
東証プライム市場上場のユキグニファクトリーは、2025年に「雪国まいたけ」から社名を変更。収益合計534億4900万円、従業員数1106名(2026年3月期、連結)のマイタケのファーストコールカンパニーである。「キノコのチカラ、ミライのセカイ」をパーパスに掲げ、「プレミアムきのこ総合メーカー」に向けさらなる成長を描く。
「プレミアムきのこ総合メーカー」へ成長
若松 タナベコンサルティンググループ(以降、TCG)との長いご縁に感謝します。ユキグニファクトリーは、主力であるマイタケの国内総生産量でトップシェアを誇るナンバーワン企業であり、ファーストコールカンパニーです。2025年4月に「雪国まいたけ」から社名変更し、プレミアムきのこ総合メーカーとしてさらに事業を拡大しています。まずは創業の原点も含めた会社の歩みについてお聞かせください。
湯澤 こちらこそ、次世代人材育成のジュニアボード、サクセッションプランなどの支援をありがとうございます。当社は、1983年に世界で初めてマイタケの人工栽培による大量生産に成功したことが始まりです。それをベースに成長を続け、その後、エリンギやシメジなど複数のきのこの生産を開始し、拡大してきました。
若松 世界初のマイタケの大量生産はユキグニファクトリーの創業の原点であり、独創性の原点でもありますね。今では、マイタケ市場では国内総生産量の51%(2024年)を占めるトップメーカーです。マイタケに着目されたのはなぜでしょうか。
湯澤 創業者の大平喜信は、もやしを生産する会社を経営していましたが、コモディティー化によって経営危機に陥りました。新規事業を探す中、高値で販売されていたマイタケに着目し、不眠不休の研究の末に人工栽培に成功しました。2010年ごろまでは創業者がけん引して会社が成長していきました。
若松 1994年に新潟証券取引所に上場された後、2000年に新潟証券取引所と東京証券取引所の合併に伴って東京証券取引所第2部に上場。しかし、2015年に上場を廃止されていますね。そして、2020年9月に東京証券取引所に再上場を果たされました。
自身も社長として2016年にTCGを東証1部市場(現東証プライム市場)に上場させた経験から言っても、再上場は大変だったと察します。この間、ある意味で激動の経営でしたね。
湯澤 創業者のリーダーシップで会社は成長しましたが、トップダウンの意思決定の影響で受け身体質の組織になっていました。その結果、部分最適に陥り、次第に部門間の連携が悪化するなどガバナンス上の問題が顕在化。不採算事業から撤退できずに業績が低迷するなど問題が山積みしていました。ただ、商品には自信があり、そこに立ち返った組織改革を進めるために上場廃止を決断。その後、米ベインキャピタルと一緒に経営を立て直し、2020年9月に東京証券取引所に再上場を果たしました。
そして、現在は神戸市に本社を構える神明ホールディングスとともに、西日本の外食産業などを深耕しています。もともとマイタケは東北エリアに自生するきのこで、「きりたんぽ」や「芋煮」など東北地方の郷土料理に欠かせない食材です。当社も新潟県で創業して東日本を中心に拡大してきた歴史があり、西日本の消費量は多くありませんでした。結果、エリアだけでなく、当社が手薄だった外食の部分でもシナジーが生まれています。
ユキグニファクトリーの商品。きのこだけでなく、食べるソースシリーズや、きのこの食物繊維などの栄養素に着目した健康食品も展開している
上場廃止を機に商品に立ち返り組織を改革
若松 激動の中、湯澤社長はいつごろに入社されたのですか。また、その渦中でどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。
湯澤 私は1995年に新卒で入社しました。1993年から営業職の新卒採用が始まり、新卒3期目に当たります。入社後すぐに東京営業所に配属されました。
若松 プロパー社員として、会社が成長する過程や業績低迷期、さらに新体制での改革の歴史も実際に見てこられたのですね。2022年に社長に就任されましたが、さまざまな出来事を実際に見て、体験された経験値は経営者としても貴重だと思います。
湯澤 おっしゃる通りです。そうした経験が経営者としての背骨になっています。創業者の強烈なリーダーシップがあったからこそ急成長した半面、後半は取締役会のけん制が効かずガバナンス不全にも陥ってしまいました。ただ、創業者の情熱や決して諦めない姿勢からも多くを学びました。創業にどれほどのアイデアとそれを上回るエネルギーが必要かをたたき込まれました。
一方、ファンドのダッシュボード経営では横軸を貫くプロジェクトをいくつも立ち上げて全体最適にする手法など、両方の良さを学ぶことができました。そうした経験を生かして、過去と未来をしっかりとつなぐことが私の責務の1つだろうと思っています。
若松 言葉を選ばずに言えば、創業者はある種の狂気じみたところがあります。私は仕事をする上で多くの社長とご一緒してきましたが、変革を成し遂げた経営者は皆さん、創業の原点を大切にし、その本質を理解した上で在るべき姿の未来からバックキャスティングで現在を眺め、辛抱強く変革に挑みます。私はその経営者思考を「過去肯定、現状改善、未来創造の組織変革プロセス」と呼んでいますが、まさにそのプロセスです。
湯澤社長は創業の精神を受け継いでいるため、過去と現在をつないだ未来を描けるのだと思います。特に、農産物食品加工は「生き物」を扱っているという自覚がないとできないビジネスモデルでもあります。その点からも、創業の原点への敬意は大切です。
湯澤 おっしゃる通りです。工場生産ではありながら生命と向き合っている産業はほかにないと思います。製品のほとんどは生鮮食品ですし、市況もまた生きているため、どんなに緻密な計画を組んでも何かしらの問題が起こります。だからこそ、自然の偉大さを感じ、常に敬意を持って仕事をしています。
若松 自身もこれまで多くの農産物食品加工企業から畜産物食品加工企業の経営コンサルティングを経験してきました。食品メーカーはサプライチェーンで「商品」を届け、バリューチェーンは「価値」を届ける。この両方からデザインすることで会社としての専門価値が企業価値へと昇華していきます。
湯澤 そこが本来の私の使命だと思っています。上場を廃止する中、大きく変えた部分があります。例えば、マイタケでは2015年に「極」という菌株の自社開発に成功。「極」は弾力があって歯応えが良いことが特長です。さらに、工場の栽培環境の改良を続けたことで1株当たりの重量の増加に成功。生産量を増やすには工場を増設しないといけませんが、そのままの環境で生産量を増やすことができました。
若松 コアバリューからバリューチェーンとサプライチェーンを同時に変革されたわけですね。戦略はどのような組織であっても「強み」から始めるのが原則です。
湯澤 菌株の切り替えによって工場生産の安定性が確保されました。これによって営業側でも安定した計画販売を立てられるようになり、マーケティングや広報、メディアを活用した需要創造や売り場への直接営業がしやすくなりました。
若松 日本ではほとんどの生鮮品が市場を通して流通しています。市場も優れた流通システムですが、個々の生鮮品が埋没してしまい、魅力が川下まで伝わりにくい部分もあります。ユキグニファクトリーの場合、生産から販売まで独自の垂直統合型バリューチェーンを構築したことで飛躍的に競争力が高まるはずです。
湯澤 国内はもとよりグローバルでも、きのこは菌をつくるメーカー、栽培する会社、卸売会社といったように分かれています。その点、私たちは源流から作って販売から需要創造まで一気通貫で手掛けています。生販の縦軸を貫く垂直統合のバリューチェーンを構築した一方、部門間をつなぐ横軸のプロジェクトをいくつも立ち上げて全体最適を図ることでリスクの最小化とチャンスの最大化に成功。これが2020年9月の東証1部上場につながりました。
若松 ある専門領域で垂直統合型の企業を構築できれば、それは「ブランド企業」になります。入り口から出口までの全てを監修し、品質コントロール、商品開発からネーミング、販売マーケティング体制までないとブランド企業とは呼べません。
湯澤 素材を押さえて一気通貫で消費者まで届けるモデルは珍しいパターンです。川上から川下まで垂直統合することで、営業が計画的に販売計画を組みながら直接提案できるのは強み。店頭にPOPを置いたり、食べ方を提案したりすることで需要を創造しながら商品の魅力を伝えていくことが可能です。
特に、菌類を扱った工業的かつ農業的な商品のカテゴリーだからこそ、営業では理論的で科学的な提案をするよう徹底してきました。例えば、バスケット分析をしてお客さまがきのこと一緒に何を買うのかを分析し、売り場やチェーンストアが売りたい商品とつなげてメニュー開発してご提案する。それがおいしくて健康的であれば消費者にもプラスになります。私たちが目指すのは、サプライヤーではなくパートナーなのです。
研究開発本部を設立し専門性と総合性を高める
若松 2025年にパーパス「キノコのチカラ、ミライのセカイ」を策定されました。キノコとセカイをつないでいる点がユキグニファクトリーらしくて良いですね。パーパスに込めた思い、また、パーパスを起点に今後はどのような事業に注力されていくのかお聞かせください。
湯澤 社名変更に伴い、きのこのポテンシャルを人の力で引き出しながら、人と自然の健康に寄与していく社会的意義を込めて、「キノコのチカラ、ミライのセカイ」というパーパスを策定しました。同じく、2025年に「研究開発本部」を設立。きのこの本質的な研究を行う「キノコ研究所」と、きのこを生かした新規事業を開発する「ミライ研究所」から成る、パーパスの実現に向けた象徴的な部門でもあります。
成長ドライバーになるのは、「マッシュルーム」「海外事業」「新規事業」の3つです。現在、マッシュルームの国内の生産量は約8000t(トン)と、エノキやブナシメジの11万t超には遠く届きません。ただ、和きのこの最大ユーザー層が健康志向の高い高齢者で、消費時期が秋から冬に集中しているのに対し、マッシュルームは洋食との親和性が高く、若年層のユーザーが多いことが特徴です。新鮮なマッシュルームであればカットしてそのまま食すことができるため、サラダとの相性も良く1年を通して需要がある。和きのこのように相互代替によるカニバリズム(自社競合)が起こりにくく、プラスで購入される食材のため成長戦略の軸になると考えています。
若松 私はこれまで、数多くのニッチトップ企業を育成し、ファーストコール戦略を推進してきました。そこに共通するのは、「高度な専門性」と「高度な総合性」という一見矛盾する2つのアプローチを、高い次元で融合させる戦略を採用している点です。きのこという専門性を徹底的に追求しながら、同時にその専門領域における総合性を実現していく取り組みは、ユキグニファクトリーがマイタケのマーケットを自ら創造してきた実績があるからこそ最大限に生かされるはずです。
湯澤 既存のマーケット、売り場との関係性や距離感も近いですし、流通側のニーズも非常に高いため期待していますが、作るのは本当に難しい。日本の流通量が少ないことも関係して、いまだに技術や設備、原料を海外に依存しています。ここからは海外事業の話にもつながりますが、当社は2023年にオランダのきのこ事業会社をM&Aで子会社化しました。
農業大国であるオランダの事業会社では、マッシュルームの製造に加えて、和きのこを含むアジアのきのこを「エキゾチックマッシュルーム」として製造し、オランダ国内のみならず周辺国に販売しています。エキゾチックマッシュルームの単価は高いものの健康志向の高まりや新しいおいしさを求める消費者から支持されており、現地の人気が高まっています。当社はオランダの事業会社が持つマッシュルームの栽培技術を必要とする一方、オランダの事業会社が必要とするエキゾチックマッシュルームのノウハウを持っています。つまり、互いのチャレンジポイントが互いのストロングポイントでもあるのです。
若松 クロスボーダーM&A戦略はこれからですが、シナジーは非常に大きいと感じます。専門領域を掘り下げると必ず周辺事業に結び付きます。既存事業×新規事業・新規市場としての取り組みはどうですか。
湯澤 2025年2月に「キノコのお肉」の販売を開始しました。低脂質で低糖類、食物繊維がたっぷり入ったきのこ原料の代替タンパクで、大豆のような独特のにおいもなくさまざまな料理に使いやすい。通年販売できる商品として開発しました。
若松 2050年に向けて世界の人口増加に伴う食糧危機が懸念される中、代替タンパクへの期待は高まっています。畜産は環境負荷が大きいですし、生産効率も低いため需要を満たすことが難しい。また、日本は今でも大豆の大半を輸入に頼っているのに対し、「キノコのお肉」は原料を国内で安定的に生産できる点も含めて非常に魅力があります。
湯澤 何よりマイタケを原料とするため歯応えがあり、きのこ由来の自然なおいしさには自信があります。
若松 健康に良くて、おいしくて、安定供給が可能で環境にも優しい。食べ続けるには理想的な食材です。ただ、まだなじみのない食材だけに、食卓に浸透するには時間がかかるかもしれません。その際、営業の提案力に加えて、PRや広報でどう広げていくかが重要になります。マーケットがないからこそ、全ての消費者が顧客になる可能性を秘めています。
「MVV+C」で価値を共有し自ら判断できる人材を育てる
若松 雪国まいたけからユキグニファクトリーに社名を変更したことで、「ファクトリー」という言葉から事業の幅に広がりや意志を感じますね。新しいロゴもエネルギー、生命力を感じるすてきなデザインです。その際、要となるのはやはり「人材」です。人材育成についてはどのようにお考えですか。
湯澤 「雪国まいたけ」は商品ブランドとして継承しながら、「ファクトリー」と名乗るからにはメーカーとして事業を広げていきたいですね。ロゴマークは、雪の結晶、きのこの菌糸が伸びていく様子、人が手を伸ばしていく様子という3つのモチーフを組み合わせたデザインとなっており、1つの結晶として完成された姿は、社員一人一人が個として事業を磨き上げていく真摯な姿を表しています。同時に、このロゴマークがつながると美しい格子模様が浮かび上がります。一人一人がオープンマインドでいることで人の思いがつながり、美しい未来の世界がつくられていく様子を表現しています。
また、今回の社名変更に合わせて「MVV+C」を導入しましたが、その目的も人材育成にあります。パーパスの下にミッション(なすべきこと)、ビジョン(在るべき姿)、バリュー(私たちが大切にしていること)を置き、会社の姿勢をしっかりと伝えるためにそれぞれを定義しました。このピラミッドを見れば、会社がどのような価値を大事にしているのか、それを実現するためにはどのような判断をすべきかが見えてきます。また、MVVを実現する個々人の行動指針をクレドに示しました。この3つを社員の皆さんにも覚えてもらっており、心の羅針盤として日々の仕事に取り組んでもらいたいと思っています。
ロシアによるウクライナ侵攻やかつてない出来事が変化点になり、世界情勢は一変しました。今はイラン情勢が影を落とすなど、前例から答えを導き出せない時代です。「VUCA※の時代」と言われますが、今は変化に柔軟に、しなやかに対応しながら機動力を上げていかなければなりません。その軸となる指針として「MVV+C」を定義しました。また、今後は人材評価につなげていくことも大事だと考えています。
若松 個としての輝きと、個と個がつながることで生まれる可能性の尊さなど、人材への思いが伝わってきます。新しいパーパス「キノコのチカラ、ミライのセカイ」をそのような思いを持った社員の皆さんと、ぜひ一緒に実現してください。本日はありがとうございました。
※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字。不確実性が高く、将来予測が困難な状況を示す造語
ユキグニファクトリーのコーポレートロゴ。1つの結晶として完成されたロゴは、社員一人一人が事業を磨き上げていく真摯な姿勢、人が手を伸ばすように、キノコが菌糸を伸ばすようにつながる美しさを表現している
湯澤 尚史 ゆざわ まさふみ
ユキグニファクトリー 代表取締役社長
1971年新潟県生まれ。1995年に千葉商科大学商経学部卒業後、雪国まいたけ(現ユキグニファクトリー)入社。
2010年に執行役員東京営業所長兼三課課長、2014年に執行役員事業企画室長、2021年に取締役常務執行役員営業本部長などを経て、2022年4月より現職。
ユキグニファクトリー(株)
- 所在地:新潟県南魚沼市余川89
- 設立:1983年
- 代表者:代表取締役社長 湯澤 尚史
- 収益合計:534億4900万円(2026年3月期、連結)
- 従業員数:1106名(2026年3月末現在)
若松 孝彦 わかまつ たかひこ
タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長
タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。
1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティンググループ)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『チームコンサルティング理論』『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
タナベコンサルティンググループ(TCG)
日本における経営コンサルティングのパイオニアと呼ばれ、東証プライム市場上場の経営コンサルティンググループ。1957年の創業から現在に至るまで約19,000社の経営コンサルティング実績を有する。全国900名のプロフェッショナル人材が、上場・大企業、中堅企業に対して、ビジョン・戦略策定から現場の経営システム・DX実装まで一気通貫に支援するチームコンサルティングを提供している。