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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2022.08.01

顧客中心の一気通貫体制で総合リフォーム業全国ナンバーワン:ニッカホーム 代表取締役会長 榎戸 欽治氏×タナベコンサルティング 若松 孝彦

 

 

総合リフォーム業のファーストコールカンパニーとして、グループ売上高504億円、社員数1354名を誇るニッカホーム。セールスエンジニアが営業から施工管理、引き渡しまでを担当する独自の仕組みでリフォーム業界を席巻し、空間ビジネスへと事業領域を広げる背景には、社員の自主性を重んじる経営スタイルがある。

 

 

業界の常識を覆す顧客中心の総合リフォームモデル

 

若松 東海エリアを中心にリフォーム業を全国展開するニッカホームは、総合リフォーム店として売上実績全国ナンバーワン(『リフォーム産業新聞』総合リフォーム部門、2020年11月23日号)を実現され、グループ売上高は504億8000万円(2022年3月期)に上ります(【図表】)。私たちも、今後の成長に寄り添うコンサルティングでご支援しています。ご縁に感謝します。

 

 

【図表】ニッカホームグループの売上高の推移

出所:ニッカホーム提供資料よりタナベ経営作成

 

 

同社は榎戸会長が1987年に創業されましたが、リフォーム業界に入られたきっかけをお聞かせください。

 

榎戸 もともと、ものづくりが好きだったというのはあります。高校卒業後、歯科技工士になったのも、自分でものをつくるのが好きだったからです。しかし、1日中座ったままの仕事は性に合わず、就職して3年後に蛇の目ミシン工業(現ジャノメ)の営業職に転職しました。

 

26歳で支店長に昇進した後、元上司に誘われて浄化槽の販売会社設立に参加したのがリフォームと関わるきっかけになりました。浄化槽を販売したお客さまから気に入られてキッチンや風呂などの相談を受けるようになり、私だけが浄化槽以外も手掛けるようになりましたが、それがトップの方針と合わず、独立することにしました。

 

若松 榎戸会長は歯科技工士や営業職などの仕事を通じて、ものづくりと営業の両方にたけており、それがニッカホームの特長である「一気通貫体制」につながっていると思います。セールスエンジニアが施工から受け渡しまでの全工程を管理する体制は、住宅業界では非常に珍しい仕組みですね。

 

榎戸 一気通貫体制は、考えて生まれたというよりも必要に迫られて始めました。起業からしばらく私1人でしたし、業界の常識も分かりませんでしたが、それがかえって良かったと思います。

 

住宅は「クレーム産業」と言われますが、仕事が細分化されていることが要因の1つ。伝言ゲームと同じで、間に入る人が増えるにつれ情報が共有しづらくなり、クレームが増えていきます。お客さまが営業担当者に伝えた要望が工事担当者に伝わっていなかったり、工事が始まってから職人に不安や不満を伝えても解決に時間がかかったりする。その点、施工管理もできる多能工のセールスエンジニアが常に対応することで、お客さまとのコミュニケーションがスムーズになります。

 

若松 私たちタナベコンサルティングでは、それを「顧客価値のあくなき追求」と呼び、ファーストコールカンパニー(顧客から最初に声がかかる会社)の特性だと提言しています。一気通貫モデルは、顧客価値のあくなき追求から生まれたモデルです。ある意味で、創業者らしいビジネスモデルの創造です。

 

分業体制は作業を効率化できますが、クレームの際に責任の所在が不明瞭になりがちで、顧客満足度が下がる場合もあります。しかし、実際はそれが分かっていても実行できません。

 

榎戸 大事なことは、お客さまのためになっているか。お客さま目線で見ると、一気通貫体制は合理的であり、競争力のあるモデルだと考えます。

 

若松 また、ニッカホームは「丸投げ体質」が根付くリフォーム業界において「自社施工」を貫いています。リフォーム成功のために、「見積もりは3社以上取りましょう」とお客さまに推奨したり、高級・普通・お手頃ラインという「松・竹・梅」でリフォームの仕方を選べるビジネスモデルを確立したりしています。これも、「全てはお客さまのために」という志で取り組んできたことが価値となり、業界の常識を覆したからこそ、全国展開しながら成長しているのでしょうね。

 

 

叱って伸ばせる売上高は10億円まで

 

若松 「業界の常識は世間の非常識」と考え、顧客中心主義で取り組んだ結果が今のニッカホームを創っているのだと感じます。ですが、それだけでは全国ナンバーワンになれません。

 

榎戸 当初は会社を大きくしようという気持ちはありませんでした。ただ、1人でやれることには限界があります。社員を1人、2人と入れていくうちに規模が大きくなり、後に引けなくなったというのが正直なところです。社員の生活がかかっていますからね。

 

若松 創業時は「生業」です。それが「家業」、そして「企業」へと変化、成長していきます。ただ、ほとんどの会社は家業で終わります。

 

タナベコンサルティングが提言する考え方に「1・3・5の壁」というものがあります。年商規模が10億・30億・50億円、100億・300億・500億円というように、「1・3・5」で乗り越えるべき壁(課題)が表面化すると指摘しています。会社の成長過程で、壁を意識されたことはありましたか。

 

榎戸 売上高10億円を超えたあたりですね。若松社長がおっしゃる「1・3・5の壁」を肌で感じたのです。自分の力では12、13億円が限界だな、と。社員を怒鳴って、叱って、業績を伸ばせるのはそこまでです。1人でやれるのは10億円、自分と価値観の似ている社員を集めて達成できるのは30億円だと感じました。ただ、さまざまな価値観の社員を集めると売上高100億円も可能になります。

 

若松 実は、そこに気付く経営者はそう多くありません。私は300社以上の企業再生コンサルティングを手掛けてきましたが、10億円で成功して30億円で失敗した会社、30億円で成功して50億円で失敗した会社を数多く見てきました。「事業は竹の節のごとし」。高く伸びるには節が必要です。ほとんどの企業は売上高30億円を超えると、地域ナンバーワンやカテゴリーナンバーワンになるための事業が必要ですし、50億円を超えると「組織経営」を導入しなければなりません。

 

トップが自分と異なる性格や価値観の人材を集められると会社は成長していきます。仲良しチームは楽しいですが、機能的に脆弱になります。会社は最も弱いところでつまずくもの。販売・人事・経理・生産といった各機能を社長中心にバランス良く組織化するのが重要です。

 

 

ニッカホーム独自の顧客目線を追求する姿勢が業界の常識を覆すビジネスモデルを創っている