100年経営対談
2023.03.01
商品価格以上の価値を提供し続け、「漢方のブランド企業」を目指す:山本漢方製薬 代表取締役社長 山本 整×タナベコンサルティング 若松 孝彦

販売累計34億杯を突破した青汁「大麦若葉」シリーズを筆頭に、数々のトップシェア商品を生み出してきた山本漢方製薬。2027年の創業50周年に向け、「次世代に向けたチャネル拡大」に取り組む。鍵を握るのは、グローバル展開も視野に入れた細やかなマーケティング戦略だ。
ドラッグストア市場で14年連続トップ売り上げの「大麦若葉」
若松 愛知県小牧市を拠点に創業45周年を迎えた山本漢方製薬は、中部地方の優良企業として知られています。漢方と生薬の専門技術を生かして国内外にファンを育てていらっしゃいます。
山本社長は先代から経営のバトンを2006年に受け継がれ、ドラッグストアというチャネルで「杜仲茶」「どくだみ茶」といった健康茶をはじめ、「大麦若葉」シリーズなど数多くの定番商品を開発。当時、私はコーポレートブランディングの一環としてテレビCMの発信をアドバイスしましたが、2021年にはテレビCMを全国エリアで展開されました。
山本 おかげさまでテレビCMは好評を博し、お客さまだけでなく社員も喜んでいます。2019年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)から提案いただき、すぐに取り組みを開始しました。2021年から本格的にプロモーションを展開していますが、「山本漢方製薬」という企業ブランドが浸透してきたように感じます。次世代に継承するためにも、私が現役のうちに「ヤマカン」の社名をしっかりと浸透させていきたいですね。
若松 山本漢方製薬という社名が持つ可能性は計り知れません。一つ一つの商品の背景にある価値が余すことなく表現されている社名だと思います。創業の原点となる商品は、漢方の民間薬でした。
山本 古くから漢方薬店を営む家系に生まれた父・山本邦男が、ヨーロッパで使われていたハーブティーのティーバッグに着想を得て、煎じなくても手軽に飲むことができるティーバッグの生薬を開発し、1977年に独立起業したのが始まりです。生薬ならではのにおいや癖をできるだけなくし、味の良さと低価格にこだわることで大ヒットしました。
他にも、便秘薬の「センナ」やイボや皮膚の荒れに効く「ヨクイニン」など、今でもお客さまにリピートいただくロングセラー商品が多数あります。ずっと使い続けてくださるお客さまがいることは、本当にありがたいことですね。市場にはさまざまな商品が次々と出てきますので、ピーク時と比べるとシェアは下がっていますが、勝つことができるマーケットに絞り込んでいます。
若松 中でも「大麦若葉」は、2021年度のドラッグストア市場で14年連続トップの売り上げです。(【図表】)
【図表】2021年度のドラッグストア市場における青汁のシェア
出所:山本漢方製薬提供資料よりタナベコンサルティング作成
山本 生薬と同じように、「シンプルで飽きのこないおいしさ」をとことん追求した青汁です。日本・イタリア・中国・ハンガリーの契約指定農場で栽培した大麦の若葉を国内自社工場で超微粉末に加工し、水に溶けやすくしています。
若松 真の意味で「ニッチトップポジション」を確立されたと言えるでしょう。
次代に向けてハイブリッドなデジタル戦略を
若松 ドラッグストア市場で高いシェアを勝ち取っている一方で、通販という市場の大きさも見逃せません。
山本 おっしゃる通りです。ただ、近年は様相が変わってきたように思います。何しろ、メーカーが自社で通販を行える時代ですから。通販は参入企業が多く、顧客の囲い込みが強く流動性が低いので、新規顧客数のボトムアップは重要な経営課題の一つです。例えば、ドラッグストアに足を運ばない80歳代のお客さまにどうアプローチしていくか、などですね。
若松 コロナ禍で高齢層にも加速度的にスマートフォンが普及し、デジタルリテラシーが向上しているのは事実です。CX(顧客体験価値)の観点で見ると、デジタルとアナログのハイブリッドでさまざまなツールを並行利用する必要があります。
山本 先代の時代から続けている「ポイント券制度」は当社の販促の柱ですので、デジタル化は丁寧に進めていきたいと考えています。この制度は、商品に同梱されているパンフレット掲載のポイント券を10点集めて当社に郵送すると、好きな商品を無料で1つプレゼントするというものです。
あまりにもアナログな手法なので、若い方は驚かれるでしょう。しかし、さまざまな選択肢があり、短期間でのブランドチェンジが当たり前の時代に、10回もリピートしてくださるお客さまには「何か少しでもお返ししなければ」という思いがあります。ありがたいことに、今でも1日約1000通、年間20~30万通の応募をいただきます。手書きのお便りを寄せてくださるファンの方も多く、当社の宝物ですね。
若松 86万人という顧客名簿数は、長年の地道な取り組みによって育まれてきた結果であり、財産ですね。
山本 アナログにしてもデジタルにしても、「お客さまに喜んでいただく商品・サービスを提供する」という顧客への約束は不変です。まずは3回以上リピートしていただける魅力的な商品を作る。それしかないと思っています。
山本漢方製薬の代表的な商品である「大麦若葉」シリーズ。「ドラッグストアで一番売れている青汁」として、販売累計数34億杯を突破(左)2021年6月に「大麦若葉」シリーズの新CMを公開。青汁のアレンジレシピを紹介するなど、夫婦・家族そろって生活に青汁を取り入れる方法を紹介(右)
「商品に価格以上の価値を提供する」という
顧客との約束は不変です
漢方領域でバリエーション拡大に挑戦
若松 「山本漢方製薬だから買う」という企業ロイヤルティーの向上は、企業ブランドを確立する上でより重要になります。未来に向けて、これからどのような点に力を入れていきたいとお考えですか。
山本 「健康」だけではなく「美容」という切り口、特に男性の美容ニーズに応えていける商品を模索していきたいですね。先日、20歳代前半の男性社員3名に化粧水を使っているかどうかを聞いてみたところ、「社長、当たり前じゃないですか!」と言われてしまいました。私自身は化粧水を使ったことがないのでまだ半信半疑ですが、例えば「40歳代の男性用の美肌サプリメント」など、ターゲットを細分化してさまざまな商品の開発にチャレンジしたいと考えています。
若松 消費者の専門化が進む時代において、全ての人にとって良い商品をつくることは難しいでしょう。漢方という専門領域で、専門化した顧客に応えることができる商品のバリエーションを持ち、それぞれの商品でニッチトップを目指す。そして、それらを総合したブランドイメージを確立する。こうした流れが重要です。
山本 毎年、「今年が勝負だ」と感じますが、2023年こそ正念場であると気を引き締めています。商品のバリエーションを増やすことはコストアップにもつながってしまうので、製造業としては二の足を踏んでしまいがちですが、多少手間がかかったとしてもアイデアを出して挑戦していかなければなりません。「山本漢方製薬」というブランドを使って、どのように通販チャネルで拡大していくか、発想力が試されますね。
エバンジェリストとのコラボで海外顧客の開拓を加速
若松 コロナ禍で健康志向が高まっていますが、商品の売り上げにはどのような変化が見られますか。
山本 乳酸菌、マカ、高麗人参などサプリの売り上げが伸びています。当社では、粉末・顆粒・錠剤・チュアブル錠など、さまざまなタイプに加工できる生産設備を整備しています。2019年にエキス粉末へ加工できる最新設備を導入したことで、商品設計の幅が大きく広がり、軌道に乗ってきました。原材料から有効成分を抽出するエキス工程は、生薬の特性に合わせて温度や加熱時間などをきめ細かく調整しなければならないので、高度な設備が必要だったのです。今後は、サプリのバリエーション展開も考えています。例えば、トレーニングを行う人口の裾野がずいぶん広がっていますから、プロテイン系のサプリなどを開発しても良いかもしれません。
若松 プロテイン系のサプリは、いま注目されているSNSマーケティングとも相性が良さそうです。そうなると、重要になるのは自社商品の魅力を顧客に正しく伝えることができる伝道師(エバンジェリスト)の人選ですね。
インフルエンサーがSNSで紹介する商品・サービスは圧倒的に売れます。結果が出るスピードが違う。企業のSNS公式アカウントとは桁違いのフォロワーとつながっているインフルエンサーも数多くいます。1つの大きな市場を持っていると言っても良いでしょう。SNSマーケティングは、販売個数に直結する最重要課題の1つではないでしょうか。
山本 おっしゃる通りです。ドラッグストアとは違うチャネルとして、商品開発の段階からきめ細かくデザインしていきたいと思います。
若松 山本漢方製薬の商品をまだ使っていない人たちが集まるマーケットは、全てSNSマーケティングにおいて可能性のあるマーケットです。その1つは海外にあるかと思いますが、グローバル展開の現状はいかがでしょうか。
山本 おかげさまで着実に成長しています。タナベコンサルティングと海外戦略を策定し、台湾のコストコに進出したのが2013年。その後、中国・香港・マレーシア・タイ・米国でも販売をスタートし、市場を育てています。
今後は海外PRの新しい仕組みもつくっていく予定です。海外売上高比率を現在の10%強から20%へと飛躍させていく上で、米国のオーガニック市場への展開も見据えています。
若松 米国のオーガニック市場は、ポテンシャルが高いマーケットと言えます。米国は健康に対する価値観や本気度が違いますからね。米国オーガニック・トレード協会(OTA)の「2022 オーガニック業界調査」(2022年6月)によると、2020年の米国におけるオーガニック製品の売上高は、前年比12%増の619億ドルと初めて600億ドルを超え、2021年には同2%増の630億ドル(約8兆1900億円、1ドル130円換算)となりました。オーガニック製品の市場拡大の背景には、主に地球環境への配慮などがありますが、コロナ禍による家庭内食需要の急増も要因の1つです。
2024年には物流センターが竣工予定
若松 今後のグローバル展開も踏まえたプライシング(価格設定)の方針については、どのようにお考えでしょうか。
山本 販売価格はブランド価値の向上と連動して決めています。円安やインフレ対策については、商品を値上げする前にできることがまだあると考えています。包装袋の厚みを変えたり、大きさを細くしたり、さまざまな工夫でコストダウンを図っているところです。「原価が上がったから商品を値上げする」というのは、お客さまに失礼ですから。
若松 コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻を通して、物流戦略の重要性もあらためて浮き彫りになりました。
山本 当社では2022年、小牧市の製造工場の隣接地に900坪の土地を購入して物流センターの建設を進めており、2024年夏に完成予定です。インドやイタリアなどから原材料を輸入しているので、為替変動や国際情勢の変化といったさまざまなリスクを見越して、1、2年分を倉庫に常備できる体制を整えたいですね。また、将来的には敷地内にプラント工場も設置できるよう進めています。
若松 「商品価格以上の価値を提供」し、「お客様に喜んでいただき、『安心と満足』を提供しなければならない」という山本漢方製薬の経営理念にもつながる未来投資ですね。世界に展開されるブランド企業へと飛躍されるよう、引き続きご支援させていただきます。本日はありがとうございました。
山本漢方製薬 代表取締役社長 山本 整(やまもと せい)氏
1962年愛知県生まれ。1980年井藤漢方製薬入社後、1992年山本漢方製薬入社。2007年より現職。
タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
タナベコンサルティンググループ(TCG)
大企業から中堅企業のビジョン・戦略策定から現場における経営システム・DX実装までを一気通貫で支援する経営コンサルティング・バリューチェーンを提供。全国600名のプロフェッショナル人材を有し、1957年の創業以来15,000社の支援実績を持つ日本の経営コンサルティングのパイオニア。
PROFILE
- 山本漢方製薬(株)
- 所在地:愛知県小牧市多気東町157
- 創業:1977年
- 代表者:代表取締役社長 山本 整
- 売上高:60億800万円(2022年4月期)
- 従業員数:45名(2022年4月期)