社会課題を解決するビジネスモデル
若松 ボーダレス・ジャパンは、ビジネスで社会課題を解決する「ソーシャルビジネス」を展開されています。今のような環境だからこそ、事業展開の領域も拡大しているように推察します。事業数はどれぐらいあるのでしょうか。
鈴木 現在、15カ国で45の事業を展開しています(【図表1】)。毎年10社以上のペースで事業が増えていますが、数を目標として掲げているわけではありません。当社を理解する起業家が仲間に入ってくれると事業数が増える形です。
【図表1】ボーダレス・ジャパンが展開する会社及び事業内容
若松 社会課題をビジネスで解決するというのは、言葉以上に難しさがあると思います。一方で、課題こそが事業の種であり、それこそがビジネスであるとも思います。創業時からソーシャルビジネスを手掛けられていたのですか。
鈴木 最初はインターネットを介した不動産関連サービスを行っていました。住みたい部屋の条件を入力すると、不動産会社が物件を提案してくれるアフィリエイト(成果報酬型のインターネット広告)のようなサービスで、それが自前の居住用賃貸仲介サービス「お部屋探しコンシェルジュ」に発展しました。ただ、もともと当社代表取締役社長の田口と私は「社会を良くしたい」という志を持って起業したので、売り上げの1%をNGO(非政府組織)やNPO(非営利団体)に寄付すると決めていました。「全ての企業が売り上げの1%を寄付することがデファクト・スタンダード※になれば、世の中は変わる」と考えたからです。
若松 祖業は今の事業とは異なりますが、創業した「目的」や「志」、「売上高や利益循環」というアプローチ方法は同じだったのですね。事業は順調に成長していきましたか。
鈴木 いいえ、すぐに壁に突き当たりました。最大の問題は、「何のためにビジネスをしているのか」ということです。私たちはビジネスで得た収益の一部を寄付することで社会を良くしようと考えましたが、間接的なアプローチであったが故に、一緒に働く仲間が社会貢献を実感しづらい状況になっていました。もう1つは、2年目に大赤字を出したことです。事業には波があるので、売り上げの1%を継続的に寄付するのはハードルが高いと悟りました。
社内で話し合いを重ねた結果、「ビジネスを通して社会を良くしよう」と方針を転換。その方が、社会に与えるインパクトが大きいという結論に至りました。
マーケットから取り残された人や社会と向き合う
若松 そこから、多文化共生を掲げるシェアハウス「BORDERLESS HOUSE」や、ミャンマーの小規模農家を救う「AMOMA natural care」、バングラデシュの就労困難者を対象に就業支援を行う「BLJ Bangladesh Corporation」といったソーシャルビジネスが生まれていったのですね。
日本語は本当に良くできていて、「社会」をひっくり返すと「会社」になります。本来、会社と社会は表裏一体であり、会社活動を通じて社会を良くすることは存在意義(パーパス)そのものなのだと、私たちも同様に考えています。ただ、ボーダレス・ジャパンは、それを間接的ではなく直接的にビジネスにしている点が独創的です。
鈴木 よくソーシャルビジネスは「社会に貢献するビジネス」と捉えられますが、どんな事業も継続する限り、雇用を創出したり、お客さまに喜んでいただいたりと、社会に貢献しています。
ただ、今の時代は社会課題で困っている人や状況がマーケットから取り残されがちです。そこをビジネスに含めるとコスト効率が下がってしまうため、基本的には除外してビジネスの効率を上げつつ、社会課題にはCSR活動(企業の社会的責任)で貢献するという構造になっています。
一方、当社は最初に社会課題や困っている人に目を向けます。私たちが考えるソーシャルビジネスとは、マーケットから取り残されている人や状況を巻き込み、社会課題をビジネスで解決すること。社会課題の解決に明確な存在意義を置いています。
若松 「社会課題を解決するビジネス」と「ビジネスで社会を良くする」では、市場の捉え方が真逆です。一般的な会社は、顧客の課題に向き合って利益を得て事業を継続するので、利益が出ないと判断すると「顧客」にしない場合が大半です。儲かった利益を社会貢献に使う資金フローを描く従来のビジネスモデルと、マーケットから取り残された人や社会課題に直接フォーカスしてビジネス化を目指すところが大きな違いですね。
鈴木 また、NGOやNPOと大きく異なる点は「支援」と捉えない点です。「困っている人を助けよう」ではなく、「一緒に頑張ろう」という立ち位置です。今の社会では資本がないとなかなかチャレンジできませんし、十分な教育も受けられませんが、だからと言ってお金を渡せば問題が解決するわけではありません。
事業化に当たっては、「誰にどのような問題が起きていて、本質的な原因は社会構造の何に起因しているのか」を徹底的に考えます。その上で、社会構造や常識を打破する新しいソリューションを描き、それをビジネスを通して実現していく。
さらに、当社にはソーシャルビジネスを広げる「恩送りのエコシステム」というものがあります(【図表2】)。各社の余剰利益を共有資産として1つのポケットに集め、それを使って新たな起業を支援しています。富を共有することでチャンスを生み出し、自立を後押しする。さらに、自立した人は次のチャレンジを応援する。このように、互いに助け合いながら社会を良くしていく社会企業家のプラットフォームを目指しています。
※事実上の標準。公的な機関や団体からの認証ではなく、市場競争の結果、標準と見なされるようになった規格や製品のこと
【図表2】「恩送りのエコシステム」