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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2020.01.31

日本で一番質の高い「“食”&“ホスピタリティ”グループ」を目指す ロイヤルホールディングス 代表取締役会長 菊地唯夫氏

菊地会長が講師を務める社内経営塾の成果

 

若松 組織は本質的に変化を嫌います。改革を断行するには、高度な変化の技術が必要です。図面ができても、それを実行するのは社員や現場の皆さんです。ご苦労があったと拝察いたしますが、取引先や社員とどのように向き合ってこられたのですか。

 

菊地 社長になってまず思ったのは、ステークホルダーへの対応です。株主に対しては会社の状況を詳しく説明しますが、従業員に説明する機会がないことに気付いて、2011年の決算発表後に本部スタッフを対象に「従業員向け決算説明会」を行いました。

 

その評判がとても良く、「店舗スタッフにも聞かせたい」との声も多かったので、私が全国を巡って決算の説明をすることにしました。するとメールで寄せられる質問が次第に多くなり、経営の基本を教えた方がいいと判断して「経営塾」を始めました。

 

若松 経営塾は、どのようなコンテンツで運営されているのですか。

 

菊地 私が講師で、スライド類も自作。月1回、朝の7時半から9時まで行います。テーマは第1回が「ロイヤルの経営戦略」、第2回は「財務の基礎」、第3回「ROE(自己資本利益率)の重要性」、第4回「企業価値の計算法」、第5回「これからの時代のサステナビリティー」、第6回は質疑応答です。希望者は誰でも受け入れ、アルバイトスタッフや就職内定者も聞きに来ます。累計で900名ほどが受講しました。

 

若松 充実した内容ですね。“来る者拒まず”の方針も素晴らしい。経営塾という社内コミュニケーション媒体を通してどのような手応えを感じますか。

 

菊地 二つあります。まず、質問のレベルがものすごく上がっていること。例えば「菊地会長の話に出てきたROEを自分なりに勉強したら、ROIC(投下資本利益率)が出てきた。ROEとROICの関連性を教えてください」といった質問がくるようになりました。これは問題意識が強くなっている証しです。

 

もう一つは、「従業員向け決算説明会の内容がよく理解できるようになった」という声が多くなったこと。二つとも私が一番望んだことです。

 

若松 受講者一人一人が、経営者という感覚で現場に向き合ったり、マネジメントしたりできますから、経営塾の効果はとても大きいと思います。ある種のコーポレート・コミュニケーションです。それらも含め、人材育成全般にどう取り組まれていますか。

 

菊地 本質的に事業の要素が違うので、配属先の事業会社ごとに教育を行っています。横の連携を図って各社の教育システムの良いところを取り入れながら育成に当たるようにしています。これによって一流のビジネスパーソンを輩出することが、ロイヤルグループの強さ・財産の増大に直結すると考えています。

 

 

社会や国から必要とされる企業こそが目指すべき姿だと思います

 

 

時代に適合した「飲食業の産業化」を推進

 

若松 ロイヤルHDの昔の社内報(江頭ファウンダーと田辺昇一が掲載されている、創業時の経営方針発表会の記事)を拝読すると、江頭ファウンダーはメッセージで「外食の産業化を目指しましょう。そして、飲食業をやっておりますけれども、ロイヤルHDは立派に世の中に貢献できる企業でございます。国家のためにも十分役に立つ事業でございます」と述べられています。外食王と呼ばれるにふさわしい志であり、真摯な姿勢がみなぎる言葉を残しておられます。

 

菊地 その通りです。江頭ファウンダーが目指していたのは「飲食業の産業化」です。私なりの解釈では、産業化は成立しましたが、社会環境の変化によりゆがみが生まれてしまった。だから、ロイヤルHD には「これからの環境に対抗していける飲食業の産業化とは何か」を示す責任があると思います。私がやりたいのは「飲食業の産業化のリストラクチャリング(再構築)」と言えるでしょう。

 

若松 先ほど紹介した「日本で一番質の高い“食”と“ホスピタリティ”グループ」という言葉そのものが、これから日本で食のサステナブルを実現する産業化のコンセプトであると感じます。

 

菊地 ロイヤルホストは、私の社長就任時に280あった店舗を220まで削減。残した店舗へ徹底的に資金と人材を投下してサービス向上に努めた結果、立て直しに成功しました。新規出店投資で単純な売上高アップを狙うのではなく、「既存店を含めた全店舗の質が日本で一番高い」という付加価値向上への取り組みを加速していく構えでした。

 

これからもテクノロジーを活用してさらなる付加価値の向上を図っていきます(【図表3】)。店舗のスタッフが顧客へのサービスの質、ホスピタリティの向上に時間を割くための戦略投資です。

 

若松 ロイヤルHDは食に関する事業が複合化しているので、デジタルトランスフォーメーション(DX)などの先進的な挑戦が大きな成果につながる可能性を強く感じます。

 

最後に、菊地会長が目指す会社像をお聞かせください。

 

菊地 私が目指すのは、社会にとって存在意義のある会社です。お客さま・従業員・株主・取引先という全てのステークホルダーにとって存在意義のある会社にしたい。これからデジタルをはじめとする大きな変化が起きる中で、社会や国から必要とされる企業こそが目指すべき姿だと思います。

 

若松 創業者の強い思いがこもった経営基本理念を、時代に適合した表現に翻訳すると「存在意義」になるのではないでしょうか。日本一質の高い“食”と“ホスピタリティ”を目指すファーストコールカンパニーとして、ロイヤルHD のますますのご発展を祈念申し上げます。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

 

 

【図表3】 外食の未来へのチャレンジ

出典:ロイヤルホールディングス「統合報告書2019」

 

 

ロイヤルホールディングス㈱ 代表取締役会長兼社長
菊地 唯夫(きくち ただお)氏
1988年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業、㈱日本債券信用銀行(現㈱あおぞら銀行)入行。2000年ドイツ証券㈱入社、投資銀行本部ディレクターを担当。2004年ロイヤルホールディングスに入社し、執行役員総合企画部長兼法務室長、2010年同社代表取締役社長就任。2016年まで社長を務め、現在は代表取締役会長を務める。また、2016年から2年間、(一社) 日本フードサービス協会会長を務めた。

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

PROFILE

  • ロイヤルホールディングス㈱
  • 所在地 : 東京都世田谷区桜新町1-34-6(東京本部)
  •       福岡県福岡市博多区那珂3-28-5(本社)
  • 設立 : 1950年
  • 代表者 : 代表取締役会長 菊地 唯夫、代表取締役社長(兼)CEO 黒須 康宏
  • 売上高 : 1377億100万円(連結、2018年12月期)
  • 従業員数 : 2686名(連結、2018年12月末現在)