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100年経営対談

100年経営対談

成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2024.07.25

フロンティア精神で「粘着する価値」を創造し続ける100年企業

ニチバン 代表取締役社長 高津 敏明氏

 

粘着技術をコアコンピタンスに多くのヒット商品を生み出してきたニチバンは、創業106年を超える東証プライム上場企業(売上高468億円、従業員数1270名)である。今なお新たな価値を創造し続ける背景には、これまでの変化の歴史と次の時代を見据えたビジョンに基づく経営がある。

 

 


セロハンテープを日本で初めて商品化し新たな市場を創造

 

若松 日頃より、中期ビジョン策定支援の戦略コンサルティングや、グループ企業(ニチバンメディカル)の企業内大学設立など「人財」育成支援のご縁に感謝しています。

 

ニチバンは2018年に創業100周年を迎えられました。本連載は「100年経営対談」と題していますが、100年企業の経営研究はビジネスドクターとして私のライフワークでもあります。拙著『100年経営』(ダイヤモンド社)にも書きましたが、100年を超える会社はある意味で「奇跡の経営」ですからね。

 

高津 当社の創業は1918年。2024年で創業106年を迎えられたのも、ひとえに先輩方の功績です。社史を振り返ると、当社にも紆余曲折(うよきょくせつ)がありました。軟膏や絆創膏(ばんそうこう)を製造販売する歌橋製作所として創業した後、第二次世界大戦中にその歌橋製作所を中心として全国の絆創膏製造事業者25社が統合され、1944年に日絆工業が設立されました。

 

若松 第二次世界大戦と25社の企業統合による創業期の歴史には物語があります。現在は祖業であるメディカル事業に加え、テープ事業においても多様な製品を展開されています。テープ事業には、どのような経緯で参入されたのでしょうか。

 

高津 1947年にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)からテープ製造を打診されたことが大きなポイントになりました。検閲のために開封した郵便物を再度とじるために大量のセロハンテープが必要だったのです。その要望に対し、わずか1カ月で試作品を納品するとGHQが非常に驚き、大量発注につながったとの記録が残っています。

 

若松 1カ月ですか、それは早い提供です。ニチバンに高い技術力と応用開発力があった証しです。国内で初めて発売されたセロハンテープになりますね。

 

高津 当時は封書などをとじるのには、でんぷんのりが使われていたので、テープでとじるというのは画期的だったと思います。「セロテープ®」を商標として登録も実施して、その用途も含めて戦後の日本に広げていきました。

 

若松 世の中にない商品で新しい市場を創造されたわけです。用途を広げるのは大変だったでしょう。フロンティア精神を感じます。今ではセロテープ®は、セロハンテープの代名詞となっています。シェアはどれぐらいですか。

 

高津 国内に限れば約7割です。あまり知られていませんが、セロハンテープの原料であるセロファンはパルプからつくられています。プラスチックのイメージが強いですが、紙と同じ原料。SDGsなど環境への関心が高まっていますが、石油系のテープとセロテープ®を比較すると、焼却時のCO2(二酸化炭素)の排出量は7分の1です。時代に合った製品であることをもっとアピールしていきたいと思っています。

 

 


粘着技術を応用しBtoBへ用途を拡大

 

若松 絆創膏・セロテープ®など、先駆者として新市場を開拓してこられました。時代や環境の要請に適応していくパイオニア、フロンティアスピリッツはニチバンの原点と言えますね。それを生かした商品を開発されています。

 

高津 市場から開拓した製品は多くあります。その1つが、1978年に発売した農作物結束用テープの「たばねら™」テープです。

 

当時は輪ゴムやわらで野菜を結束していましたが、手間が掛かる上に野菜を傷つけるリスクもありました。その点、野菜にはくっつかないたばねら™テープと専用器具を使うと、無傷で素早く野菜を束ねることができます。ただ、テープで野菜を結束するという発想がない時代だったので、営業担当者は泥だらけになりながら農家さんを回って市場を開拓していったと聞いています。

 

今でもスーパーマーケットなどで紫色のテープで結束された野菜を目にする機会が多いと思いますが、おかげさまで農作物結束用テープではトップシェアを誇っています。

 

若松 営業担当者が泥だらけになりながら市場を開拓していった物語には、「お客さまに粘着技術で役に立つ」というスピリッツが貫かれています。そして、イノベーションにおいて発明の種を形にし、マネタイズしていく経営も非常に重要な部分です。

 

2024年3月期の売上高は468億5900万円。メディカル事業とテープ事業の比率は均衡しており、いずれもBtoCだけでなくBtoBの割合が大きくなっています。テープ事業のうち54%を工業品が、メディカル事業でも約25%を医療材が占めています。工業品への参入はいつごろでしたか。

 

高津 セロテープ®を発売した直後に、布テープやクラフトテープといった梱包用テープ類を発売しました。戦後の高度経済成長期における製造・物流の増加に伴い、工場向け需要が拡大し、お客さまから多くの要望が集まるようになり、それにお応えしているうちに製品のバリエーションが広がっていきました。

 

一方、病院向け医療材への参入はもっと後です。1984年にスポーツ用のテーピングテープ「バトルウィン™」を発売後、1986年に消化器外科の医師からの依頼をきっかけに、傷口を保護するドレッシング剤「カテリープ™」を開発しました。

 



天然素材で作られた環境にやさしいテープ「セロテープ®」(左)。肌の動きにやさしくフィットする救急絆創膏「ケアリーヴ™」(右)