谷社長は前職の外食産業においても、多くのレストランを国内外で展開するWDIの創業者の1人として、日本に新しい業態を次々と定着させてこられました。

 

住谷 当時、大学の先輩に誘われ、レストラン経営を行うWDIを創業後、「ケンタッキーフライドチキン」のフランチャイジーをはじめ、「トニーローマ」や「カプリチョーザ」、「ハードロックカフェ」などを国内外にFC展開するビジネスを手掛けていました。

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若松 住谷社長は、際立ったコンセプトを見極める卓越したビジネスセンスをお持ちのようです。キッザニアを日本で始めたきっかけは何だったのでしょうか。

 

住谷 「メキシコにキッザニアという面白い施設がある」と教えてくれたのは、ショッピングセンターの開発などを行う海外の知人でした。話を聞いたとき、これまで手掛けてきた事業とは違うけれども興味が湧きました。素晴らしいビジネスモデルだ、と。同時に、これが日本で受け入れられるかどうか疑問もありましたね。

 

若松 海外のビジネスを日本で展開するのは容易ではありません。日本の文化や時流に合うかの判断には、ビジネスセンスが問われるところです。どのように判断されたのですか。

 

住谷 当時4歳と7歳の孫がおりまして、2人をメキシコのキッザニアに連れて行き、実際に体験する姿を見たり、感想を聞いたりしました。2日間、各日8時間滞在しましたが、子どもたちは飽きていない。飽きないどころか、現地の言葉は分からないはずなのに、周囲の子どもと体験を共有し、楽しんでいるのです。これは、と確信しました。ちょうど適齢期の孫がいたことも運命ですね。孫の年齢が違っていたら結果は異なったかもしれません。

 

若松 直感で判断されたのではなく、キッザニアという未知の施設に対する、お孫さんという「消費者」「顧客」の声を聞いたわけですね。外食産業を展開する判断には、住谷社長自らの消費者としての感性が大切だった。それがキッザニアの場合には真の顧客である子どもの声に耳を傾けた。これは、日本でのキッザニア成功のポイントですね。

 

住谷 大事なのは顧客のハートに響くかどうかです。キッザニアでは、子どもたちは先生や親から離れて職業体験をしますが、実際に作ったり調べたりした成果をその場で発表することもあります。どのように話せば伝わるかも含め、子ども自身が考えなくてはいけないため、度胸も付きます。多くの子どもたちに社会観や職業観を培ってほしいと願っていますので、ここ数年、校外学習などで学校単位での来館が増えているのはうれしいですね。

 

若松 キッザニアの最大の魅力は、スポンサーでもあるパートナー企業の協力を得て、本物さながらの建物やユニフォームを使ったリアルな職業体験。学校の授業などでは再現できない「ライブ感」です。子どもたちの未来を支えているパートナー企業は、どのようなところがあるのですか。

 

住谷 JTB、資生堂ジャパン、NTTドコモ、全日本空輸(ANA)、集英社、大和ハウス工業などさまざまな業界の企業がスポンサーになってくださっています。

 

若松 架空の企業ではなく、実在する企業のパビリオンで体験できるのは大きな魅力ですね。

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国内では東京と甲子園の 2カ所に展開するキッザニア。 消防士やケーキ職人など、 さまざまな職業を体験できる

 

 

心を揺るがす体験で顧客価値と一体化する

 

若松 昨今は、音楽CDの販売が低迷する一方、ライブやフェスなどでは人があふれ返っています。「モノ余りでコト不足の時代」とタナベ経営は表現していますが、実際に体験した感動や一体感がかつてないほど求められている。まさに「先見性」です。オープンから10年が経過しても多くの人が訪れているのは、キッザニアが提供する職業体験が子どもの心に響いている証拠です。お孫さんが初めて体験したときと同じ感動が、今も続いています。

 

住谷 施設も本物そっくりに作っていますし、パビリオンのスタッフもなり切って仕事をしています。そのせいか、職業体験をサポートするスタッフの中から実際にその職業を志す人まで出てきています。例えば、CA(キャビンアテンダント)役をしているスタッフが航空会社の採用試験を受けたり、消防署パビリオンで毎日消火活動を子どもたちとしていたスタッフが国家試験を受けて消防士になったり。パビリオンの仕事を通して、その仕事のやりがいに気付いたり、「市民を守る」というミッションが自分のミッションと一体化するのでしょう。本来、仕事にはこうした思いが大事だと思います。多少つらいことがあっても乗り越えられる糧となりますから。

 

若松 それは想定外の効用だったのかもしれませんね。やはり、顧客とスタッフ、スポンサーが一体となったライブ感が、時代に求められているのだと感じます。私はこれを「顧客価値との一体化」と呼んでいます。そうした空間をつくる上でスタッフが担う役割は大きいと思いますが、人材育成において重視されていることはありますか。

 

住谷 キッザニアは「エデュテインメント」という言葉を掲げていますが、もっと広く言えば、私たちの事業は「ホスピタリティー産業」だと考えています。ホスピタリティーで大切なのは、お客さまを思う心。多くの人が集まる施設ですから一定のマニュアルは必要ですが、それに頼り過ぎるとホスピタリティーからかけ離れてしまう。スタッフには、もっと個性を出してほしいと思います。最近では、企業内研修の施設としてもキッザニアを使う企業が増えています。ホスピタリティーは共通のスキルなのだと感じています。

 

若松 まさに「教えることは学ぶこと」ですね。マニュアルに沿った画一的なサービスでは、顧客満足度を高めることは難しく、状況に応じた対応や心遣いに人は感動するもの。最近注目を集めているビジネスを見ても、「高い心の揺らぎ」を引き出しているところほど顧客の支持を集めているように思います。私たちコンサルタントはビジネスドクターであり、コンサルティングファームは会社の病院。ですから、ホスピタリティーに対する考え方に非常に共感します。

 

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KCJ GROUP
代表取締役社長兼CEO 住谷 栄之資氏

1943年和歌山県生まれ、大阪府出身。1965年慶應義塾大学商学部卒業後、藤田観光に入社。新規事業開発部でホテルレストラン事業に携わったのち、WDIに入社し取締役外食担当に就任。2000年代表取締役社長に就任。退任後、2004年キッズシティージャパン(現KCJ GROUP)を設立。2006年10月東京・豊洲に「キッザニア東京」、2009年3月兵庫・甲子園に「キッザニア甲子園」をオープン。著書に『キッザニア流! 体験のすすめ』(ポプラ社)。

 

キッザニアがいらない社会こそ理想の社会

 

若松 キッザニアのビジネスモデルの将来性については、どのようにお考えですか。

 

住谷 急速にIT化が進む中、新たなスポンサーの開拓は必要でしょうね。私は、モノができる過程を体験するアナログの部分は子どもにとって非常に重要だと考えていますが、社会性や職業観を培う上で、IT関連産業は欠かせない存在となっています。それらの先端技術と、アナログの部分をどのように合わせるかが鍵だと考えています。

 

若松 日本生産性本部がまとめた『レジャー白書2016』のテーマは、「少子化時代のキッズレジャー」。「遊ぶと学ぶは一緒」という結論で締めくくられていましたが、まさにキッザニアが掲げるエデュテインメントに通じています。先端技術を通した学びや遊びにも触れられていました。IT化によって、仕事はもちろん、社会の仕組み自体も大きく変化していくことが予想されます。

 

住谷 事業の形は時代によって変化します。例えば、富士フイルムを見ると、今では医療関係が主要事業となり、社名にあるフィルム事業の比率は5%以下まで縮小しています。キッザニアが子どもの成長に一石を投じたという自負はありますが、この事業が未来永劫(えいごう)続くかどうか分かりません。

 

オープン当初に受けたメディアの取材でも明言していたのですが、私は「キッザニアがいらない社会の方がよい」と考えています。私が子どもの頃、日々の暮らしの中で親や周囲の大人は子どもに自分の仕事を教えていました。しかし、社会は大きく変化していますから、今は職業体験できる場所や機会がもっとあった方がよいと思います。学校の授業の中で地域産業を体験できる機会や時間を増やしていくなど。そしてわれわれは失業するのが理想の社会なのかもしれないですね(笑)。

 

若松 「世の中に役立つ会社」しか存続することができない時代ですから、それは究極の社会貢献であり、社会課題の解決です。経験からしか学べない価値があります。キッザニアが担ってきた職業体験の必要性が社会に認知されつつある中、インターンなど教育現場でも取り組みが広がりつつあります。ただ、普及にはまだしばらくかかるでしょう。それまでは社会的テーマを担い続けるということでもあります。

 

住谷 キッザニアにたくさんの子どもたちが来てくれていますが、余力のある間に次の事業を模索していくことが大事。今は子どもの職業体験が事業の中心ですが、「社会の役に立つ」という軸さえぶれなければ、事業は時代に合わせて変わっていいと思っています。日本全体を見ても、現状を維持するだけでなく、将来を見据えて手を打つべき段階にあると感じています。

 

若松 今はキッザニアの活動を広げる大事な時期といえますね。活動を広げることで世の中をさらに良くしていく。KCJ GROUPが今後どのようなステージで活躍をされるのか、今から非常に楽しみです。本日はありがとうございました。

 

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タナベ経営
代表取締役社長 若松 孝彦

タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。 関西学院大学大学院 (経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

PROFILE

  • KCJ GROUP㈱
  • 所在地 : 〒104-0051 東京都中央区佃1-11-8 ピアウエストスクエア3階
  • TEL : 03-3532-1701(代)
  • 設立 : 2004年
  • 資本金 : 2億5200万円
  • 事業内容 : 子どもの職業・社会体験施設「キッザニア」の企画、運営、開発。「食と農」をテーマとした複合施設「オークビレッジ柏の葉」の企画・運営他
    http://www.kidzania.jp/
  • 〈キッザニア東京〉
  • 所在地 : 〒135-8614 東京都江東区豊洲2-4-9 アーバンドック ららぽーと豊洲 ノースポート3階
  • TEL : 0570-06-4646
  • 〈キッザニア甲子園〉
  • 所在地 : 〒663-8178 兵庫県西宮市甲子園八番町1-100 ららぽーと甲子園
  • TEL : 0570-06-4343