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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2019.07.31

豊かで楽しい食生活を提案し続けるスーパーマーケット ヤオコー 代表取締役会長 川野 幸夫氏

2018年に竣工したヤオコーサポートセンター(本社)新社屋

2018年に竣工したヤオコーサポートセンター(本社)新社屋

 

「ヤオコー大学」でキャリア支援する
「最大の財産は人材」

 

若松 豊かで楽しい食生活提案型スーパーマーケットを、個店経営で展開するには、優れた人材が不可欠です。人材戦略や採用戦略にはどのように取り組まれているのでしょうか。

 

川野 苦労と試行錯誤の連続です。大卒の新入社員を最初に採用したのは1976年。当時は埼玉県のスーパーマーケットで売上高がベスト10にも入らないような状況でしたが、オイルショックによる就職氷河期だったことが幸いして7名を採用できました。大卒1期生です。採用費として当時の経常利益の3分の1を投資しました。学生と面談した際、「学校の掲示板に出ている会社で資本金1000万円以下はヤオコーだけ。格好悪いですよ」と言われたので、1978年には資本金を1億円に増資しました(笑)。

 

若松 採用戦略が経営戦略の時代になりました。特に新卒社員と対話すると会社への見方、捉え方が新鮮で、会社をゼロベースで見直す機会にもなります。

 

川野 入社してくれた社員を一人前の人材に育て上げるのが、私の役割です。多くの試行錯誤を重ねながら、現在では「採用・定着・教育」のプロセス強化に注力。採用した社員の定着を促進しながら、人材育成の基盤として社内開校した「ヤオコー大学」で入社1年目から5年目までの教育カリキュラムを体系的に施して、キャリアアップを支援しています。「小売業の最大の財産は人材」なのです。

 

若松 パート社員さんを「パートナーさん」と呼んで全員経営を実践されたり、「ヤオコー大学」を開校して人材育成に注力されたり、何よりもここの新社屋(本社)の働く環境の全てから、「人といかに向き合うべきか」というポリシーを強く感じます。

 

川野 それらに加えるなら、1997年に東証1部上場を果たしたことも大きな転機でした。社会的な知名度や信頼を高めることは、優れた人材の確保につながると思います。働いている人の張り合いにもなりますし、何よりも社員の家族が喜んでくれました。うれしかったですね。ヤオコーを働きがいのある会社にしたい、その想いでやってきました。

 

〝ミールソリューション〟を提供し、
「毎日の買い物はやっぱりヤオコー」と言われるスーパーを目指したい

 

選ばれる価値を追求し、
顧客という“プロ”を満足させる店づくり

 

若松 ヤオコーのビジョンを拝見すると、個店ビジネスモデルでは「1km商圏シェア25%」という目標を掲げています。私もナンバーワン企業はシェア20%以上が必要条件だと提言してきました。

 

川野 商圏内シェアアップは、前期(2019年3月期)からスタートした第9次中期経営計画の優先課題に置いています。基本レベル(鮮度・クリンリネス・品ぞろえ・接客)の向上、青果で選ばれる店づくり、ヤオコーでしか買えない商品づくり、販売力アップ(単品量販、メニュー提案)に取り組み、1km 商圏シェア25%を目指しています。お客さまから選ばれる店舗を追求していく結果としてのシェアアップを実現したいですね。

 

若松 明確なペルソナとターゲットマーケットに対するシェア目標の設定は、ファーストコールカンパニーの必要条件です。これらの目標からも地域においてナンバーワンブランド店を目指しておられることが分かります。他方、全国各地域の百貨店は閉店が相次いでいます。人口減少が影響していると思われますし、これからも同じような状況が続きます。

 

2020年の東京オリンピック・パラリンピックが終了した後のスーパーマーケット業界はどのようになるとお考えですか。

 

川野 これからの高齢社会では、孤独な人が増えます。人間は「集いたい」という本性がありますから、リアル店舗がなくなることはないでしょう。リアル店舗の価値をいかに高めるかが、垣根を越えた業態との戦いに勝ち残るための条件だと思います。

 

実際、Amazonをはじめとするネットビジネスやeコマースへの対策も練っています。自社のリアル店舗へお客さまをいかに呼び込むかを考えた場合、その店でしか買えない商品、その店でしか感じられない雰囲気、その店でしか得られない情報といった、店に「行きたくなる価値」を高めることがポイントになると考えています。

 

私たちの生活は多様化、個性化、専門化が加速し、より強い刺激がなければ感動を覚えなくなっています。お客さまの要求水準を上回る対応で、「ヤオコーでは事前の買い物メモが役に立たない。売り場を回ると買い物メモ以上に別のものを買ってしまう」といった“うれしい苦情”を今まで以上にこれからも頂戴したいと考えています。

 

若松 顧客という名の“プロ”から選ばれるスーパーマーケットとして、新しい時代の食生活がより豊かで楽しくなる価値を求め続けられることを祈念申し上げます。本日はありがとうございました。

 

 

ヤオコー 代表取締役会長(日本スーパーマーケット協会 会長) 川野 幸夫氏
1942年生まれ、埼玉県出身。1966年東京大学法学部卒業、1969年八百幸商店入社。1974年ヤオコーに改組、取締役を経て専務取締役。1981年代表取締役、1985年代表取締役社長。1989年川野小児医学奨学財団を設立、理事長(現任)。2007年ヤオコー代表取締役会長(現任)。2009年渋沢栄一賞受賞。同年日本スーパーマーケット協会会長(現任)、2012年日本チェーンストア協会副会長(現任)。

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

PROFILE

  • ㈱ヤオコー
  • 所在地 : 埼玉県川越市新宿町1-10-1
  • 創業 : 1890年
  • 代表者 : 代表取締役会長 川野 幸夫、代表取締役社長 川野 澄人
  • 売上高 : 4350億8500万円(連結、2019年3月期)
  • 従業員数 : 1万4772名(連結、2019年3月末現在)