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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2025.12.26

ブレイクスルー戦略。夢へ挑む成長マインドセットが、突破口を生む タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦

タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 若松 孝彦

2026年の日本経済は、「トランプ2.0」がもたらす不確実性に対応しながら、経済構造の転換を急がねばならない。加えて、コロナ前から顕在化している「すでに起こっている未来」への対応も迫られる大転換の途上にある。大転換途上を成長の機会と捉え、変化を恐れず夢へ挑む「成長マインドセット(揺るぎない持続的成長への意志)」こそが、次の成長ステージへ向けたブレイクスルーポイント(突破口)となる。


非連続な変化の中で成長するための「突破口」

第2次トランプ政権による関税引き上げで、米国は保護主義へ大きくかじを切り、為替変動、WTO(世界貿易機関)の機能低下、G7(主要先進7カ国)の影響力低下、地政学的リスクの高まりといった事態を招きました。その結果、世界の不確実性はコロナショックを上回る過去最高の水準に到達しました。


そんな逆風にも各国は柔軟に対応し、インフレの緩やかな低下、AI技術の活用と市場の成長、グローバルサウス(南半球の新興国群)市場の拡大といった多極化・多角化が進展。世界全体としては、底堅く緩やかなプラス成長を維持しています。


日本経済は原材料の高騰といったコストプッシュインフレが引き起こした“過度”のインフレ状態から、需要喚起型のデマンドプルインフレによる“適度”なインフレへ移行しつつあります。


また、2025年の春闘では平均賃上げ率が5.25%という高水準を達成。さらに、2025年10月に発足した高市早苗内閣の「強い経済」へ向けた政策にも期待が高まっています。半面、「労働力人口の減少」「人手不足の常態化・加速化」「金利のある世界(マイナス金利政策や大規模な金融緩和が終わり、金利が引き上げられる経済状態)」「消滅可能性自治体の増加」といった「すでに起こっている未来」に向けた課題対応に迫られる大転換の途上にあると言えるのです。


不確実性が常態化する中で大転換と相対する経営者に必要な価値観は、「夢へ挑む揺るぎない成長への意志」というマインドセットです。大転換期に企業が持続的な成長を実現するには、常識を超えるレベルでの「非連続的な変化」に対するブレイクスルーが欠かせません。その鍵を握るのは、「新しい経営技術」の獲得と、「自社らしさ」を進化させることへの戦略的実装です。


「会社が持続的成長を実現するための突破口(ブレイクスルーポイント)は何か」という問いと真摯しんしに向き合い、経営の中核そのものを変える「決断」と「実行」に取り組んでください。(【図表1】)


【図表1】ブレイクスルーの概念

ブレイクスルー

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成



世界経済は底堅く推移

国際通貨基金(IMF)が発表した「世界経済見通し」(2025年10月14日)によると、2025年の世界GDP成長率は3.2%ですが、4月発表では2.8%、7月発表では3.0%でした。こうした上方修正の背景にあるのは、追加関税が当初の想定水準を下回ったこと、関税導入前の駆け込み需要による貿易額が増加したこと、そして、報復関税の応酬という最悪の事態が回避されたことです。さらにAI市場の拡大も成長率アップを後押ししています。


2026年の世界GDP成長率は3.1%と見込まれ、国による濃淡はあるものの全体としては底堅く推移する予想です。


世界経済で押さえるべきポイントは4つです。1つ目は、「相互関税が世界経済の成長の足かせに」。トランプ政権にとって関税政策は対外交渉の切り札なので、今後とも注視が必要です。


2つ目は、「米国以外の国・地域間の経済連携が活発化」。日本やオーストラリアなど12カ国が加盟するCPTTP(環太平洋パートナーシップに関する包括的・先進的な協定)もEU(欧州連合)やASEAN(東南アジア諸国連合)との貿易対話を開始する意向を表明しています。


3つ目は、「主要国・地域は政策対応し、経済成長は底堅い」。米国は個人消費を中心に手堅く成長。EUは濃淡があるものの全体として緩やかに回復。グローバルサウスのリーダー的存在であるインドは堅調な内需拡大で高成長を維持。ASEANにおいては内需主導型のフィリピンとインドネシアは高成長を維持しますが、外需依存度が高いマレーシア、タイ、シンガポールは減速。中国は消費拡大に向けた補助金政策が2025年内で一巡、EV(電気自動車)減税も終了し、経済成長は減速すると見られます。


4つ目は、「世界経済が抱えるリスク」。経済面では、広範囲の関税引き上げや高い相互関税が世界経済の下押し要因になります。政治面では、国家間の武力紛争と、世界的な信頼崩壊につながる誤情報・偽情報が挙げられます。環境面では、異常気象や激甚災害による損失がリスクとして考えられます。



日本経済は回復基調を維持

日本経済のポイントは6つです。1つ目は、「個人消費の増加によって底堅く回復」。日本のGDP成長率は、2025年の1.1%から2026年は0.6%へ鈍化します(IMF「世界経済見通し」)。これは外需の減速によるもので、内閣府によると個人消費は2025年1.0%から2026年1.1%へ、設備投資は1.8%から1.9%へ、公共投資も国土強靭きょうじん化を中心に緩やかに増加。こうした底堅い内需の下支えによって成長率を維持すると見られます。


2つ目は、「消費者物価の安定とともに賃上げの継続が経済成長の鍵を握る」。総務省統計局によると、消費者物価指数は2025年9月実績が2.9%ですが、年度後半には伸びが鈍化し、政府目標の2.0%前後で推移すると見られます。賃金に関しても、直近2年連続で5%超の賃上げを実現。今後も賃金の上昇傾向は続くと予測されます。


3つ目は、「日本経済の成長をけん引するインバウンド需要」。日本政府観光局によると、2024年の訪日外客数は3687万人、訪日外国人旅行消費額は8兆1257億円と過去最高を記録。2025年も大阪・関西万博の開催や円安などが追い風になり、9月までに訪日外客数は3000万人を突破、旅行消費額は約7兆円、年間訪日外客数は4000万人を超えるペースです。訪日外国人観光客のニーズも、最近は日本の商品を購入するだけの「モノ消費」から、日本特有の体験を求める「コト消費」へと変化しています。


4つ目は、「度重なる値上げに抵抗感、低下する価格転嫁率」。帝国データバンクの「価格転嫁に関する実態調査」(2025年7月)によると、企業の価格転嫁率は39.4%で、前回調査(2025年2月)の40.6%から1.2ポイント低下し、調査開始以来最低となりました。ビジネスモデルを見直して付加価値やコスト競争力を高めなければなりません。


5つ目は、「米国の関税措置による業績下押しリスク」。米国の関税政策は、日本経済に直接・間接の両面で影響を与えます。直接的には、対米輸出の減少による製造業の生産減少や収益悪化が懸念されます。間接的には、世界経済全体へのマイナスの影響が、日本経済に波及すると想定されます。また、米国内の物価上昇が世界経済を押し下げる可能性もあります。不確実性が高い経済環境の中、日本企業には輸出先の分散やサプライチェーンの見直し、新分野への挑戦などが求められます。


6つ目は、「金利のある世界から金利の上がる世界へ」。日本経済は2024年3月から「金利のある世界」へ17年ぶりに戻りました。金利が上がると企業収益を圧迫しますから、財務体質の強化と銀行に依存しない資金調達手段の確保に努めるべきです。高市内閣は積極財政と金融緩和が基本路線なので、急激な利上げはないと考えますが、金利が上がると利息額差のインパクトは大きく、「金利が上がったらどうする?」を常に考えておく必要があります。



成長マインドセットで一点突破の成長戦略

このような状況を踏まえて、2026年の基本戦略テーマは「ブレイクスルー戦略」(【図表2】)とします。一言で表現すれば、「壁に風穴を開ける一点突破の成長戦略」です。この風穴がブレイクスルーポイントになります。


【図表2】「ブレイクスルー戦略」の全体フレーム

「ブレイクスルー戦略」の全体フレーム

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成


ブレイクスルー戦略で重要なのは、限られた経営資源を「重点・集中・徹底」させることです。そのためには、「やめること・やらないこと」を明確にしなくてはなりません。米国ハーバード大学の経営学者であるマイケル・ポーター氏も、「戦略の本質は何をやるかではなく、何をやらないかを決めることである」と言っています。


戦略を構築する上でポイントになるのは、「せんこう」の持続的成長サイクルです。


ステップ1の「知る(現状認識)」では、自社の外・内部環境を3C(市場・顧客、競合、自社)の視点から分析・認識し、自社の強みを発見。ステップ2の「選ぶ(決断に向けた価値基準づくり)」では、自社の強みを最大限に発揮できるマーケットやビジネスモデルをポジショニング。ステップ3の「ブレイクスルー戦略の実行・推進」では、突破口を発見して重点・集中・徹底した経営資源の投下。同時に後押しする組織や仕組みを構築します。


成功ケースとして、国内外65拠点で事業を展開するスポーツ用品メーカーのアシックスを紹介します。同社は、米国での販売不振とコロナショックの影響を受けて2度の赤字を経験しますが、経営改革を推進してV字回復。2025年12月連結決算では売上高8000億円、営業利益1400億円を見込んでいます。このV字回復を生み出したのが、ランニングシューズへ経営資源を集中するという「突破口の発見」、そして、カテゴリを基軸とした経営管理体制への転換とデジタルシフトによる「戦略の実行推進」です。ランニングシューズに集中するため、スイム、野球用品、ゴルフなどの事業から次々に撤退。「パフォーマンスランニング」カテゴリでナンバーワンポジションを確立しました。



「1T4M」に基づく新しい経営技術の実装

次に、ブレイクスルー戦略に実装すべき「1T4M」に基づく事業戦略と経営戦略を説明します。


1T4Mとは、1つのT(Technology:固有技術)と4つのM(Market:市場、Man:組織・人材、Management:経営システム、Money:財務・キャピタル)の観点から事業経営を整理するフレームワークです。固有技術と市場の掛け合わせによる事業戦略を、組織・人材、経営システム、財務・キャピタルにおける経営戦略で推進していきます。


事業戦略の1つ目は、「事業ポートフォリオ開発」。事業構造を変革して成長領域に経営資源を投下し、企業を成長に導くツールです。複数事業のイノベーション(組み合わせ)によって付加価値を創造し、シナジー(相乗効果)を得て成長していく長期的な視点での事業ポートフォリオの開発が、企業の収益構造の変革に直結する突破口になります。


成功ケースとして取り上げるのは、歯科医療機器メーカーのナカニシです。同社は歯を削るための歯科医療用ハンドピース(回転工具)を開発し、「削るテクノロジー」を固有技術として錬磨してきました。この圧倒的優位性を持つ固有技術を突破口として、「歯を削る」デンタル事業、「骨を削る」サージカル事業、「金属を削る」機工事業を行う「1T3D戦略」をグローバル展開して急成長。現在では連結売上高770億円(2024年12月期)、140カ国以上に販売実績を持ち、海外売上高比率80%超のグローバルニッチトップ企業になりました。今後は「超高齢化への課題解決」を突破口に、創業100年を迎える2030年には売上高1000億円を超える目標を立てています。


事業戦略の2つ目は、「バリューチェーン開発」。「価値連鎖の開発」と訳され、自社の事業を通じて価値を連鎖し、利益を創出する考えです。自社の強みとなる機能の価値を磨き上げ、その価値を連鎖することで、「唯一無二」の独自バリューチェーンを形成することが突破口になります。


成功ケースとして取り上げるのは、独立系のエレベーターメンテナンス企業のジャパンエレベーターサービスホールディングスです。2025年に保守契約台数が10万台を突破し、国内の独立系メンテナンス会社でトップポジションを独走。2025年3月期の連結売上高は約494億円(前期比17.0%増)で過去最高を更新しました。同社は、メンテナンス技術の研究・開発、営業、メンテナンス、アフターフォローに関わる全領域を自社で完結できるという独自のバリューチェーンを形成。LTV(顧客生涯価値)の最大化を図って収益も拡大していく仕組みを持っています。


次に、経営戦略に移ります。その1つ目は、「人的資本投資」。持続的成長に向けたビジョンを達成するには、事業戦略に合わせた人材ポートフォリオの構成(人的資本の再設計)が必要です。労働力人口が減少する日本では、必ず人材不足の壁にぶつかります。この壁を突破するためには、戦略を推進する人材に求められる能力を明確化し、段階的に育成していく仕組みづくりが求められます。


成功ケースとして取り上げるのは、ソフトウエアの品質保証やテストを手掛けるSHIFT。「ソフトウエアテスト」というブルーオーシャン市場を創造した会社で、2025年8月期の連結売上高は1290億円、営業利益は156億円です。同社の2024年の中途応募者数は約9万名。そこからIT未経験者(ポテンシャル人材)を含め2563名を採用しています。ソフトウエアテスト業務に最適化したスペシャリストを育てるための人的資本投資に積極的で、エンジニアのLTV(エンジニア人数×在籍期間×「個」の価値創出力)の最大化をKPI(重要業績評価指標)に設定。2020年からは「トップガン制度」という独自のエンジニア育成システムをスタートさせ、給与に連動するエンジニアの価値創出力アップに努めています。


経営戦略の2つ目は、「収益モデルデザイン」。ブレイクスルー戦略で実現すべき収益モデルのポイントは、「収益力の向上を伴うトップライン(売上高)の成長」「業績のプロポーションを変革する(粗利益率を上げ、販売管理費率を下げ、営業利益率を上げる)」「業界平均点経営から脱する」の3つです。


成功ケースとして取り上げるのは、アパレル・雑貨のSPA企業であるパルグループホールディングス。主力のアパレル事業に加えて、雑貨事業の中核「3COINS」は“スリコ”の愛称で広く知られ、女性を中心に大きな支持を得ています。2025年2月期の連結売上高は2078億円(前年比7.9%増)、経常利益率は11.5%とアパレル業界随一の高収益を誇ります。高収益を実現しているのは、「ブランド戦略」「MD(マーチャンダイジング)戦略」「デジタル戦略」の3つです。ブランド戦略では、12年周期でファッショントレンドが一巡する「パルマップ」という独自の指針を作成。そこに示された4つのゾーンにバランス良くブランドを配置することで、あらゆる時代のトレンドに対応し、安定した業績が上げられる体制を構築しています。


MD戦略では、4週間単位で商品構成や売り場づくりを一新する「4週間MD」というビジネスモデルを導入。これを年間13回行うことで、リピーターを増やし、商品の回転率と消化率を高めて収益率を向上させています。デジタル戦略の大きな特徴は、「社内インフルエンサー制度」。約1700名のスタッフがインフルエンサーとして商品や店舗を紹介し、約2000万人の顧客との親密な交流を生み出しています。アプリ会員も1100万人を超え、EC売上高は540億円と全売上高の4分の1を占めています。



夢なき者に成功なし。志定まれば、気盛んなり

幕末の志士・思想家である吉田松陰は、「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし、故に夢なき者に成功なし」。そして、「志定まれば、気盛んなり」という言葉を残しました。


夢が志へと昇華したとき、人はワクワクする感情に突き動かされ、実行せずにはいられなくなります。その感情から生まれる経営行動が、ブレイクスルー戦略です。裏を返せば、ワクワクしない、熱量のない行動はブレイクスルー戦略とは言い難いのです。


会社存続の条件が「持続的成長」である現代において、限られた経営資源を何に集中、徹底するか。夢へ挑むとき、ワクワクする戦略が求められます。「この道以外に道なし、わが道をゆく」。その一歩は必ず楽しくなるのです。不確実性が常態化した今こそ、長期的視点を持ちながら未来を切り開く「成長マインドセット(揺るぎない意志)」が求められます。


不確実性の常態化と大転換途上にある経営環境において、変化を恐れず挑戦し続ける「揺るぎない成長への意志」こそが、持続的な成長を成し遂げるブレイクスルーを実現させます。経営者の決断力と実行力というリーダーシップを発揮して、飛躍的な成長を成し遂げましょう。




若松 孝彦 わかまつ たかひこ

タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長

タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。
1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティンググループ)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『チームコンサルティング理論』『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。


タナベコンサルティンググループ(TCG)

日本における経営コンサルティングのパイオニアと呼ばれる、東証プライム市場上場の経営コンサルティンググループ。1957年の創業から現在に至るまで約19,000社の経営コンサルティング実績を有する。全国900名のプロフェッショナル人材が、上場・大企業、中堅企業に対して、ビジョン・戦略策定から現場の経営システム・DX実装まで一気通貫に支援するチームコンサルティングを提供している。