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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2025.11.19

戦いを略すのが「戦略」。世の中の進化と向上をもたらすリユース界のパイオニア Eco Ring Japan Holdings 代表取締役 桑田 一成氏

不要品の買取専門店やネットオークションを立ち上げ、リユースビジネスに革命をもたらしたエコリング。売上高358億円、従業員数約600名と国内外で成長してきた過程で新たなビジネスモデルを確立し、次々とブルーオーシャンを創り出してきた秘訣ひけつを、エコリング創業者であり、Eco Ring Japan Holdings代表取締役の桑田一成氏に伺った。

失敗から学びオークションで勝機を見いだす

若松 経営コンサルティングでのビジョン支援やセミナーへの社員の皆さんの派遣など、ご縁をいただきありがとうございます。エコリング新本社での対談を楽しみにしておりました。 さて、エコリングは、ブランド品や不要品の買取事業、リユースサービス事業を軸に業界をけん引するパイオニア企業です。2001年の創業ですから、2026年に25周年を迎えられます。ネットオークション黎明れいめい期から事業をスタートされましたが、桑田社長は、もともとITやデジタルは得意分野だったのですか。 桑⽥ こちらこそ、長年のご支援をありがとうございます。私は中学生からプログラミングを始めました。⼤学卒業後に入省した郵政省(現総務省)でもプログラムを担当していましたが、血気盛んだった私は上司と一悶着ひともんちゃくあり、診療所に出向になりました。いわゆる左遷ですが、そこでITスキルを生かして当時2400万円だった診療所の売上高を2億4000万円まで伸ばし、本省に戻ることがきできました。 若松 出向した新たな場所で、それを不屈の精神で前向きに捉え、売上高を10倍にして元の場所に返り咲く。まるでドラマのような話です。どのような変革に取り組まれたのですか。 桑⽥ その診療所は、人間ドック受診者を多く受け入れていました。診療データから受診者の傾向と特徴を確認すると高血圧の方も多かったので、医師に協力を仰いで同分野の診療を強化したところ、みなさまに喜んでいただき、結果、売上高が伸びていきました。当時、高血圧の薬価は比較的高く、1日3回服用が必要だったため、売り上げが5倍になったのです。 さらに、スタッフの業務負担軽減のために、得意のプログラミングを生かしてレセプト(診療報酬明細書)を自動化すると、ますます業績が向上しました。そのうちにスタッフの増員なしで売上高を伸ばす診療所があると注目を集め出し、全国から見学者が訪れるようになりました。そこで辞令を受け、本省に戻って全国の診療所に同様のシステムを提供する中、あらためてコンピュータの可能性を感じたことがIT企業を創業したきっかけとなりました。 若松 現場での課題を業績へ展開していくセンスというか、課題解決力が卓越していると感じます。その後に起業したIT系の会社は順調でしたか。 桑⽥ それが失敗しました(笑)。営業力の弱さや、より高い技術を持つ競合の出現が原因です。起業から1年半ほどで生活に困るようになり、身の回りのものを「Yahoo!オークション(以降、ヤフオク)」で販売し始めたのですが、驚くことに本当によく売れました。使用していたパソコンとパジャマ以外は全て売ってしまったので、続いて質屋で商品を仕入れて出品するようになりました。それが今の事業につながっています。 若松 後に成功する創業者らしい失敗体験です。現場での挑戦と失敗を繰り返しながらビジネスや顧客価値を見つけ、それらから事業を手繰り寄せていきます。 桑⽥ 最低落札価格を1円に設定していたので飛ぶように売れました。当時、そんな人はいなかったのです。さらに、「最低落札価格を1円にしている変な人がいる」と新聞に取り上げられたことで検索数が伸び、そうこうしているうちに知り合いから「バッグなどの不要品をインターネットで売ってほしい」という要望、ニーズが舞い込むようになりました。「お客さまの役に立てる」「これはビジネスとして成り立つ」と直感した私は、地元である兵庫県姫路市に買取専門店を出店。それがエコリングの1号店です。
エコリングは2025年2月に兵庫県姫路市内で本社を新築移転した。新本社コンセプトは「HǑKO~つなぐ・ひらく・宝庫~」。HǑKO(ほうこ)は宝庫を表し、「人、商品、さらに植えられる植物すべてを宝とし、それを蓄える倉庫」という意味が込められている。カフェスペースや屋上庭園などを設け、コミュニケーションの生まれやすい環境を整えた

査定の標準化で短期間に鑑定士を育成

若松 ヤフオクが立ち上がったばかりの時期ですから、それらを活用してオークションビジネスという新たな事業モデルをつくったところが、「リユース業界のパイオニア」と言えます。ただ、買取専門店がない時代ですから、ご苦労も多かったのではないでしょうか。 桑⽥ 1号店の立ち上げから2年間は1日16時間働きました。店舗の営業は11時から19時ごろまで。オークションで入金された代金を翌朝一番に銀行から引き出して、それを資金に店舗で商品を買い取らせていただくのですが、昼ぐらいにはお金が底をつくので、また銀行に走りました。19時に店を閉めた後、買い取った商品の出品作業をして21時から販売し、売れた商品を梱包して発送する日々でした。規模は違いますが、今もやっていることは同じです。 若松 当時は質店があったと思いますが、結果的に桑田代表が出店した買取専門店が消費者に受け入れられました。その要因はどこにあったと感じますか。 桑⽥ 質店とは真逆の店づくりに徹したことが大きかったと思います。私の経験上では、当時の質店は非常に入りにくい雰囲気でした。古いベンチシートが置いてあって、アクリル板越しに店主がめんどうくさそうに「お金、いくら必要?」と聞いてくるような感じです。 そこで私は、外から店内の様子が分かるように外壁をガラス張りにし、待合室をカフェ風の明るい空間にして、接客の際もアクリル板のないカウンターで直接対応するスタイルにしました。 若松 確かに、質店に入るのは後ろめたさを感じる方も多かったと思います。真逆のコンセプトが奏功し、まったく違うビジネスモデルになりました。私が提言している「パイオニア戦略」です。その後、多店舗展開も積極的に進めて規模を拡大されます。 桑⽥ 最初から多店舗展開は視野に入れていました。多店舗展開できた最大の要因は、鑑定力を持った人を「鑑定士」という職業の扱いにし、鑑定士を短期間に育成する仕組みをつくったことです。当時、鑑定ができる人間になるには9年かかると言われていましたが、私は徹底的にデータを収集し、査定のポイントをまとめました。口伝や感覚ではなく、査定の方法を図解、マニュアル化することで、スタッフはまったくの素人でも短期間でほとんどの商品の査定ができるようになりました。 若松 鑑定士の育成と数が成長の突破口だったのですね。査定の標準化は、質店の究極の逆張りです。結果、新たなマーケットの創造と成長を後押ししました。その後の成長過程で定量的な目標は設定しましたか。 桑⽥ はい。最初から売上高30億円を突破したいと考えていました。 若松 TCGの成長戦略メソッドに「1・3・5の成長戦略」という理論があります。「会社は30億円、50億円、100億円、300億円、500億円、1000億円…と、1・3・5が頭につく年商規模で成長の節目を迎え、そのたびに条件整備をしなければ持続的成長は実現しない」という理論です。その点で見ても、当時のエコリングにとって30億円は成長の山場でした。なぜ、30億円という目標を定めたのでしょうか。 桑⽥ ある失敗がきっかけです。買取専門店をオープンして1カ月したころ、情報がなく判断ができないバッグが持ち込まれました。5000円で買い取ってオークションに出品すると、なんと5万5000円で売れました。その時、逆に「失敗したな」と思ったんです。儲け過ぎていると思い、バッグを持ち込んでいただいたお客さまに連絡しようとしたとき、ある経営者仲間から「商売人はいったん飲み込んだ利益を絶対に吐き出してはいけない」と叱られました。 ただ、どうしてもすっきりとしなかった私は、吐き出せる仕組みをつくろうと決意。逆算したところ、売上高30億円の規模になれば儲け過ぎた分を元の持ち主に還元できる経営システムになると分かりました。ですから、最初の目標を30億円としました。

市場やライバルを知りブルーオーシャンを見つける

若松 入店しやすい店舗づくり、査定システム、鑑定士の育成、顧客への利益還元という善循環システムなど、全てが新しいビジネスモデルです。次々と新しい価値を生み出すエコリングの強さの源が見えてきました。実際に、エコリングはBtoC、BtoBも含めたあらゆる分野でブルーオーシャンを開拓し続けています。 桑⽥ 私がブルーオーシャンを発見する方法は、競争相⼿の強みを「商品・サービス・技術」「⼈財」「財務」「経営」の項⽬別に整理することです。それらをX軸とY軸に振り分け、【図表】のように参入企業を置いていく。すると参入企業が多く、戦いが避けられないような「参入してはいけない戦略ポジション」が見えてきます。
【図表】ブルーオーシャンの見つけ方(例) 出所 : エコリング提供資料を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
業界⾃体を盛り上げながら、「共に勝つ」ためには戦わないこと。「戦いを略す」ことが本当の「戦略」だと私は考えていますし、そうした考えで私は事業を創造しています。 若松 非常に共感します。戦略は、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」から始まり、自らのアイデアにおぼれず、ライバルを含む競争環境を俯瞰ふかんしながら戦う土俵を決めること。それが戦わなくて良い土俵であれば、さらに良い戦略です。まさに、戦わずして勝つ」ブルーオーシャン戦略です。 桑⽥ おっしゃる通りです。私たちが挑戦すべきは、戦う必要のないブルーオーシャンを見つけることです。そこが見つかれば、次に考えるのは「この世の中に進化と向上をもたらすか」。見つけたビジネスモデルが進化と向上をもたらす自信があるなら挑戦します。逆に、進化や向上はなく、生み出すのがお金だけなら挑戦しません。 若松 X軸とY軸の組み合わせは数え切れないほど考えられますが、諦めずに検討し続ければブルーオーシャンが⾒つかるはずです。ただ、成功すると必ずそのビジネスモデルをまねる企業も出てきます。 桑⽥ 当社の事業も模倣をされてきましたが、それによって「買取業」という業界ができました。また、「買取専門店」「鑑定士」という名前が一般化されました。業界ができると社会に認められますし、競技人口が増えることで上位にいる企業の価値は高まっていく。裾野が広がるほど、私たちの足腰は強くなっていくと考えています。 若松 本当に事業センスにたけておられます。郵政省時代に新たなマーケットを創造されたときも、ベースには「戦いを略す=戦略」という考え方があったのでしょう。「事業経営」という言葉があるように、経営者には事業センスと経営センスの2つが必要です。どちらも大事ですが、経営センスは後天的に身に付けることができても、事業センスは自らの体験でしか習得できません。マーケットを創造した見事なパイオニア戦略です。

時代に合わせて切り口を変えるのが企業繁栄の鍵

若松 現在、海外と国内にホールディングス会社を持ち、国内外で事業を展開されています。企業価値が高まるビジネスモデルや注力している分野はありますか。 桑⽥ リユース事業はすでにプラットフォームを持っており、オークションのシステムもあります。カテゴリ別には、ブランド系オークション、リサイクル店で販売される家具や家電を中心とする道具系オークション、そして古美術・骨董の3つが主力となっており、この全てで日本一のオークションサイトを誇っています。 次に挑戦するなら、リサイクルの分野ですね。特に、壊れた家電でも100%リサイクルする技術に挑戦したいと考えています。買い取った商品は国内で徹底的に売る努力をし、次に海外で販売することで、現状98%はリユースされていますが、残りの2%についてもリサイクルしていく。最終的には、金属の再利用も含め、素材を売るところまで考えています。 2050年にリユースマーケットは10兆円を超えると期待されており、私もそう思います。今は3兆円ですから、3倍強になる。一方で、リサイクルマーケットはすでに10兆円に達しており、2050年には50兆円になると見込まれるなど非常に勢いがあります。リサイクルは世の中の役に立つ魅力的な分野ですから挑戦したいですね。 若松 リユース&リサイクルのビジネスモデルを構築することで企業価値がさらに高まりますね、楽しみです。ただ戦略は、何をするかと同じぐらい、誰がするかが大切です。新しい事業に参入する際、ネックになるのが人材力です。 桑⽥ そうですね。リサイクルは興味のある人に任せたい。当社は非常にチャレンジしやすい社風だと思います。成功したら儲かりますし、失敗しても経験が得られるという考え方が浸透しています。挑戦した結果、失敗しても社員は元のポジションに戻れる仕組みです。 若松 社員は思い切って挑戦できますね。桑田代表ご自身も、郵政省時代や起業の経験を糧として事業センスを磨かれたように、社員にも失敗する経験が必要だと私は思います。その経験をいかにつくるかが、今後のエコリングの成長を左右します。 企業規模が拡大するにつれ、そうした経験を得る機会は少なくなり、パイオニア精神は薄れていきがちです。桑田代表のパイオニア精神や事業センスを受け継ぐ人材を意図的につくっていく意味でも、エコリングの“失敗できる環境”は素晴らしいと思います。 桑⽥ ありがとうございます。そもそも古物商は江戸時代からある商売ですが、扱う商品は時代とともに変わってきました。つまり、時代に合わせて価値を見いだし続ければこの商売は永遠に続きますし、永続する会社になるだろうと思います。そうした思いから、「価値を見いだす使命共同体」という経営理念をつくりました。 もう1つ、困っている社員がいたら、残りの全社員でバックアップし合う組織を目指すという思いも「共同体」という言葉に込めています。 若松 エコリングの事業展開から、経営理念がいかに浸透しているかが分かります。製品の価値、事業の価値、人の価値を見いだす共同体としてのカルチャーが息づいているのですね。

事業成長と社会課題解決が両立する会社をつくる

若松 TCGがご支援しているエコリングのジュニアボード(次世代経営者塾)は、グループ売上高1000億円という目標を掲げています。2024年12月期の売上高は358億円。経常利益率は10%を超えています。これからのビジョンをお聞かせください。 桑⽥ 毎年100億円以上は売上高を積み上げていますし、お宝倉庫事業のM&Aもあって今期のグループ売上高は700億円に近い数字を見込んでいます。実は、日本の人口減少がリユース市場にとって追い風となっている部分もあります。使われなくなる品が増え、仕入れが発生しやすくなるからです。そうした品がごみとして捨てられるのではなく、海外も含めたマーケットでリユースされることは、日本の社会にとっても良いことだと考えています。 若松 SDGsやリサイクルの技術に関しては、世界的にみても日本は先進国ですから、その強みを発揮した戦略がグローバルにも必要です。 桑⽥ おっしゃる通りです。私はグローバル展開する中で日本の価値を再認識しています。優秀な人財が海外に引き抜かれては大変ですから、初任給の賃金を引き上げました。 若松 人財をいかに確保するかは企業にとって最重要課題です。一方、エコリングは社会課題の解決にも非常に高い成果を上げています。 桑⽥ 企業が成長する過程で社会課題の解決にも貢献したいという思いが強くなり、寄付やボランティア活動に積極的に取り組んできました。ただ、その一方で、⾃社の技術やサービスを通した社会課題の解決方法も探ってきました。 そうした考え方を念頭に事業を進めていくと、次の段階で事業拡大と社会課題の解決が融合していきます。当社で言えば、不要品がごみになる前に買い取ってリユースする事業は、⽇本のごみ問題の解決に貢献します。収益を上げるほど、あるいは事業を拡大するほど社会のためになるステージに入っていくのです。 若松 社会課題解決型企業として事業が成長するようになるわけですね。社会性と経済性の両⽴は簡単ではありませんが、世の中に本当に役に立つ会社は潰れません。 桑⽥ 経済学者のヨーゼフ・アロイス・シュンペーターが提唱する「新結合」から、私は「既存の技術+既存の技術が新しい価値を⽣み出す」と理解しました。今は、「環境保護関連+⾃社の技術=新しい価値」がキーワードになります。大事なのは、自社の技術を使って何ができるかを徹底的に考えること。それが私たちの未来をつくるのだと信じています。 若松 戦わないブルーオーシャン戦略、パイオニア戦略によって、買取専門店からオークション事業、リサイクル事業へと航路を進めるエコリングの成長の軌跡そのものですね。グローバル展開も進んでおり、社会課題解決企業としての貢献価値がますます高まっていくでしょう。本日はありがとうございました。

PROFILE

  • (株)エコリング
  • 所在地 : 兵庫県姫路市御国野町御着352
  • 創業 : 2001年
  • 代表者 : 代表取締役社長 川端 宏
  • 売上高 : 358億円(2024年12月期)
  • 従業員数 : 597名(契約社員・パート含む、2025年8月現在)


Eco Ring Japan Holdings 代表取締役 桑田 一成(くわた いっせい)氏 1968 年兵庫県生まれ。1993年日本大学農獣医学部卒業後、郵政省(現総務省)入省。2000年に郵政省退省後、2001年エコリングの前身となるアイ・ビー・エスを開業。その後、2003年に社名をエコリングに変更、2005年に組織変更して現在に至る。


若松 孝彦 わかまつ たかひこ タナベコンサルティンググループ タナベコンサルティング 代表取締役社長 タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず大企業から中堅企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーから多くの支持を得ている。
1989年にタナベ経営(現タナベコンサルティンググループ)に入社。2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て2014年より現職。2016年9月に東証1部(現プライム)上場を実現。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『チームコンサルティング理論』『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

タナベコンサルティンググループ(TCG) 日本における経営コンサルティングのパイオニアと呼ばれる、東証プライム市場上場の経営コンサルティンググループ。1957年の創業から現在に至るまで約19,000社の経営コンサルティング実績を有する。全国900名のプロフェッショナル人材が、上場・大企業、中堅企業に対して、ビジョン・戦略策定から現場の経営システム・DX実装まで一気通貫に支援するチームコンサルティングを提供している。