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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2022.02.01

人や社会のお役に立ててこそ、事業であり、企業である:トラスコ中山 中山 哲也氏× タナベコンサルティング 若松 孝彦

業界の常識を覆す独創経営で成長を続ける機械工具卸売商社のトラスコ中山は、2020年には「DXグランプリ2020」を受賞、経済産業省と東京証券取引所から2年連続「DX銘柄」に選定される。新しい成長の原動力となっているのが、「独創力」と「取捨善択」を軸とする唯一無二の経営スタイルだ。コロナ禍後の未来を見据えた経営、物流DXなどの行方を代表取締役社長の中山哲也氏に伺った。
    コロナ禍こそ企業の真の「貢献価値」が問われる   若松 トラスコ中山は、約50万点もの圧倒的な商品在庫や高度な即納体制といった独自の経営で業界をけん引する存在です。コロナ禍で多くの業界が苦戦を強いられる中、デジタル技術を駆使しながら順調に業績を伸ばされています。   中山 コロナ禍の影響は受けたものの、インターネット通販やホームセンター向けの商品が伸びており、2021年度(2021年12月期)は増収増益を見込んでいます。   若松 これまでも卸売業の枠にとらわれず、新たなビジネスモデルを発揮してこられました。戦後最悪の経済危機と言われるコロナ禍において、経営者として感じてこられたこと、向き合ってこられたことなどを率直にお聞かせいただければと思います。   中山 コロナ禍で社会の変わり目が見えてきたように感じています。常日頃から、「自社はどうあるべきか」を真剣に考えていたか。あるいは、世の中に必要とされている事業か否か。その重要性を、今回のコロナ禍で問われたように思います。危機に直面して「どうしよう」と慌てるのではなく、お客さまのお役に立つために、普段からやるべきことをしっかりとやっておくことが大事だということです。   若松 企業トップとして非常に共感します。経済危機だからといって、これまでと違うことを思い付いても、すぐに実行できるわけではありません。「使命の実現に向けて、やるべきことをやるべきときに実施してきたところに、コロナ禍で課題が加速した」と考える方が正解です。私は「貢献価値」と呼んでいますが、経営者にとってコロナショックは、顧客や社会にとって真に役に立つ会社や事業であったのかという価値を問い直す機会になりました。
  事業承継が導いた「取捨“善”択」の経営基準   若松 以前に中山社長と対談した際、「志を持てば、やるべきことと進むべき方向が見えてきます。そして、進むべき方向が見えた後に大事なことは、本質を見極める目を持つことです」とおっしゃっていました(『FCC REVIEW』2016年11月号)。そうした考え方や経営哲学は、創業時から受け継がれているものなのでしょうか。   中山 どちらかと言えば、私が社長に就任してからの考え方です。当社は、私の父・中山注次が1959年に大阪・天王寺の地でトラスコ中山の前身である中山機工商会を興したことが始まりです。機械工具卸としては最後発の参入でした。私が入社したのは1981年。それから、父の近くで数々の経営判断とその結果を見てきましたが、父の基準は「取捨“銭”択」。簡単に言えば、「儲かるか、儲からないか」でした。当時はまだ経験が浅かったこともあり、「そういう厳しい決断をするのが経営者なのだろう」と思っていましたが、その後、善悪を基準に判断すべきだと考えるようになりました。「取捨“善”択」の経営判断です。   私が恵まれていたのは、そうした「取捨“銭”択」の結果をこの目で確認できたことです。結果から言えば「儲かれば良い」という判断は、色あせると言うか、通用しなくなります。その時期が3年後なのか、20年後なのかは別として、長続きしません。損得を基準とすると、どれも良い結果を生まなかったように感じます。   若松 そうお聞きすると、まさに「新たな創業者(第二創業)」という位置付けですね。経営に対する価値基準は、会社の根幹に関わります。先代の現場での経営判断に立ち会いながら、その結果を自分の目で見て、学びながら今のトラスコ中山をつくられてきたわけですね。文字通り、新たに創業されました。   中山 もう1つ、父に感謝していることがあります。それは、社長を交代して以降、父が一言も「こうしろ」「ああしろ」と経営に口を出さなかったことです。また、私の方から父に経営の相談をしたこともありません。   もちろん、どうすべきか悩むこともありました。そのときは、自社の意義や存在価値に立ち返り、真剣に考えました。そうした繰り返しの中で、「日本のものづくりのお役に立つ」という使命が明確になっていきました。   若松 創業者の多くは、カリスマ性と行動力に富んでいる分、いつまでも会社や経営に影響力を及ぼしがちです。口を出されなかったのは非常にまれなケースです。きっと先代は、中山社長のことを理解されていたのでしょうね。   私は1000社以上のコンサルティング経験の中で、300社以上の事業承継に携わってきましたが、承継者が新しい創業スピリッツとして「志」や「使命」、すなわち「何がやりたいのか」を明確にしていることが最大の成功ポイントだと感じます。           業界の常識を超える「DX企業へ」   若松 常に日本の製造業のお役に立つという「あるべき姿」を追求する姿勢が、業務改善や新規事業の原動力になっています。その変革は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の面でも注目を集めており、2020年は経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「DXグランプリ2020」を受賞し、2年連続で「DX銘柄」に選定されています。トラスコ中山のDXへの取り組みをお聞かせください。   中山 当社はこれまでも豊富な在庫を背景に、お客さまの注文に対して当日納品、もしくは翌朝納品を行ってきました。ある意味で、即納については業界内でもトップレベルだと自負しています。ですが、それにあぐらをかいてはいけません。実際、DXを導入して注文1件1件のリードタイムを可視化すると、当社在庫からの出荷分は平均して13時間50分のリードタイムが発生していると分かりました。   ここで大事なことは、さらにお役に立つために「どうしたら短縮できるか」を徹底して考えることです。今も、欠品をなくすために取引先を複層化したり、互換商品を検索して提案できるシステム開発に着手したりと、サプライチェーンの見直しを含めてあらゆる面から仕組みづくりに取り組んでいます。   若松 可視化することで問題点や改善点が見えてきます。すでに業界最短レベルのリードタイムを実現しながら、さらに上のサービスを目指されている。卸売、物流ビジネスの本質の部分にDXを活用されているからこそ、DXのモデル企業として躍進されているのですね。   ユーザーへ商品を直送するサービスの拡大もその1つです。コロナ禍でインターネット通販事業も急速に拡大されました。   中山 ネット通販需要に対応できた1番の理由は保有する大量の在庫にあります。中でも、梱包作業を完全自動化する「I-Pack®(アイパック)」がサービスの要となっています。納品書の挿入や梱包、荷札の貼り付け作業まで自動で行う設備で、1時間当たり720個の梱包出荷が可能です。少し前に、物流拠点であるプラネット埼玉などの主要物流センターに計6ライン敷設したことが奏功しました。   若松 人×テック×DXの組み合わせに非常にたけていると感じます。物流戦略をDXで組み上げ、人と物流の部分は物流テック(デジタル技術)を駆使して顧客課題を解決されています。DX銘柄に選ばれたことも理解できます。       梱包作業を完全自動化する「I-Pack®(アイパック)」。納品書の挿入や梱包、荷札の貼り付け作業まで自動で行うことができ、1時間当たり720個の梱包出荷が可能(左)。プロツールの使用現場に隣接した場所に取扱商品をそろえる置き薬ならぬ置き工具の「MROストッカー」。在庫補充の自動化や在庫管理コストを削減し、顧客が必要な時にすぐに使える「究極の短納期」を実現(右)   事業経営と環境保全を両立するサステナビリティーモデルへ   若松 トラスコ中山の時流に即応した成功は、冒頭で「使命の実現に向けて、やるべきことをやるべきときに実施してきたところに、コロナ禍で課題が加速した」ことの実例です。   中山 当然ながら、サービスのスタート時にコロナ禍は想定していませんでした。ただ、物流業界は慢性的な人手不足が続いていたため、お客さまから「トラスコ中山からユーザーに商品を直送してほしい」という要望が出るのではないかという予感はありました。   若松 同サービスの優れている点は、直送によってリードタイムを半分に短縮するだけでなく、運送費や労務コストの削減、さらには伝票や段ボール、運送時のCO2(二酸化炭素)削減といった環境負荷の低減にもつながることです。一石二鳥と言わず、四鳥、五鳥とメリットは数えきれません。   中山 最近は製造業も環境保全に真剣に向き合っています。ですから、卸売によるユーザー直送の考え方は広がっていくと確信しています。   若松 加えて、「MROストッカー」という新サービスもスタートされました。   中山 これは、置き薬ならぬ「置き工具」のサービスです。工場にお客さまが必要とされる商品を陳列したMROストッカーを置かせていただき、使用した分だけ代金を請求させていただく仕組みです。今でも、ご要望があればスパナ1本であっても商品をお届けしますが、工場内にMROストッカーがあれば必要なときにすぐに使用できる上、配送に伴う段ボールや運送時のCO2を削減できます。   若松 MROストッカーというブランディングも良いですね。また、配置する商品を工場に応じてカスタマイズできたり、季節ごとに交換したりとさまざまな工夫が加えられているため、今後の展開が非常に楽しみです。私は「売り場のないところに売り場をつくるのがビジネス」と言ってきましたが、まさにそのモデルのようなサービスです。   中山 おっしゃる通りです。顧客特性や季節によって中身を変えていますが、意外な売れ筋やロングテール商品を発見することも少なくありません。例えば、夏用に配置した扇風機が意外と冬場に売れたりする。コロナ禍で換気のために使ったり、製品を冷やすために使ったりと、業界の常識や社員の先入観を取り除く良いきっかけにもなっています。     「志」への投資が「唯一無二」の未来を創る   若松 ユーザー直送とMROストッカー。いずれも共通して言えるのは、お客さまの声に応えるのではなく、お客さまの利便性に着目し、ニーズを先取りして事業化されている点です。そこに独創性を感じます。   中山 独創性は創業以来、受け継がれた当社の原点です。最後発の機械工具卸として、アイデアや工夫を重ねながら発展してきました。独創性を発揮する上では「お客さまのお役に立つにはどうすべきか」が原点になりますが、もう1つ、販売において大事なことがあります。それは、プッシュ(押し)ではなく、プル(引く)です。簡単に言えば、プルとはユーザーが買いやすい環境をつくること。その仕組みづくりこそ、私たちの仕事です。   若松 トラスコ中山から買わざるを得ない仕組み、言い換えれば「構え」。構えを持っている企業は、お客さまの方から選んでくれます。発想の転換です。   中山 私は、売ることばかりを考えて、「お客さまの声を聞く」「ニーズをつかむ」という発想に偏るのは間違っていると思います。もちろん、お客さまの声を聞くことは大事なことですが、それが過ぎると社員が疲弊してしまいます。お客さまに利便性を感じていただけるように、日ごろから仕組みを整備しておく必要があります。   若松 トラスコ中山は、約50万点の在庫や即納体制、ユーザー直送など、圧倒的な仕組み、バリューチェーンをお持ちです。そのための設備投資にも積極的に取り組んで来られました。   中山 当社も最初から今のような環境があったわけではありません。在庫を持つと決めたときも、散々「非常識だ」「無謀だ」と言われましたが、そうした挑戦を積み重ねたから今があります。設備投資が多いと考えられることがありますが、特に今の時代は利便性を高める物流設備・デジタルの投資をしていかないと、他社との決定的な差は生まれないでしょう。   若松 未来を創るための投資を止めてはいけませんね。昨今はROE(自己資本利益率)が偏重されがちですが、私はコンサルタントとして、また、東証1部上場企業のトップとしても、「どのような得意先があるか」「どのような能力をもつ人材がいるか」「どのような商品があるか」といった表面には見えづらい企業価値を見いだしていかないと、志を実現する経営は難しくなると感じています。やはり「取捨“善”択」ですね。   中山 同感です。私が大事にしているのは、数値目標ではなく「能力目標」。例えば、お客さまに喜んでいただくために「即納できる能力」を目標にする。その上で、実現に向けて「在庫○○点」といった数字を決めるという順番です。   また、能力の実現に不可欠な設備投資を積極的に行います。業績目標を重視しすぎると、「設備投資をしたら利益目標に到達しない」と考えて投資をためらってしまう。それが命取りになりかねないと私は思います。   若松 あるべき姿を明確にし、そのための投資決断を行い、実現する能力を身に付け、商品やサービスを通してお客さまに喜んでいただくのが経営です。その重要性をトラスコ中山の躍進が証明しています。   今はコロナ禍で大変な環境にありますが、そうした時期こそ「企業の真の貢献価値とは何か」が問われ、それを実現することで「唯一無二の企業」になるのだと、この対談で再認識できました。本日は貴重なお話をありがとうございました。     トラスコ中山 代表取締役社長 中山 哲也(なかやま てつや)氏 1958年生まれ。近畿大学商経学部卒業後、1981年に中山機工(現トラスコ中山)入社。常務取締役、専務取締役を経て1994年より現職。「取捨善択」「唯一無似」「自覚に勝る教育無し」など、独自の経営哲学で経営に当たる。また視覚障がい者を支援する公益財団法人中山視覚福祉財団を設立。現在、理事長を務め社会貢献活動にも取り組む。     タナベコンサルティンググループ タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ) タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず、大企業から中堅・中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。    

PROFILE

  • トラスコ中山(株)
  • 所在地:東京都港区新橋4-28-1 トラスコフィオリートビル
  • 創業:1959年
  • 代表者:代表取締役社長 中山 哲也
  • 売上高:2134億400万円(連結、2020年12月期)
  • 従業員数:2893名(連結、2021年9月現在)