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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2026.03.31

共に知る、共に変わる「良心」を胸に世界へ羽ばたく、同志社大学 同志社大学 学長 小原 克博氏

100年経営対談 若松 孝彦と小原 克博

新島襄にいじまじょうが同志社英学校を設立して150年。京都から日本、そして世界を変える人物を輩出する同志社大学。創設の理念を胸に、新しいビジョンをつくり、次代へつないでいる。産官学モデルで社会に貢献するエコシステムの役割や大学の未来について学長の小原克博氏に伺った。


創立者の「志」を受け継ぎ世界へ開かれた大学へ

若松 同志社は2025年で開校から150周年を迎えられました。本当におめでとうございます。


また現在、タナベコンサルティンググループ(以降、TCG)は同志社大学の「同志社ローム記念館プロジェクト」の1つである「新規ビジネス開発プロジェクト」にも参画しており、教授・学生の方々とTCGの経営コンサルタントが共に活動しています。非常に貢献価値の高い活動と捉えており、共創活動に感謝いたします。


小原 ありがとうございます。同志社大学の前身となる同志社英学校が、1875年11月29日に開校したことを記念して、2025年11月29日に京都国際会館にて式典を開催し、約1600名に出席いただきました。本当に多くの方々に祝福いただき、心から感謝しております。


若松 TCG創業者の田辺昇一は、1957年に京都市でTCGを創業しました。「日本における経営コンサルティングのパイオニア」と呼ばれているTCGの原点には、“京都スピリッツ”があるのです。私自身も多くの京都企業を支援してきました。


まずは、新島襄氏による設立の経緯をお聞かせいただけますか。


小原 同志社大学の前身となる同志社英学校は、1875年に新島襄によって京都に設立されました。今でこそ多くの方に認知される大学になりましたが、当時の状況はまったく違っていました。明治維新が終わって間もない時代で、特に京都は伝統的で保守的な町だったため、「京都の真ん中にキリスト教系の学校が設立されるのはとんでもないことだ」と批判の声が上がりました。


若松 江戸時代の1864年に米国に渡り、1874年に日本に帰国し、1875年に同志社英学校を設立した当時、伝統と文化を重んじる京都において反発があったことは想像にかたくありません。


一方、そのような中でも同志社大学を創設された歴史的事実こそが、ある意味の京都スピリッツ、京都らしさだとも感じます。経営は1人で始めなければ何も始まりませんが、逆に1人では何もできない行為であり、両方の本質的な理解が大切です。


小原 今出川キャンパスの南側には、長く天皇家がお住まいだった京都御所がありますし、北側には相国寺という有名な禅寺があります。地理的に京都の真ん中というだけでなく、歴史的にも文化的にも特別な場所に、キリスト教系の学校が居を構えたわけですから、保守的な京都市民や仏教界から立ち退きを願う陳情書が京都知事宛てに提出されたり、同志社やキリスト教を批判する集会が開催されたりするなど、否定的な声は多くありました。それから150年の歴史を積み上げる中で、京都に貢献し得る、京都に根を張った大学になったと思います。



出る杭を伸ばすスピリッツ 「自治自立」と「倜儻てきとう

若松 新島氏の経験や精神が、同志社大学に大きな影響を与えています。どういったことを大切にしてきたのでしょうか。


小原 「建学の理念」が重要な役割を果たしており、今でも新島が残した言葉を大事にしています。中でも大事にしているのが、「自治自立」です。自ら立ち、自ら治めることができる人物の輩出を新島は願っていました。


また、新島が臨終の際に残した「倜儻不羈なる書生を圧束せず・・・」も大事にしている言葉です。簡単に説明すると、「常識からはみ出ているような意気盛んな学生であったとしても、それを枠に押し込めてはいけない」ということ。むしろ、その人の本性を伸ばして育ててほしいという願いを、死ぬ間際に残しています。同志社大学から、世の中の枠をはみ出すぐらいに元気がある人たちが輩出されるように育てていきたいと考えています。


若松 自治自立、倜儻不羈は、現代の教育にも通じる理念です。新島氏自身が日本を飛び出し、米国で学んだ後に同志社大学を設立しました。その行動は当時の常識の枠をはるかに超える挑戦です。自分の考えをしっかりと持った人物を「出る杭」として打つのではなく、どんどん伸ばしていく。私も経営トップとして、TCGの人材採用時に同様のメッセージを発信しています。今の時代だからこそ求められている精神であると思います。


小原 おっしゃる通りです。新島の生涯は非常に挑戦的で冒険的なものでした。その生き様は今でも私たちに大きな影響を与え、指針となっています。


若松 「夢」への情熱の強さが、壁を「突破」する行動をかき立てます。世界的企業や優秀な人材を数多く輩出し続ける京都は、長い歴史を持つ特別な場所です。京都という地の独自性を感じていますか。


小原 京都は「千年の都」と言われる通り、長らく日本の政治や文化の中心でした。その分、都が京都から東京へ移っていった当時は、将来に対する不安や焦りがあったに違いありません。しかし、京都の老舗企業は、新しいビジネスを開拓して生き残ってきました。伝統を大事にしつつも、従来の繰り返しではなく、ひと味もふた味もひねりを加えながら、新しいものを生み出していったのだと思います。


若松 TCGは企業経営者の皆さんに、「ファーストコールカンパニー(以降、FCC)、100年先も一番に選ばれる会社になろう!」と提唱してきました。


実はこのFCCというコンセプトのアイデアは、京都財界の方から「京都には同じ会社は2社ないのですよ」と言われたことがきっかけでした。京都で同じ会社が生まれたら共倒れしてしまう。業態を変えるか、廃業してもらうかだ、という裏の意味がこの言葉には含まれている、と言われたのです。私はそれを、京都には老舗企業が多く共存共栄できる「千年の都」の知恵であると理解したと同時に、マーケットが縮小していく日本全体に当てはまる考え方だと感じました。


だからこそ、規模を追いかけるシェアナンバーワンだけではなく、顧客から一番に選ばれる価値が大切であり、「100年先にも勝ち残るサステナブルで独創的な組織を目指すべき」と考え、FCCのコンセプトが生まれました。京都にFCCが数多く存在するのは偶然ではありません。伝統と革新に向き合う京都ならではの風土が関係していると考えています。京都にスタートアップ企業が多く、企業の新規事業開発も盛んなのは、競争ではなく「共創」で新たな価値をつくり出す風土が醸成されているからでしょう。


小原 京都には「伝統と革新」があると言われますが、私自身もそうした例を京都において多く見てきましたし、伝統を生かしつつ新しい技術に挑戦することで、世界的企業になった事例は数多くあります。



産官学連携で社会課題を解決する「共創のエコシステム」

若松 同志社大学は、TCGがご一緒している新規事業開発プロジェクトも含め、積極的に産官学連携に取り組んでいます。京都という地域や企業との連携について、どのようにお考えでしょうか。


小原 そこは力を入れています。大学が教育や研究の分野で独自のネットワークを持っているように、企業も独自のネットワークを持っています。両者が協力することで、双方のネットワークをもっと生かせると考えています。例えば、大学の教育・研究と企業の製品・新サービス開発を結び付け、社会実装を目指す連携を進めています。


若松 社会や地域への貢献になる、双方にとって良い活動ですね。


小原 その通りです。本学では、共同研究の他にも企業で働く社会人の方々に学び直す機会を提供しています。学生は企業で働いている人の意見を吸収できますし、企業からすると若い人たちの斬新なアイデアに触れられるなど相互作用が生まれています。今後も企業や地域と連携しながら、最終的には社会に貢献できるものを共に生み出していくことを目指しています。


若松 大学と企業、そして地域が連携することで、より大きなインパクトをもたらす社会課題の解決が期待できます。地域の中核となる大学には、得意な分野やテーマでエコシステムをつくる取り組みが求められます。


小原 社会課題の解決に向けた連携も始まっています。本学の京田辺キャンパスが立地している京都府京田辺市は、バスの路線が減少する中、地域住民の生活の足をいかに確保するかという課題を抱えています。その課題に対して、京田辺市と日産自動車、同志社大学が連携を組み、京田辺市北部においてAIを利用したオンデマンド交通の実証実験を行っています。


若松 素晴らしい取り組みです。大学と産業界、行政・地域が一体となる「共創のエコシステム」が、同志社大学を中心につくられています。


小原 企業は利益を大きな目的とする一方、大学は利益が必ずしも目的ではありません。私たちの目的は新しい価値を生み出すことです。営利目的でないがゆえに、エコシステム的なプラットフォームになり得ます。行政や企業が大学のプラットフォームに乗り、化学反応を起こしていく。そのような役割を果たしていきたいと願っています。


若松 同志社大学ならではのポジションだと思います。社会課題はすぐに利益を出すことが難しい分野ですが、基礎研究も含めて投資していくことが必要です。仕事柄、多くの学生と話す機会がありますが、「この地域が好き」「地域に貢献したい」「地域が抱える社会課題を解決したい」と語る学生が増えているように思います。


小原 私たちもそのような変化を強く感じています。就職活動において給与や福利厚生を重視する学生もいますが、近年は「企業がどのような形で社会に貢献しているのか」「エシカルな視点を持っているのか」といった部分を見ています。社会貢献している企業に就職したいと考えている学生は間違いなく増えています。


若松 日本の未来は明るいですね。「社会を変えたい」「地域をもっと良くしたい」という思いは、ビジネスやスタートアップの起点になります。TCG創業者の田辺昇一は、「心に革命を起こせ」という言葉を残しましたが、イノベーション(革新)は、リーダーの夢への情熱、すなわち、内発的なイノベーションスピリッツに基づいて行動を起こし、リーダーシップを発揮していくものです。


小原 非常に共感します。一般的にイノベーションというと技術革新の意味で使われがちですが、それにとどまらず社会的イノベーションや倫理的イノベーションも重要だと考えています。前に進むためには、私たちの心が変わっていかなければなりません。


また、社会の仕組みや構造を変えていくことが、一人一人のウェルビーイングの向上につながります。技術は重要ですが、それを社会実装するためには人文科学や社会科学などの分野におけるイノベーションも必要であり、さまざまな学問領域が総合的に組み合わさったときに真のイノベーションが起こると考えています。本学はそのようなイノベーションを引き起こしたいと願っております。


若松 その意味では、大学は経営者を育成する必要があります。スタートアップの起業家もいますが、「後継経営者」と呼ばれる次代を担う後継者は、学生時代の早い段階から育成することも大切であると思います。私は長年、「後継経営者スクール」を運営してきた経験から分かるのですが、経営の持つ力、企業によるイノベーションの役割を学ぶことも、京都の発展につながっていくと考えています。



多様な人材を内包する深い学びの場としての同志社大学へ

若松 今、大学は転換期を迎えています。これから18歳人口の減少が本格化し、2040年には82万人にまで減少すると推計され、加えて25年後の2051年には大学の入学者が約3割減少するとも言われています。


その一方、リスキリングや社会人の学び直しのマーケットは拡大していますし、AIの登場やDXの進展によって産業構造が変化する中、新分野への対応も求められています。また、グローバル化が進む一方、国内の学生の海外志向が低下しているとの声も聞こえてきます。社会構造や意識が大きく変化する中、日本の大学の在り方や役割についてどうお考えでしょうか。


小原 今、多くの国内大学が危機感を持っています。大学入学者が減少すれば従来通りの経営が成り立たないからです。日本の多くの大学が抱える課題の1つとして挙げられるのは、日本の大学の入学者の年齢が18歳に集中しすぎていること。OECD(経済協力開発機構)のデータによれば、海外の大学はもっと幅広い年代の学生で構成されています。現状、日本の大学は年代の多様性が非常に低い状況にありますが、より幅広い年代やさまざまな背景を持つ人が同じ場で学んだ方が刺激的な学びが得られます。ですから、今後は在職中の社会人の方々、あるいは休職や退職して本格的に大学で学びたいという方々に、もっと機会を提供したいと考えています。リカレントやリスキリングの一環として、人生において2度、3度と大学で学んでいただきたいと思います。


若松 日本の受験制度の限界もあり、若いときに大学で得た知識だけでは生き抜けない時代に入っています。


小原 その通りです。多様な年代、背景を持つ方に対して学ぶ機会をつくっていくことが1つ目の課題であり、もう1つは留学生です。同志社大学には現在、約1400名の留学生が在籍していますが、これは全体の5%程度に過ぎません。今後はそれを10%、20%へと拡充し、国際社会や多様性を感じることができる環境にしたいですね。そうなれば、多様な文化、習慣、考え方などに揉まれながら学生が成長すると思います。



150周年の次へ、「良心」の本質を探求し続ける

若松 優秀な人材を世界中から集める開かれた大学になることは、日本の大学の課題です。この点は、京都に位置するブランド価値を最大限に発揮できそうです。これを実現すれば、同志社大学は100年先も1番に選ばれる大学になるはずです。これまでも社会に影響を与える人材を数多く輩出されていますが、教育に対する考え方や育成すべき人材像についてお聞かせください。


小原 冒頭で自治自立についてお話しましたが、日本社会において自治自立は未完の課題だと思っています。日本社会は基本的に集団思考が強いことが特徴です。子どものころから「人様に迷惑をかけてはいけない」と言われて育つからか、空気を読んで過度に調和しようとする傾向があります。


しかし、日本企業や日本社会が本来の力を発揮するには、個人のパフォーマンスをしっかりと生かす組織に変えなければなりません。個人のパフォーマンスを鼓舞するような組織文化や、新しい文化をつくり出していく自治自立の人物を輩出し続けていきたいと思っています。


若松 教育の根本に自治自立があるのは、非常に大切であると思います。150周年のタイミングで発信された同志社大学ビジョン「共に知る、共に変わる——With a Good Conscience」でも新島氏の志に言及されています。


小原 同志社大学ビジョン「共に知る、共に変わる——With a Good Conscience」にある「Conscience」は「良心」と訳されますが、原義は「共に知る」です。新島は「Conscience(良心)」に基づいた教育で人や社会を変え、再生できるという信念を持っていました。新島の志であり、同志社大学の原体験でもある良心を、今の時代においてもしっかりと実践していくために、良心を備えた「共に知り、共に変わる」人物を育てていきたいと考えています。


若松 Conscienceの実現に向けて具体的な5つのビジョンも提示されています(【図表】)。同志社大学のビジョンは、変革に向けた新たなスタートと言えますね。


【図表】同志社大学ビジョン

【図表】同志社大学ビジョン

出所 : 同志社大学ホームページよりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成


小原 ありがとうございます。150周年という節目を迎えるに当たり、私たちは原点である「同志社オリジン」に立ち返り、自分事として引き受ける作業を経て、現代という文脈の中でどう実践できるのかをビジョンで描きました。


若松 創設の原点から現在、そして、次の100年までを、1本の道として描かれている素晴らしいビジョンです。多くの学生や人材が承継していくことでしょう。



学び、殻を破り、新たな価値を生み出し世界や社会に貢献する

若松 最後に、学生から社会人、ビジネスパーソンに向けてメッセージをお願いします。


小原 学生に対しては、まず勉強することは非常に大事だということを伝えたいです。学ぶということは、「自らを自由にする営み」だと思います。私たちはさまざまな束縛を受けています。昨今はSNSもその1つでしょう。ですが、私たちは学ぶことで今の自分の在り方や社会の在り方を客観的に分析したり、批判的に見ることができたりします。


学生には、しっかりと学ぶことで本当の意味で自由な人間になってほしいと願っています。これは本学の伝統です。また、学びは教室で完結するものではありません。むしろ外の世界に飛び出して、多くの経験をする中で自分の殻を破ってもらいたいと願っています。


一方、企業は利益を追求しなければなりませんが、その上でどう社会に貢献しているかを学生は見ています。利益の追求に明け暮れる企業の評価は下がってしまうでしょう。ビジネスパーソンは、どのような価値を生み出し、社会を豊かにし、貢献していくかが問われています。そうした視点を持ってリスキリングすることで、自分を進化させていただきたいと思います。


若松 小原学長から同志社大学の原点や志に触れることができて、日本の社会は人材が中心であり、人材の成長こそが新しい社会を開いていくのだと確信しました。「生涯勉強」「学ぶことは、自らを自由にする営み」という考えを大切にしていきます。今日は本当にありがとうございました。


小原 克博

同志社大学 学長 小原 克博(こはら かつひろ)氏

1965年大阪生まれ。同志社大学大学院神学研究科博士課程修了。博士(神学)。同志社大学学長、神学部教授、良心学研究センター長。公益財団法人大学コンソーシアム京都理事長、一般社団法人日本私立大学連盟常務理事、公益財団法人大学基準協会理事、日本宗教学会常務理事、日本基督教学会理事、宗教倫理学会評議員も務める。主な著書に、『ビジネス教養として知っておきたい世界を読み解く「宗教」入門』(日本実業出版社、2018年)、『一神教とは何か-キリスト教、ユダヤ教、イスラームを知るために』(平凡社新書、2018年)、共著に、『徹底討論 ! 問われる宗教と"カルト"』(島薗進ほか、NHK出版新書、2023年)、『良心から科学を考える──パンデミック時代への視座』(同志社大学 良心学研究センター編、岩波書店、2021年)など多数。


若松 孝彦 わかまつ たかひこ

タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長

タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。
1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティンググループ)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『チームコンサルティング理論』『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。


タナベコンサルティンググループ(TCG)

日本における経営コンサルティングのパイオニアと呼ばれ、東証プライム市場上場の経営コンサルティンググループ。1957年の創業から現在に至るまで約19,000社の経営コンサルティング実績を有する。全国900名のプロフェッショナル人材が、上場・大企業、中堅企業に対して、ビジョン・戦略策定から現場の経営システム・DX実装まで一気通貫に支援するチームコンサルティングを提供している。