ドムドムハンバーガーのロゴ(上)と、キャラクター「どむぞうくん」(下)。ロゴマークは、象のような親しみやすさ、温和さと愛情深さ、会社として大きく成長していくこと、輪の中に象を配置することで、「みんなの心の輪にいたい」という思いを表現している
常識を覆す挑戦で50年先も愛されるブランドへ
若松 私は、「社長になる人は『社長になりたい人』より、『社長になって何がやりたいかが明確な人』であるべき」と言っています。まさにドムドムフードサービスは、「今こそ、このような改革をすべきだ」と、強い意志を持って提案していた藤﨑社長が就任されたわけです。社長就任後、3期目の2021年3月期の決算で見事に黒字化を果たされました。ポイントをお聞かせください。
藤﨑 1つ目のポイントは、当社が歴史あるバーガーチェーンだったこと。ドムドムハンバーガーはスーパーマーケットの中に出店しており、50年間お客さまに守っていただきました。
2つ目のポイントは、こだわらないチャレンジです。50年間ずっと守ってもらったというのは、裏を返せば「限られたお客さまだけに支持されてきた」ということ。しかし、それでは新たな施策を試しても限られたお客さまの反応しか得られません。
そこで、もっと広く知っていただくために、地域の祭りに出店したり、各種イベントに参加してコラボバーガーを作ったりと、積極的に外に出ていきました。これによって、「思い出のドムドムハンバーガーが面白いことをしている」とうわさが広がり、ドムドムハンバーガーを知らない方とのファーストコンタクトの機会にもなりました。
また、異業種との協業にも挑戦しています。例えば、若者に人気のあるアパレルブランドとのコラボ商品を通して、「ドムドムハンバーガーブランド」の認知度が上がっています。
若松 私がブランディング戦略において大事にしているのは、「自社の真の顧客は誰か」と、「真の提供する価値は何か」の2つを問うことです。50年間支えてくださったお客さまは大切ですが、環境や目標が変化する中で、ドムドムハンバーガーにとっての「真の顧客とは誰か」を問い直すタイミングがきているように感じます。後者の「真の提供価値とは何か」は、50年間続けてきた習慣を基軸に考えていては、今のドムドムハンバーガーが提供すべき真の価値は導けなかったかもしれません。そこを変えるのは非常に勇気のいることです。
藤﨑 今のお話は非常に腹落ちしました。というのは、さまざまなチャレンジを通して、「ドムドムハンバーガーはどういったブランドなのか」「何を目指していくのか」が見えてきました。
例えば、私はSNSで投稿してくださる方もお客さまと捉えているため、ことさらフォロワー数を増やすキャンペーンはしません。そうしたキャンペーンをしなくても、フォローしてくださっているのは、本当にドムドムハンバーガーが好きな人です。やみくもにフォロワー数を増やすよりも、そうした方と真摯に相対したいなと考えています。
若松 過去や歴史に縛られると、真の顧客は見えないものです。その点、藤﨑社長はアパレル店の店長の時からニュートラルな視点を持っていたことが、現在の企業復活につながったように思います。SNSを含めた新たなチャレンジの成果は出ていますか。
藤﨑 若い方が増えているのは間違いありませんし、売り上げも上がっています。もともと、私は顧客を絞る必要がないと思っています。ハンバーガーだから若者向けとは全く思っていませんし、さまざまな層のお客さまに楽しんでいただきたいですね。実際、店舗を見に行くと高齢の方も多いですし、日本発祥の優しい味付けはお子さまにも好まれます。
コロナ禍に入る直前に、「お客さまが愛し続け50年守ってくださったドムドムハンバーガーのブランドを育む。そのブランドはスタッフ・消費者の人生に寄り添い、並走し、共感・共存することで構築する」という経営指針を定めました。最近は「どむぞうくん」をはじめとするグッズなども展開していますが、中にはハンバーガーは食べたことがないけどグッズを持っているという方も増えています。つまり、多様なお客さまがいるということです。
スタッフとお客さまが喜ぶオンリーワンの店づくり
若松 オリジナルグッズなどを駆使したブランディングによって、「ドムドムブランド」に立体感が生まれています。一方で、ハンバーガー自体も非常に工夫されていますね。
藤﨑 ブランディングにおけるコアコンセプトに加え、コロナ禍前に「おいしいはお客さまとの最低限の約束」だと明言しました。国内では何を食べてもおいしいから、「おいしいの先をつくりましょう」というメッセージです。
ファストフードですから、限られたオペレーションの中で提供することが常識ですが、私はお客さまが喜んでくださるならこだわりません。例えば、ブレイクした「丸ごと!!カニバーガー」は、冷凍のカニを各店舗で流水解凍して水分を切り、独自調合した粉をまぶして油で揚げています。
若松 私も食べたことがありますが、見栄えの迫力はもちろん、味もおいしく、見たことがなかったハンバーガーなので話題にもなりますね。ハンバーガーチェーンの常識を超えています。
藤﨑 そうですね。「丸ごと!!カニバーガー」「手作り厚焼きたまごバーガー」も各店舗で仕込んでおり、実際に作っているスタッフには本当に感謝しています。小さな店舗が多く、夕方になると学生アルバイトが2名だけのこともありますが、それでも店を回せるのがドムドムハンバーガーの強みです。本当にスタッフのおかげです。
若松 オペレーション力で高い価値を提供されています。飲食店はある意味、人材力で決まるとも言えるビジネスモデルです。昨今は人件費や人材の流動性が高く、簡単ではありません。
藤﨑 人材育成については体系的にできているわけではありません。心の満足度からなる働きがいや働く意義は、イノベーションを生み出すと考えており、心の満足度を創出する環境づくりが今後の課題です。私は「思いやり経営」と言っていますが、スタッフとお客さまが喜ぶことや幸せになることをやる。それが経営の考え方であり、当社にとって成長は一番の目的ではありません。
お客さまのご要望もあり、店舗を増やしていますが、味や雰囲気、スタッフが特長となるオンリーワンの店舗を目指しており、今後はFC(フランチャイズ)の仕組みを刷新した上で募集をスタートしようと考えています。数字を追うのではなく、足元の当たり前を1つずつ増やしながらオンリーワンの店をつくっていきたいと考えています。
若松 「思いやり経営」ですね。会社の店舗数や売上高は、お客さまには関係ないことです。拡大を目指すのではなく、真の顧客とドムドムハンバーガーが提供する価値を見つめながらオンリーワンの店をつくっていく。それが結果的に成長につながる「成長するための変化」が大事ですね。
高級路線の「ドムドムハンバーガープラス」といった新業態も好調です。不透明な経済環境では、「自律した経営はどうあるべきか」「自律したブランドはどうあるべきか」を模索し、定義していかないといけません。今日はビジネスの本質的なところをお話しできました。ありがとうございました。
ドムドムフードサービス 代表取締役社長 藤﨑 忍(ふじさき しのぶ)氏
1966年東京都生まれ。青山学院女子短期大学卒。政治家の妻になり、39歳まで専業主婦。夫が病に倒れたことをきっかけに、生活のためにSHIBUYA109のアパレルショップ店長を務める。若い店員とのコミュニケーションや店頭ディスプレイの改善を通して店の売り上げを倍増後、経営方針の変更に伴い退職。居酒屋でのアルバイトに従事中、たまたま空き店舗を見つけて居酒屋を開業。料理の美味しさや接客で一躍人気店に成長させ、その腕を常連客に見込まれドムドムフードサービスのメニュー開発顧問を兼任。『手作り厚焼きたまごバーガー』をヒットさせ、2017年11月にドムドムフードサービス入社。その後、2018年8月より現職。
タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『チームコンサルティング理論』『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
タナベコンサルティンググループ(TCG)
大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国660名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来17,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。
PROFILE
- (株)ドムドムフードサービス
- 所在地 : 神奈川県厚木市岡田3050 厚木アクストメインタワー14F
- 設立 : 2017年(ドムドムハンバーガー創業 : 1970年)
- 代表者 : 代表取締役社長 藤𥔎 忍
- 従業員数 : 300名(2024年4月現在)