2025年開催の日本国際博覧会(大阪・関西万博)に向けて建設中の「R&D国際交流センター」内で竣工した、移設可能な木造のアリーナ「咲洲モリーナ」前にて。本対談で使用した椅子も、同社が手掛けるリース・レンタル事業の製品の1つ
建設機械のリース・レンタル事業で成長
若松 ニシオホールディングスは、建設機械におけるリース・レンタル事業のパイオニアであり、国内だけではなく、海外でもレンタル事業を展開されています。創業の経緯をお聞かせいただけますか。
西尾 当グループは、大手メーカーの下請けとして1959年に宝電機(現西尾レントオール)を設立したのが始まりです。
レンタル事業を本格的にスタートしたのは1965年。公認会計士でもあった父の西尾晃が労働集約型の下請けビジネスから脱却し、資本集約型のビジネスを模索する中で道路機械のレンタル事業を始めました。高速道路や日本万国博覧会(1970年)など大型の工事が多く、建機が足りない時代でした。
若松 リース・レンタルという着眼が素晴らしいです。時代の変化を読む力とファイナンスの技術の両方に長けておられたのですね。売上高1706億3400万円(2022年9月期)のうち、レンタル関連事業が1641億8000万円に上るほか、海外事業も着実に成長しています。
西尾 詳細を言うと、レンタル関連事業のうち90%が建設系、10%がイベント関連です。建設分野は60年近い実績がありますし、市場規模が約1兆3000億円と大きいですから。また、海外比率は10%を超えたところです。
若松 私は自身のコンサルティング臨床データから、売上高の海外比率が20%を超える企業をグローバル企業と呼んでいます。海外事業はどのような形で拡大されているのでしょうか。
西尾 M&A戦略が中心です。東南アジアはODA(政府開発援助)や日本企業の海外進出に伴って建設会社が海外展開を進めた1990年代以降に拠点を開設しました。2016年以降は市場規模が3000億円以上に上るマーケットであるオーストラリアに進出しています。現地の会社をグループインする形で市場参入しており、運営はオーナーをはじめ現地スタッフに任せています。
若松 日本人をトップに置いていないのですね。私は「現地の人材がトップを担い、現地の企業を支援できる体制こそが真のグローバル戦略」と言っています。
西尾 日本人は1人も派遣していません。売上高30~50億円くらいの会社であれば、オーナーとしっかりと信頼関係をつくって任せる方が経営は安定するように思います。
若松 西尾社長の考えるクロスボーダーM&A戦略についてお聞かせください。
西尾 M&Aを行ったのは5社ですが、統合して現在は2社体制になっています。「マーケットの違いをどう生かすか」が重要だと考えています。オーストラリアは物価が高くてレンタル料も高額。加えて安全基準が厳しく、10年経過すると気軽にレンタルできない機械もあります。一方、日本は品質がしっかりしていれば20年ぐらいはレンタルが可能ですが、過当競争でレンタル料は下がっています。
ですから、まずオーストラリアでレンタルして投資額を回収した後、品質を保持した上で日本でレンタルしたり、東南アジアに持っていったりすることで価格競争にも強くなる。各社を取り巻く環境を鑑みて、マーケットの特性を組み合わせることで、効率的な資産運用が可能になります。
若松 建設機械レンタルのバリューチェーン特性を、海外事情や法規を理解した上で組み替えていくわけですね。グローバル戦略で成功している会社の特徴の1つに地域密着スタイルが挙げられます。まさにパイオニア的な価値創造であり、オリジナリティーのあるビジネスモデルですね。
「ロジスティックス・イノベーション」で新たな価値を提供
若松 中期経営計画「Vision2023」では、新たな物流網の構築を目指して「ロジスティックス・イノベーション」を推進されています。先ほどのグローバル展開も同様の戦略コンセプトにあると理解します。
西尾 建設機械のレンタルをもう少し大きなくくりで捉え直す試みが「建設ロジスティックス」の考え方です。加えて「働き方改革」により、2024年4月からドライバーの時間外労働は上限規制されますが、それによって建設機械の運搬を手掛ける事業者が減少するのではという危機感がありました。
そもそも建設機械の運搬には特殊な免許が必要な上、建設工事が始まる前、朝一番に現場に到着しておかなければならないなど、通常運搬よりも条件が多いのが特徴です。ですから、信頼できる運送事業者と強いパートナーシップを築き、一部は自社で運搬できるようにしなければ商売が成り立たなくなるという強い危機感が前提としてありました。
ただ、この高いハードルが逆にビジネスチャンスを生みます。しっかりと体制を構築できれば、建設現場向けのさまざまな運送ビジネスを手掛けられるのではないか。これがロジスティックス・イノベーションの発想です。
若松 建設機械のレンタルという自社の強みと、物流業界の社会課題を結び付けて根底から解決するバリューチェーンを開発し、事業価値を高めるビジョンです。
西尾 ロジスティックス・イノベーションについては、次の中期経営計画でも引き続き取り組んでいきます。現在、熊本県でTSMC(台湾積体電路製造)社の大規模な半導体工場の建設が進んでいます。当社にとって九州はこれまで弱いエリアでしたが、物流の考え方を導入することで成果が上がっています。
これまでは技術的な視点から、高品質のレンタル資産や、その長寿命化を図る管理に重点を置いてきましたが、今は注文に即応できるデリバリーセンターのような機能へと概念が変わっています。
若松 必要なときに必要なものを提供できる仕組みが必要になります。業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略も鍵になりますね。
西尾 その通りです。無人化施工通信システムとして展開しています。大手メーカーの建機は最初からICT(情報通信技術)化されていますが、実際の現場では中小メーカーの機械や古い機械も多く使われています。当社には、そういった機械に通信機能を後付けする技術があります。
例えば、1991年に長崎県・雲仙岳が噴火した際は、機械に通信機能を付け、中継車を使って何キロメートルも先から操作する実験を行いました。それ以降も継続的に機械に通信機能を後付けする技術開発に取り組んでおり、得意分野といえます。