全員参加の経営で物流モデルを深化。新たな価値を創造し続ける3PLのパイオニア:ハマキョウレックス 大須賀 正孝氏× タナベコンサルティング 若松 孝彦
【図表1】物流センター事業の取扱品目別売上高
第1次オイルショックで倒産危機に直面
若松 ハマキョウレックスは2021年に設立50周年を迎えられました。おめでとうございます。今や3PL※のパイオニアとして、幅広い業種(【図表1】)に向けて付加価値の高いサービスを提供されていますが、創業時に物流業界を選んだ理由は何だったのでしょうか。
大須賀 私は11人兄弟の10番目に生まれました。家は貧しく、中学校を卒業してすぐに働き始めました。20歳で運送業を始めたのは、トラックさえあれば手っ取り早く始められる仕事だったからです。
とは言うものの、信用のない若造に仕事を任せるところはありません。ですが、誰もやりたがらない仕事を引き受けて真面目に続けるうちに、「これも運んでみるか?」と声を掛けていただけるようになり、仕事が増えていきました。その後、29歳で浜松協同運送(現ハマキョウレックス)を設立し、2021年にちょうど50周年を迎えました。
若松 仕事が増え始めてからは順調に成長されたのですか。
大須賀 いいえ、そこからが大変でした。1971年に法人化して間もなく、第1次オイルショックに見舞われて最大の取引先が倒産。手形取引だったため、膨大な借金を抱えてしまいました。何とか借金を返そうと必死に働きましたが、まったく手元にお金が残らない。どこに原因があるのか知りたくて、毎日の収支を手作業で計算して書き出しました。
若松 オイルショックの苦しい経験が、今も続けている「日々収支」(【図表2】)の原体験になったのですね。日々の管理であることが大切です。決算とは言っても、365日、1歩ずつの積み重ねです。数字は正直ですから、その日の結果から会社の現状と課題が見えてきます。私も300社以上の企業再建をコンサルティングしてきた中で、「社員は黒字で会社は赤字ではいけない。決算も家計簿も同じ」と、多くの企業で日々収支を導入しました。
大須賀 おっしゃる通りです。書き出してみると、儲かっていると思っていた仕事もほとんどが赤字でした。運送業は荷物を運ぶ前に運賃を決めますが、実際にどれだけコストが掛かるかは運んでみないと分かりません。ただ、日々収支を徹底することで、コストの内訳や赤字の原因が見えてきました。例えば、それまでも社員の給料やガソリン代などの経費は意識していましたが、トラックの減価償却費や保険料、税金、水道光熱費、家賃といった費用を運賃に入れていませんでした。
若松 日々収支によって配送に掛かる実際の総コストが明確になると、無駄なコストや適正な運賃が見えるようになります。家計簿と同じで、赤字を容認する人はいませんからね。すなわち、改善の方向が見えてきます。
大須賀 人間、納得すると知恵を絞るものです。日々収支を始めると、コストの内訳が見えてきて社員が無駄をなくそうと考え始めます。さらに、「利益を出すにはいくらで仕事を受けるべきか」が分かると、現場が自主的に赤字になりそうな仕事を断ったり、コストを提示しながら値段交渉するようになったりと変化してきました。その結果、少しずつ利益が出るようになり、約8年かけて借金を完済することができました。
※サードパーティー・ロジスティクスの略で、荷主の物流部門全体を物流業者に委託する業務形態。1PL(ファーストパーティー・ロジスティクス)は、物流業務を全て自社で行い、2PL(セカンドパーティー・ロジスティクス)は、自社の物流業務の一部を外部に委託する業務形態
【図表2】「日々収支」3つのルール
成長のキーワードは「日々収支」「全員参加」「コミュニケーション」
若松 8年間かけて借金を完済された経験が、今の強いハマキョウレックスをつくる原動力になっているように感じます。各現場が日々収支を徹底することで、収支の構造が分かる。さらに、数字を共有することでメンバーの意識が変わり、改善に向けた行動が生まれる。物流は人でできている仕事です。「全員参加」という言葉が、経営システムの1つとして醸成されたことも納得できます。
大須賀 年商以上の借金を抱えていたので、とにかく必死でした。実は社員の給料を減らすという考えも頭をよぎりましたが、そんなことをすると社員がやる気をなくしてしまう。そこで、代わりに私の給料を45万円から社員より少ない15万円に減額しました。
個人的な話ですが、15万円の給料から家賃や水道光熱費、生活必需品を買うと、残りは3万円。それが1カ月の生活費です。銀行で全て千円札に替えてもらい、1日1000円だけ財布に入れるようにしました。子どもの学費で2000円必要なときは、その前日と当日は買い物をせず、家にある食材だけで過ごすように工夫する。そうしてやりくりする姿を社員も見ていたので、全員が会社に利益が残るように頑張ってくれたとも思います。半年後には事業の収支が合うようになったので、私の給料を20万円にしてもらいました(笑)。
若松 借金は会社が成長するための投資にもなるし、会社を潰す原因にもなるので、新しいビジネスモデルを創るための投資決断は社長の仕事です。全てオープンにすることで、トップの覚悟が社員に伝わったのでしょうね。社員を守るだけでなく、活躍する場や環境を新たにつくっています。本当の意味で「社員を大事にする」経営行動です。
大須賀 情報をオープンにしてみんなで話し合うことが重要です。私は「社員の面倒は見ていない」のです。逆に、社員に面倒を見てもらっています。当社の社員は給料以上の仕事をしてくれていますから。そうした活躍できる仕組みをつくり、環境を整えるのが経営者の仕事です。
私1人の力などたかが知れていますが、みんなの力を合わせることで大きな仕事に挑戦できる。そうやって会社は成長するのだと思います。