「誠実・挑戦・成長」を胸にモノ・ヒト・ユメづくりに挑む200年企業:石塚硝子 代表取締役 社長執行役員 石塚 久継×タナベコンサルティング 若松 孝彦
「誠実・挑戦・成長」を掲げる200年企業
若松 タナベコンサルティンググループのチームコンサルティングでのご縁に感謝します。
石塚硝子は2023年に創業204年を迎えられました。現在は、ガラスびんや食器、紙パック、PETボトル用プリフォーム(PETボトルの原型となる材料)の製造など、ガラスにとどまらない分野へも展開されています。長い歴史の中、どのような経緯で事業を拡大されてきたのでしょうか。
石塚 当社の創業は江戸時代にさかのぼります。長崎県でガラスの製造技術を学んだ創業者の石塚岩三郎は、1819年に現在の岐阜県可児市土田で装飾品を中心にガラス製造を始めました。
明治時代にはランプのホヤやガラスびんの製造販売、さらに戦後は牛乳びんの製造販売へと事業を広げた後、1961年に愛知県に岩倉工場を新設稼働したのをきっかけに食器事業へ本格参入しました。食器ブランドの「アデリア」が誕生したのもこの時期です。
若松 祖業であるガラス以外の素材に広がったのはいつごろですか。
石塚 プラスチック容器に進出したのは1972年。その4年後の1976年に紙容器事業への参入を経て、1997年にPETプリフォーム事業をスタートさせました。当社の場合、新しい事業を模索して進出したというよりも、取引先である飲料メーカーの要望に応えて一緒に取り組んだ結果、事業が増えていった形です。
若松 祖業のガラス事業がテーブルウエア事業へと広がり、さらに容器というつながりでプラスチック容器や紙パックへとセグメント(事業領域)が広がっていったのですね。
そもそも、器は料理や食品を入れる、いわば脇役的な存在ですが、それがないと主役は販売できません。食品メーカーと一緒になって料理や食品の価値を高める石塚硝子は、物語になくてはならない“名脇役”のような存在ですね。200年の存続の理由だとも感じました。
石塚 “名脇役”とはうれしいですね。とても良い表現なので、社内でも使わせていただきたいと思います。
若松 歴史ある会社には、そのようなポジションを守ってこられた会社が多くあります。創業200年を迎えたタイミングで企業理念を改訂されたとお聞きしましたが、大きな決断ですね。どのような意思をもって改訂されたのでしょうか。
石塚 それまでは、社是として「誠実・努力・創造」を掲げていましたが、新たな企業理念の策定に際し、「わたしたちの約束」として「誠実・挑戦・成長」という言葉に変えました。
誠実は当社のアイデンティティーであり、変えてはいけない部分だと考えています。今回の改訂に当たっては、プロジェクトを立ち上げて比較的若い社員に考えてもらいました。これからのカルチャーにしていきたいキーワードとして挙がったのが、「挑戦」や「成長」です。努力や創造はもちろん大事ですが、最終的には未来に向けた期待を込める意味で「誠実・挑戦・成長」としました。
新工場の竣工により事業拡大と環境保全に貢献
若松 石塚硝子の2023年3月期の売上高は567億4900万円、営業利益は22億1000万円と、急激な原料高の中でも利益を上げています。セグメントとしては、「ガラスびん関連事業」「ハウスウェア関連事業」「紙容器関連事業」「プラスチック容器関連事業」「産業器材関連事業」「その他事業」があり、売上比率はガラスびん関連事業・ハウスウェア関連事業・プラスチック容器関連事業の3事業が7割強を占めています。
石塚 全てのセグメントで原材料費やコストが上昇しています。営業利益は約22億円となりましたが、個別に見るとガラスびん関連事業は厳しい状況が続いています。原材料費やコストの上昇もありますが、ガラスびんの市場自体が1990年をピークに毎年3%近く縮小を続けており、国内のガラスびん市場は供給過剰によるコスト競争にさらされていました。
そうした環境やコロナ禍という社会情勢を踏まえ、2022年にガラスびんを製造していた姫路工場を閉鎖しました。姫路工場の閉鎖も一因となってガラスびんの需給関係が逆転し、状況は改善しています。ガラスびんには、密閉保存性の高さや高級感があるといった理由で根強い需要もあり、今後も一定の需要が続いていくものと想定しています。
若松 事業や商品に対する経営資源の再配分を決断しないと事業は存続しません。姫路工場はPETボトル用プリフォームを製造する工場になると伺いました。
石塚 2024年に竣工予定です。最大のセグメントであるプラスチック容器関連事業は、操業開始によってこれまで以上に事業規模が拡大すると見込んでいます。
また、新工場ではリサイクルPET原料を使用した資源循環型の「ボトルtoボトル」を拡大させることで、CO2削減やカーボンニュートラルにさらに貢献できます。当社では2030年度のCO2排出量50%削減(2015年度対比)を目標に取り組んでいますが、達成の鍵を握るのが、CO2排出量の少ない材料である再生PETレジンの使用です。2022年度の再生レジンの使用率は約40%でしたが、姫路工場の稼働によるボトルtoボトルの推進によって、使用率を飛躍的に高められると考えています。
若松 新工場によって事業構造が大きく変わりますし、サステナブル経営という面でも重要な役割を果たしますね。
昭和のデザインを復刻し版権ビジネスに進出
若松 ハウスウェア関連事業では、2015年に子会社化した鳴海製陶のブランドである「NARUMI(ナルミ)」や、昭和のデザインを復刻した「アデリアレトロ」などのブランド力が急速に高まっている印象です。NARUMIはグローバル展開に貢献しており、アデリアレトロは女性社員を中心に開発されたそうですね。
石塚 2023年3月期の業績が好調だった理由の1つは、NARUMIが過去最高益を記録したことにあります。円安の影響もあり、NARUMI製品の売上高約50億円のうち、半分以上を海外市場が占めました。NARUMIに関しては、海外でいかに伸ばしていくかが1つの鍵になると考えています。
若松 国内外で長年培ったブランド力がありますから、強化すべき分野ですね。アデリアレトロはどのような経緯で再販されたのでしょうか。
石塚 アデリアレトロは、当社が昭和40年代に製造していた食器のデザインを2018年に復刻したものです。若い女性社員の発案で挑戦することにしました。SNS上でも非常に話題になりましたが、正直にいえば予想以上の反応に驚いています。
実は、最初に提案があったとき、上長は反対したそうです。当社は歴史が長いだけに年配の男性社員も多く、古びたデザインに懐疑的な意見が多くありました。ただ、ふたを開けてみると、50歳代以上のかつてのお客さまだけでなく、「映え」に敏感なSNSのユーザー層にも多く使っていただいています。
若松 権限を委譲し、任せる開発が功を奏した形ですね。ブームが文化に昇華するとロングテール化が期待できます。
石塚 当社が製造するグラスなどの食器だけでなく、文房具や服飾品などにもアデリアレトロのデザインが使われるようになりました。創業以来初の版権ビジネスにも広がっており、ファンを中心にブランドが浸透してきているので、大事に育てていきたいと考えています。
ブランドで言えば、青森県の伝統工芸品で1点1点手作りの「津軽びいどろ」も人気が高まっています。お声掛けいただいて「東京ミッドタウン八重洲」にも出店しました。ようやく国内観光が復活してきているので、インバウンドも含めて今後の展開に期待しています。