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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2023.05.01

住まいと暮らしを提案し地域シェアナンバーワンを実現するファーストコールカンパニー:シアーズホーム 代表取締役 丸本 文紀×タナベコンサルティング 若松 孝彦

 

 

熊本県で圧倒的なシェアを誇るシアーズホームグループ。強さの秘ひ訣けつは、独自の人づくりと幅広い顧客層をカバーする商品力にある。同社の代表取締役である丸本文紀氏に、グループ売上高1000億円へのビジョンを聞いた。

 

 

経営哲学のある企業を目指して独立

 

若松 日頃より、当社チームコンサルティングでのご縁に感謝します。熊本県に拠点を置くシアーズホームは、熊本県や福岡県、佐賀県、鹿児島県の九州地方で住宅事業を展開されています。創業は1989年。2024年には創業35周年を迎えられますが、どのような経緯で起業に至ったのかをお聞かせください。

 

丸本 私は大学卒業後、妻の父が経営していた小売企業に入社し、11年ほど勤務しました。独立に至った理由はいくつかありますが、その1つが「何のために働くのか」を考えたとき、その答えを見いだすことができなかったこと。社員を引っ張っていくにはフィロソフィー(経営哲学)が必要ですが、そういったものが当時なかったことが一番の理由でした。

 

役員として店舗統括を任されていた私は、経営には「哲学や理念が大事だ」と経営陣に何度も進言したものの、話がかみ合いませんでした。同族経営で義父の兄弟が何人も役員を担当していましたが、彼らも「必要ない」の一点張りで却下されてしまう。「だったら、自分で理想の会社を創ろう」と独立することにしました。

 

若松 「何のために経営しているのか」。その問いは、経営者スピリッツの大事な第1ボタンです。難しい選択をされましたね。最初から住宅事業と決めて独立されたのでしょうか。

 

丸本 辞めたときは何をするか決めていませんでした。熊本県の経済同友会の仲間が何人も「うちに来ないか?」と誘ってくれましたが、お断りしました。社員とともに未来を見て、歩いていく会社を目指すなら、やはり自分がトップに立つべきだと考えたからです。

 

資本金500万円を借金で工面して不動産の仲介事業を始めました。参入障壁が低い点が不動産業を選んだ理由です。先輩の会社の一角を月5万円で借りて、机1つと電話1台を置かせてもらい、私1人でスタートしました。

 

当たり前ですが、最初は電話の1本も掛かってきません。そこで、不動産情報誌に掲載されている連絡先に直接出向いて「私に売らせてください」とお願いして回り、任された土地に旗を立てるなどの営業活動をするうちに、月150万円ほど稼ぐようになりました。ただ、やはり1人は寂しいので、半年が過ぎたころに数名の社員を採用し、その後は事業拡大に伴って社員を増やしていきました。

 

若松 「お金は貸してくれないもの、顧客は買ってくれないもの、人は来てくれないもの」「金なし、人なし、信用なし」が創業の原点であり、丸本社長の原体験ですね。現在の主力である住宅事業に参入されたのはいつごろですか。

 

丸本 1993年です。おかげさまで累計着工棟数は約8500棟(2022年7月現在)を超えており、九州地場資本の住宅メーカーとして九州ナンバーワンを獲得しています。前期の引き渡しは933棟(2022年4月期)と前年の837棟(2021年4月期)から大きく伸ばすことができました。熊本県内のシェアは断トツのナンバーワン、2位の企業とは倍以上の差があります。

 

 


シアーズホームグループの累計着工棟数は約8500棟以上(2022年7月現在)。安全・安心であることはもちろん、顧客が満足して喜ぶ快適な家づくりを提案している

 

 

最も喜ばれた会社が地域シェアナンバーワンを獲得できる

 

若松 住宅事業に参入されてから、わずか20年で九州トップクラスの販売実績を記録されるとは素晴らしいです。住宅は地域密着産業。協力業者も含めて一体経営ですから、地域特性を理解した上で最適なバリューチェーンを構築できる企業が強みを発揮します。

 

丸本 住宅は唯一無二の商品サービスであると考えています。土地の大きさや形も違いますし、プランも異なるので同じ家は1つもありません。その意味でも、住宅は地域密着産業の代表と言えます。

 

住宅産業は、地域のお客さまに一番喜んでもらえる仕事をした企業が勝ち残ります。福岡県には福岡県のやり方があり、熊本県には熊本県の考え方があるように、地域ごとの違いを把握しなければなりません。地域を限定する方が生産性は上がりますし、社員の給与も上げることができます。

 

若松 トップシェアを獲得すると生産性が上がり、利益が上がり、社員の給与も上がってさらにサービス品質が向上する。この善循環に入ると企業成長のスピードは上がります。

 

丸本 エリアを絞って投資を行い、人を動かして地域で1番のサービスを提供する。それによって圧倒的なシェアナンバーワンを獲得し、その後も競争優位を守っていくのが当社のモデルです。圧倒的なシェアナンバーワンを獲得してから他の地域に広げていく戦略で、現在は福岡県と佐賀県、鹿児島で事業を展開し、九州全土に貢献していきます。

 

若松 「住まいと暮らし」を中心にビジネスを展開されています。事業の核となるビジネスモデルについてお聞かせください。

 

丸本 住宅の満足とは何かと言えば、私は「人」だと考えています。ですから、人づくりを最も重視しています。もちろん、技術や商品も大事ですが、アセンブリー産業※1ですから「構造を強くする」「自然素材を使う」「高気密・高断熱」など、さまざまなニーズに対応することは当然です。だからこそ人が重要であり、人材育成を一番大事にしています。

 

お客さまを思って家を造れば、その心はお客さまにも伝わるものです。新築祝いの場などで、お客さまが家の自慢と一緒に「あの会社は良かった」「営業担当者が良かった」「接客も良かった」と宣伝してくださいます。

 

若松 シアーズホームグループでは、タナベコンサルティングが開発した「TCGアカデミー(企業内大学)」を活用いただいており、「思想営業」という独自のメソッドをカリキュラムに組み込んでいらっしゃいます。

 

丸本 思想営業とは、「お客さまに対する思いを形にすること」であり、礼儀・礼節や打ち合わせの記録、お礼状などが含まれます。

 

例えば、打ち合わせが終わったらお礼状を送りますが、感謝の気持ちだけでなく打ち合わせの内容を入れたり、それに対する提案をちりばめたりして書く。そうすると、お客さまに「この会社ならきちんとやってくれるな」と感じていただけるはずです。心を込めた対応には、お客さまも心で返してくださいますし、利益につながる。ですから、そうした営業ができる人材をつくっていかないといけません。松下幸之助氏に倣えば、「家を造る前に人をつくらないと良い家はできない」と思っています。

 

若松 思想営業のほかにも、顧客ニーズに合わせて「松・竹・梅」と差別化した商品を提案するシステムや、注文・規格住宅やコンパクト分譲、リフォーム・イノベーションなどの“家を売る”マーケット全てをカバーする徹底した地域密着型のビジネスモデルで地域シェアナンバーワンを実現しているのですね。そこに「ファーストコールカンパニー(100年先も1番に選ばれる会社)」の理由があります。