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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2024.03.01

クラウドERPを通じて企業の成長と変革を支援 日本オラクル バイスプレジデント NetSuite事業統括 日本代表 渋谷 由貴氏

 
世界ナンバーワンのクラウドERP「Oracle NetSuite(オラクル ネットスイート)」。国内で同事業を牽引する日本オラクルのバイスプレジデントNetSuite事業統括日本代表の渋谷由貴氏に、データドリブン経営とERP構築のポイント、デジタルを活用して成長する会社・組織づくりについて伺った。 ※Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム
    クラウドERPは組織デザインの変革ツール   若松 オラクルが展開する「NetSuite」はクラウドERPとして世界中で3万7000社超に利用されています。タナベコンサルティンググループ(以降、TCG)は中堅企業向けクラウドERPシステムとしてNetSuiteを高く評価し、私自身も社長として2018年から導入を決断。マネジメント改革に非常に有効なシステムであると実感しています。   渋谷代表は、2023年7月に日本オラクルのバイスプレシデントNetSuite事業統括日本代表カントリーマネージャーに就任されました。これまでの経歴をお教えください。   渋谷 私は新卒で日本の大手商社に入社後、営業としてキャリアをスタートしました。営業とは言っても業務は広く、新規事業の立ち上げやマーケティング、パートナーの立ち上げなどさまざまな経験をしました。その後、仕事と家庭の両立を考えて外資系のIT企業へ転職。そこで広い市場に対するマーケティングを担当していた時、オラクルが新しいマーケティングクラウドを日本で立ち上げると聞き、日本オラクルに転職しました。   若松 大手商社で新規事業を経験され、外資系企業、しかもデジタル分野のマーケティングを担当されたことは、今の代表としての仕事に結び付いていますね。日本オラクルに転職された決め手は何だったのでしょうか。   渋谷 外資系IT企業でのマーケティングに面白さを感じる一方、私自身はITに関するプログラム開発などの業務経験は少なく、「お客さまの悩みや課題感を当事者として理解しきれていないのではないか」と感じていました。「お客さまの気持ちが分かるようになりたい」という思いが募る中、マーケティングクラウドなら当事者として支援できると考えました。なぜなら、マーケティングクラウドはお客さまがマーケターであるからです。私自身もマーケティングの当事者でしたから、気持ちがよく分かります。また、事業の立ち上げも好きでした。   若松 新卒で入社された大手商社では、事業の立ち上げを経験されていますね。日本オラクルに転職後は、そのままキャリアを積まれたのでしょうか。   渋谷 一度、日本オラクルを離れ、ビジネスに関するデータ解析プラットフォームを開発する米国のスタートアップ企業に移りました。当時は、まだ日本にデータドリブン経営が浸透していない状況でした。転職後は、上場企業からスタートアップ企業まで、本当にさまざまな規模やステージの企業と仕事をしました。   個人のキャリアで言えば、複数部門の統括を経験できましたし、それこそ経理からお客さまのシステム修正まで、ありとあらゆる業務に関われて面白かったです。   若松 1人で何役もこなさなければならないのがスタートアップ企業なので、大企業とは違った経験を積まれたわけですね。   渋谷 その後、外資系IT企業に転職し、デジタルツールを使ってお客さまの裾野を広げるためのセールス体制を立ち上げるミッションに参画。2023年7月に日本オラクルに復帰し、国内のNetSuite事業を統括しています。   若松 NetSuiteのマーケティング戦略についてお聞かせください。   渋谷 NetSuite自体は開発されて25年、日本ではリリースから18年たっています。国内の中堅・中小企業のお客さまを中心に、さらに裾野を広げているところで、すでにニーズをお持ちのお客さまだけでなく、潜在的なニーズを先取りする攻めのセールスを展開していこうと考えています。現在、全世界で3万7000社以上のお客さまにご利用いただいており、日本でもNetSuiteの統合クラウドERPソリューションをより多くの企業にお届けしたいと考えています。   Fit to Standardの本質 システムにできる仕事はシステムに任せる   若松 TCGではNetSuiteの導入前に他社のシステムを使っていましたが、オンプレミス(サーバーやソフトウエアなどのシステムを自社に設置し保守・運用する形態)だったこともあり、効率の悪さを感じていました。そこに登場してきたのがクラウドERPでした。   経営で大事なことは、マーケティングやマネジメント系のファイナンス、物流などの機能がバリューチェーンとして連携しながら組織全体がレベルアップすることです。私は、コーポレート戦略本部のデジタル戦略部メンバーとともに、システム変革のコンセプトを「TCG One Platform戦略」と名付けてリーダーシップを取ってきました。その中で、NetSuiteの「ビジネスを最先端のベストプラクティスに合わせていく」という「Fit to Standard」の考え方が非常に良いと判断したのです。   渋谷 システムをカスタマイズするのは、業務に縛られているようにも見えます。ビジネスにおいて、過去のやり方が未来にも正であるケースはほとんどありませんから。企業は変わり続けることでしか生き残れないのです。   私自身、Fit to Standardの考え方はNetSuiteのコンセプトであり強みだと考えています。NetSuiteのソリューションである「Suite Success」は、3万7000社に上る導入企業のデータを分析して抽出したベストプラクティスや、それぞれの国、業種、ビジネスの規模などに合わせた特定の機能を数多くそろえており、各社にフィットする仕組みを提供できます。ただ、お客さまがそれに合わせて業務を変えるには、経営視点のアドバイスが伴っていないと難しいですね。   若松 その通りです。私は、経営者リーダーシップの素養の1つとして、「デジタルリーダーシップが大切である」と言ってきました。デジタルテクノロジーを使って組織を変革したり、生産性を高めたりするリーダーシップは経営そのものですからね。   業務そのものを改善するのではなく、業務は「Fit to Standard」の視点で取り組み、機械に任せられる部分は任せる。いわゆる自動化です。カスタマイズを強みとするシステムもありますが、業務がオリジナル化していくと組織は硬直化します。各社のオリジナリティーに合わせることがフィットすることだと思われがちですが、カスタマイズするほどに組織は硬直化するというのが私の考えです。その上で、人の創造性やクリエイティブな部分を生かさなければ組織の生産性は絶対に向上しません。経営視点で組織を変革する場合、「捨てる、改める、新しくする」のステップが必要ですからね。   渋谷 おっしゃる通りです。NetSuiteもシステムができる部分はシステムに任せ、人はクリエイティブな部分に集中できるようにデザインされています。その結果、組織の生産性は向上します。私たちは、自動化による効率性・生産性向上を実現し、お客さまのお役に立ち続けられることを光栄に思っています。   経営者がデータに基づいて判断できる環境をつくる   若松 日本生産性本部「労働生産性の国際比較」(2023年12月)によると、2022年の日本の1人当たり労働生産性は、OECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中30位。ポルトガルやハンガリー、ラトビアといった東欧・バルト海沿岸諸国とほぼ同水準です。また、OECD加盟諸国の2022年の平均年収ランキングで、日本は26位。イタリア・スペイン・ポーランドと同水準であり、3位の米国の約半分です。   IMF(国際通貨基金)の2022年の世界GDP(国内総生産)ランキング3位の国とは思えないデータです。今後、日本の労働力人口が減少していく中、これらのトレンドを放置すれば日本企業全体が沈んでいく可能性が高まります。   そもそも、日本企業の多くは職務への対価が定義されていません。業務の境界線も曖昧ですが、ERP導入の際に業務をスタンダード化することで「ジョブデザイン」を変えることができます。組織の生産性を変革するチャンスになると私は思います。   渋谷 ツール導入の際にはKPI(重要業績評価指標)を設定しますが、何がやりたいかが決まっていないケースも少なくありません。ツールの導入は、そこを明確にするきっかけにもなります。   若松 DX戦略と経営のビジョンや戦略がひも付いていないからでしょうね。DX戦略を経営戦略や組織戦略の中心に置いて、ビジョンを軸にセグメントや業務を区分けしてKPIを設定するのが本来の姿ですが、TCGの調査によると、ビジョンとひも付いたDX戦略を推進している企業は、残念ながら15.4%に過ぎません(タナベコンサルティング「2023年度デジタル経営に関するアンケートREPORT」)。   また、基幹と直結しないCRM(顧客関係管理)ツールやマーケティングシステムはあり得ません。TCGでは、四半期ごとの業績予測を見ることができるように設計しています。例えば、NetSuiteに入力した売り上げの見込み情報は、セグメントごとに1年後の業績予測が出る形に加工されます。   TCGでは「先行マネジメント」と呼んでいますが、基準をつくってダッシュボード化することが大事です。マネジメントにデータを実装するスタイルであり、全社員がタイムリーに現状と予測の数値を確認できる、いわゆる「ガラス張り経営」のシステムをつくっています。   渋谷 若松社長がおっしゃるTCGの先行マネジメント型のダッシュボードは、どの中堅・中小企業でも必要な機能だと感じます。「経営の可視化」は生産性を上げる鍵になります。   若松 経営者の仕事は「決断」です。私はよく、「『決定』と『決断』は違う」と言います。「決定」は情報がそろった状態で決める行為。一方、「決断」は情報不足の中で決める行為。その解像度を上げるためにも経営の可視化が必要です。   決断には覚悟や勇気が必要ですが、KPIを含めた基準をつくっておくと解像度が上がります。もちろん、TCGでは財務会計もマーケティングもNetSuiteにつなげていますが、クラウド型であるからこそ実現できました。   渋谷 そこがNetSuiteの強みです。日本オラクルでは「真のクラウド」と言っていますが、開発当初からクラウドに特化しており、会計や営業系など全てのツールが同じプラットフォームに置かれるので、あらゆるデータを一元管理できます。これはつまり、お客さまがビジネスをよりコントロールすることで、俊敏性を保ちながら迅速に適応し、経営陣に情報をリアルタイムで提供できるようにすることを意味します。加えて、今後は、蓄積された多様なデータをAIが分析し、お客さまが必要とする仕組みを提案するサービスをスタート予定です。   若松 AIはこれからのDXに不可欠な機能です。AIに期待する部分はどこでしょうか。   渋谷 AIに仕事を任せ、生産性や効率性を高めようという流れがありますが、先日、米ラスベガスで開催された年次ユーザーカンファレンスでは、まさにAIに関する話題で持ちきりでした。NetSuiteはさらに自動化を進め、多くの知見とコントロールを提供し、お客さまの機敏性・コラボレーション・生産性の向上を支援していきます。そのために私たちが使っているテクノロジーの1つがAIで、25年前のクラウドと同じくらい革命的なテクノロジーです。    
ツールは手段だがツールを変えないと成果も変わらない   若松 AIが実装されるとERPの可能性が格段に広がりますね。その意味でも、ERPを導入するならば、ダッシュボードの中でマネジメントしていくシステムをセットで入れるとメリットがより大きくなります。   渋谷 同感です。ERPのようなビジネスシステムは、AIを活用するための良い基盤です。財務・販売・在庫など、ビジネス全体のデータをつなぐERPがあれば、データはより完全なものになります。AIはデータがあってこそなのです。ただ、そのメリットを十分に発揮しようと思うと、やはり逆算の考え方が不可欠です。私自身、ツールを入れていただくことをゴールだとは思っていません。   若松 デジタルは手段であり、ゴールは企業成長であり、経営改革です。それがDXですからね。   渋谷 ツールを使ってお客さまのビジネスを成長させたり、変革させたりすることが重要です。日本オラクルはそのためのサポーター。ですから、「導入してください」というアプローチではなく、「導入したらどう変わるのか」というところまで導ける存在でありたいです。お客さまの成長が私たちの成功だと考えています。   若松 ツールは手段に過ぎません。目的ではない。ただ、一方でツールを変えないと目的地までたどり着けない側面もあります。変革を求めながら、ずっとレガシーシステムのままで良いのかという話です。ガラケーからスマホに変えると生活が変わるように、システムという手段を変えなければ、いつまでたっても次のステージに行けません。そのような会社が多いように思います。   渋谷 同感です。また、そのツールの品質が良くなければデータも生かせません。   若松 例えば、コロナ禍を経て、今では業種を問わずCRM機能が必要とされる時代になりました。コロナ禍以前は顧客とのコミュニケーションにおいて、リアルか、デジタルかが問われていましたが、コロナ禍で完全にデジタルが主流になりました。   そして、コロナ禍が明けて、リアル&デジタルの時代になりました。具体的に言えば、BtoBの建設業であってもCRMチームや自社ウェブサイトを持ち、データベースとERPを直結して業務を標準化する時代です。   そこからさらに、内部業務を担っていたスタッフがクライアントと向き合うようなチームに変えないと生産性は上がりません。コロナ禍が明けて再びリアルが復活していますが、従来のリアルに戻るのではなく、リアルとデジタルの複合型のコミュニケーションが求められています。そうなると、企業も変わらないといけません。   システムと組織変革はセットなのです。特に、マーケティングはこれからの重要な経営課題になります。ERPとどう連結させていくかは重要な課題になると予測します。   「データの民主化」で変化に挑める組織をつくる   若松 渋谷代表は外資系企業での経験が豊富です。そして今は、外資系企業の日本法人の代表を務めていらっしゃいます。環境が大きく変わっていく中で、企業が成長する鍵はどこにあるとお考えですか。   渋谷 日本企業がもっと世界で飛躍するには、変わることを恐れずに変革を推進することです。ただ、経営判断にはデータが必要です。さらに言えば、鮮度の高いデータが不可欠です。私は、リアルタイムで鮮度の高いデータを提供することが正しい経営判断を導くコアになると考えていますし、そのスピード感を大切にしています。   もう1つ、若松社長から決定と決断の違いを教えていただきましたが、経営者は6割、7割の情報でも恐れずに決断していくべきです。誤解を恐れずに言えば、私は間違えても良いと思っています。間違いに気付いたら、間違えたところからやり直したら良い。失敗を恐れて長々と現状維持することが一番悪いことです。そういう意識変革が、日本企業が国際社会で生き残っていくために必要だと思います。私自身も恐れずに決断していきたいと考えています。   若松 その通りですね。私はよく、「間違えたとしても早く決断しなければならない」と言っています。それは、軌道修正ができるからです。渋谷代表がおっしゃるように、経営者は解像度を上げる基準をつくり、変わることを恐れずに決断し、変革を進めていかないといけません。   渋谷 加えて、日頃から大事だと感じているのは、現場も含めて「全員で変わること」です。それを実現するためには「データの民主化」が不可欠です。トップだけがデータを見るのではなく、TCGで実践されているようなガラス張りの経営が求められます。   全員が数字を見ながら一人一人がリーダーになって動くと会社は変わります。ただ、それが可能なツールを入れているところは多くありません。一人一人が自走できる環境づくりが、今後の企業の成長を左右します。   若松 渋谷代表が経験されたように、新人でも経営者のような感覚を養う環境は大切です。それにはまず、全社員が数字を把握すること。ガラス張りにはそういった意味があります。   数字を見るか、見ないかは一人一人に任されますが、関心がある人が全てを把握できる環境をつくらないと、若手にチャンスは生まれにくい。現場の情報の可視化ではなく、現場における経営情報の可視化が必要です。現場の可視化、部門の可視化といった部分的な事例は数多くありますが、経営情報の可視化となるとほとんど事例がありません。そうした機会を若い人にも与えていける経営こそ良い経営だと思います。挑戦する社員を育てていこうとする会社は、自然とシステムと一体になっているように思います。   1人の100歩よりも、全員の1歩が組織に大きな変化を起こします。本対談ではERPの切り口から組織の在り方、人材育成まで気付きの多いディスカッションとなり、多くのヒントをいただきました。ありがとうございました。     日本オラクル バイスプレジデント NetSuite事業統括 日本代表 カントリーマネージャー 渋谷 由貴(しぶや ゆき)氏 富士通、三井物産でのセールス経験を経て、日本マイクロソフト、オラクルマーケティングクラウドでマーケティング、ビジネスディベロップメント、セールスマネジメントを歴任。Domo(ドーモ)ではAPJ(アジア太平洋・日本地域)バイスプレジデントとして経営に参画し、IPOをリード。前職のAWS(アマゾン ウェブ サービス)では、リーダーシップチームの一員としてエンタープライズクラウドセールスを統括。2023年7月から現職、NetSuite Japanリードに着任。     タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ) タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。     タナベコンサルティンググループ(TCG) 大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国600名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来15,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。    

PROFILE

  • 日本オラクル㈱
  • 所在地 : 東京都港区北青山2-5-8 オラクル青山センター
  • 創業 : 1985年
  • 代表者 : 取締役 執行役 社長 三澤 智光
  • 売上高 : 2269億1400万円(2023年5月期)
  • 従業員数 : 2398名(2023年5月現在)