全国で仲間を募りスケールメリットを発揮
若松 2016年3月期(連結)に売上高1000億円を超え、利益率も高いですね。ファーストコールカンパニーです。将来の展開についてどうお考えですか。
田中 過疎地のカバーも含め、現在の9000台では間に合わないので、さらに仲間を集めています。当社とタクシーチケットを相互利用できる「No.1タクシーチケットネットワーク」の提携実績は305社、3万3639台(2016年7月末現在)で、47都道府県をカバーしています。
若松 最近はタクシーやバスの自動運転が話題ですね。
田中 人工知能(AI)の発達で自動運転の開発も進み、あるメディアには「5年後になくなる職業」としてタクシー運転手が挙がっていました。でも、「運転」の仕事はなくなっても、「タクシー乗務員」の仕事は残りますよ。地方ではサービス提供者、介助者が必要ですから。
若松 今までのお話からすると、第一交通産業のライバルはタクシー会社ではないでしょう。全く違う分野からの参入に目配りをする必要があると思います。
田中 東京などの都市圏は参入されやすいので、当社は地方圏を細かく押さえます。買い物代行や診察の順番取りなど、生活と密着したサービスの提供により「第一交通に頼んでみよう」と思われる会社になることが大切です。以前は、社内にも「地方は儲(もう)からない」との意見がありましたが、実際にやってみたら、そんなことはありませんでした。
徹底した現場主義で人材を育成
若松 多様なサービス展開には人材育成が欠かせません。どのように取り組まれていますか。
田中 4カ月に1度、全国から約20名ずつ集めて45日間の研修を行い、終われば主任として現場に戻します。M&A後の会社には、そうした人材を送り込みます。
また、交通事業部だけで毎年10名前後を定期採用しています。半年はタクシーに乗務させ、さらに運行管理者の資格取得を目指して2年間は現場で勤務させます。
若松 妊娠・子育て中の女性に快適な「ママサポート」や多言語(13カ国語)同時通訳など、タクシーにさまざまなサービスを付加されています。このアイデアはチームで開発しているのですか。
田中 現場から人材を集め、チームで検討しています。当社はとにかく現場主義。これは私も同じです。出張に行くと必ず営業所に立ち寄り、管理職ではなく乗務員と話します。現場の状況を少しでも知りたいので。
若松 経営者が現場を知ることは、とても大切なことです。
田中 現場を知るだけでなく、現場に任せます。すると、社員はどう動けばよいかを判断できるようになります。熊本地震では、本震(2016年4月16日)の午後には水などの救援物資を被災地に届けていました。阪神・淡路大震災や東日本大震災での経験が役立ちました。
若松 M&Aを機にした人事異動も可能です。チャンスを与え、成長のきっかけとしても活用できますね。
田中 昔はそれぞれの地域に「地侍」のような人がたくさんいました。そうした人たちは、担当地域は任せられるけど、後任者を育てない。だから私が社長になった時、そういう人たちを一斉に配置転換しました。地元ではあまり目立たなかった人を他エリアに送り込んだら、素晴らしい力を発揮したケースもあります。
若松 幹部人材の育成には、タナベ経営の幹部候補生スクールも活用いただいています。
海外進出に関しては、2012年にミャンマーで子会社を設立されましたが、どのようなきっかけだったのですか。
田中 北九州市にある資金難のミャンマーの寺院(パゴダ)を黒土が支援したご縁から、ミャンマーで自動車整備工場を始めました。今は現地のタクシー会社の研修も行い、第一交通のマークを付けたタクシーが走っています。社員は皆、大変だと思いながらも楽しんでいますよ。
若松 ぜひとも、100年続く地域のファーストコールカンパニーを目指してください。本日はありがとうございました。
PROFILE
- 第一交通産業㈱
- 所在地:〒802-8515 福岡県北九州市小倉北区馬借2-6-8
- TEL:093-511-8811(代)
- 設立:1960年
- 資本金:20億2755万円
- 売上高:1100億1600万円(連結、2016年3月期)
- 従業員数:1万5000名(グループ計、2016年3月期)福証上場
- http://www.daiichi-koutsu.co.jp/