商品価格以上の価値を提供し続け、「漢方のブランド企業」を目指す:山本漢方製薬 代表取締役社長 山本 整×タナベコンサルティング 若松 孝彦
ドラッグストア市場で14年連続トップ売り上げの「大麦若葉」
若松 愛知県小牧市を拠点に創業45周年を迎えた山本漢方製薬は、中部地方の優良企業として知られています。漢方と生薬の専門技術を生かして国内外にファンを育てていらっしゃいます。
山本社長は先代から経営のバトンを2006年に受け継がれ、ドラッグストアというチャネルで「杜仲茶」「どくだみ茶」といった健康茶をはじめ、「大麦若葉」シリーズなど数多くの定番商品を開発。当時、私はコーポレートブランディングの一環としてテレビCMの発信をアドバイスしましたが、2021年にはテレビCMを全国エリアで展開されました。
山本 おかげさまでテレビCMは好評を博し、お客さまだけでなく社員も喜んでいます。2019年にタナベ経営(現タナベコンサルティング)から提案いただき、すぐに取り組みを開始しました。2021年から本格的にプロモーションを展開していますが、「山本漢方製薬」という企業ブランドが浸透してきたように感じます。次世代に継承するためにも、私が現役のうちに「ヤマカン」の社名をしっかりと浸透させていきたいですね。
若松 山本漢方製薬という社名が持つ可能性は計り知れません。一つ一つの商品の背景にある価値が余すことなく表現されている社名だと思います。創業の原点となる商品は、漢方の民間薬でした。
山本 古くから漢方薬店を営む家系に生まれた父・山本邦男が、ヨーロッパで使われていたハーブティーのティーバッグに着想を得て、煎じなくても手軽に飲むことができるティーバッグの生薬を開発し、1977年に独立起業したのが始まりです。生薬ならではのにおいや癖をできるだけなくし、味の良さと低価格にこだわることで大ヒットしました。
他にも、便秘薬の「センナ」やイボや皮膚の荒れに効く「ヨクイニン」など、今でもお客さまにリピートいただくロングセラー商品が多数あります。ずっと使い続けてくださるお客さまがいることは、本当にありがたいことですね。市場にはさまざまな商品が次々と出てきますので、ピーク時と比べるとシェアは下がっていますが、勝つことができるマーケットに絞り込んでいます。
若松 中でも「大麦若葉」は、2021年度のドラッグストア市場で14年連続トップの売り上げです。(【図表】)
【図表】2021年度のドラッグストア市場における青汁のシェア
山本 生薬と同じように、「シンプルで飽きのこないおいしさ」をとことん追求した青汁です。日本・イタリア・中国・ハンガリーの契約指定農場で栽培した大麦の若葉を国内自社工場で超微粉末に加工し、水に溶けやすくしています。
若松 真の意味で「ニッチトップポジション」を確立されたと言えるでしょう。
次代に向けてハイブリッドなデジタル戦略を
若松 ドラッグストア市場で高いシェアを勝ち取っている一方で、通販という市場の大きさも見逃せません。
山本 おっしゃる通りです。ただ、近年は様相が変わってきたように思います。何しろ、メーカーが自社で通販を行える時代ですから。通販は参入企業が多く、顧客の囲い込みが強く流動性が低いので、新規顧客数のボトムアップは重要な経営課題の一つです。例えば、ドラッグストアに足を運ばない80歳代のお客さまにどうアプローチしていくか、などですね。
若松 コロナ禍で高齢層にも加速度的にスマートフォンが普及し、デジタルリテラシーが向上しているのは事実です。CX(顧客体験価値)の観点で見ると、デジタルとアナログのハイブリッドでさまざまなツールを並行利用する必要があります。
山本 先代の時代から続けている「ポイント券制度」は当社の販促の柱ですので、デジタル化は丁寧に進めていきたいと考えています。この制度は、商品に同梱されているパンフレット掲載のポイント券を10点集めて当社に郵送すると、好きな商品を無料で1つプレゼントするというものです。
あまりにもアナログな手法なので、若い方は驚かれるでしょう。しかし、さまざまな選択肢があり、短期間でのブランドチェンジが当たり前の時代に、10回もリピートしてくださるお客さまには「何か少しでもお返ししなければ」という思いがあります。ありがたいことに、今でも1日約1000通、年間20~30万通の応募をいただきます。手書きのお便りを寄せてくださるファンの方も多く、当社の宝物ですね。
若松 86万人という顧客名簿数は、長年の地道な取り組みによって育まれてきた結果であり、財産ですね。
山本 アナログにしてもデジタルにしても、「お客さまに喜んでいただく商品・サービスを提供する」という顧客への約束は不変です。まずは3回以上リピートしていただける魅力的な商品を作る。それしかないと思っています。