2020年に創業130年を迎えるヤオコーは、30期連続増収増益(単体ベース)を達成した。売上高4350億8500万円、従業員数1万4772名(ともに連結ベース、2019年3月末現在)の東証1部上場のスーパーマーケットチェーンだ。一般的なチェーンストア理論の対極とも言える「個店ビジネスモデル」を推し進め、地域の食生活に密着した商品と情報を提供し続けることで「日本一元気なスーパーマーケット」と呼ばれている同社の戦略を、代表取締役会長の川野幸夫氏に伺った。
“真面目にコツコツ”で創業130年の社歴を刻む
若松 ヤオコーは、埼玉県を中心に千葉県、群馬県、栃木県、茨城県、東京都、神奈川県の1都6県で、多彩な食料品を主体とするスーパーマーケットを展開されています。その数は、172店舗(グループ全体、2019年3月末現在)に達します。
創業は1890年ですから、来年(2020年) は創業130年を迎えられます。日本では100年企業の存続率は約0.6%。私は、存続率の見地から100年経営を「奇跡の経営」と呼んでいます。川野会長は長寿経営の秘訣を何だとお考えですか。
川野 私が4代目の社長を務めた時から、当社のような日常の生活必需品をお客さまへ提供する仕事は、「真面目にコツコツが一番大切」と肝に銘じて日々の業務に励んできました。私の息子である6代目の川野澄人(代表取締役社長)も経営者としてあるべき姿を思い描きながら、日々の弛みない努力を積み重ねています。
若松 私自身の1000社を超えるコンサルティング経験の中から言えることですが、100年を超える会社には「社徳」とも表現できる社風があります。中でも30年連続の増収増益は、多くの劇的な変化、歴史的な出来事を乗り越えての驚異的な実績と言えます。「スーっと現れてパーっと消えるから“スーパー”だ」と揶揄された時代から、会長は業界の最前線に立って、スーパーマーケットのファーストコールカンパニーであるヤオコーを築かれました。多くの同業他社との違いはどこにあるのでしょうか。
川野 あらゆる産業は導入期、成長期を経て、やがて成熟期、衰退期へと進みます。小売業界も確かに、ネットショップの登場で大きく変わる可能性はあります。しかし、お客さまの生活シーンから“食事”がなくなることはあり得ません。それ故、食事に関わる商品や情報を提供するスーパーマーケットのライフサイクルは長いのだと私は考えています。だからこそ、お客さまの課題を的確に捉えた中長期の経営戦略に基づいて、コツコツと努力をしながら“体力”を蓄える戦略の実行が最も重要だと考えます。
その際に忘れてはならないのが、どんなに企業規模が大きくなろうとも、「お客さまの生活をどれだけ豊かに楽しくできるか」「お客さまにどう喜んでいただけるか」を自社の存在意義として中心に置きながら、事業にまい進すること。その結果、業績が伸びたのなら良いのです。
若松 「真面目にコツコツ」という意味は、会社の存在意義を明確にし、それに向かってブレることなく、お客さまと向き合う努力を日々積み重ねる「経営体質」であり、「個店経営モデル」を意味しているのですね。非常に共感します。
川野 一番大切なのは、自社が存在する意義を確立し、それを全従業員が共有していることです。当社は、「生活者の日常の消費生活をより豊かにすることによって、地域文化の向上・発展に寄与する」を経営理念に掲げています。「豊かで楽しい食生活提案型スーパーマーケット」を経営の基本方針として会社の中心に据えています。
「ミールソリューション」「価格コンシャス」で推進する
全員参加型の個店経営モデル
若松 「豊かで楽しい食生活提案型スーパーマーケット」をどのようなスタイルで店舗経営に展開されているのですか。
川野 お客さまへ「鮮度やおいしさ」「選べる楽しさ」「安さ」を提供すると同時に、献立の提案や料理のアドバイスといった毎日の食事の問題を解決する「ミールソリューション」を提供し、「毎日のお買い物はやっぱりヤオコーだね」と言っていただけるスーパーマーケットを目指しています。
こうしたビジネスモデルの原点となったのは、1994年にヤオコーの目指すべき店舗像を考えて「ライフスタイルアソートメント型スーパーマーケット」と表現したこと。具体的に言えば、生鮮やデリカ(惣菜)などの価値訴求型・地域密着型商品を充実させたスーパーマーケットを標榜したことでした。
お客さまは売り場に優れた食材が並んでいても、その特徴や料理法などの情報がないと手が伸びないし、たとえ買ってもおいしい料理にするのは難しいでしょう。情報は、食生活に豊かさや楽しさを与える大きな要因になります。
若松 「毎日のお買い物はやっぱりヤオコーだね」という価値を私たちは「ファーストコールカンパニー(顧客から一番に選ばれる価値ある会社)」と呼んでいます。まさにスーパーマーケットのファーストコールカンパニーです。価値訴求型・地域密着型の品ぞろえに、ミールソリューションという情報、今で言う「コト価値」を早くから加えたことも素晴らしいですね。
川野 ミールソリューションに取り組む以前から、現場ではお客さまに喜んでいただけるおいしさや品ぞろえを必死に模索してきました。
例えば、群馬県の中之条店ではパートナーさん(ヤオコーではパート社員のことをパートナー社員と呼ぶ)が自ら考案した料理を店に持参して販売していました。多いときは30品ほどあり、レシピも添えて売り場に並べると、お客さまは「私もこんな料理が作りたい」と思ってパートナーさんに質問を投げ掛けます。パートナーさんには主婦の皆さんが多く、毎日の食事に関する悩みや課題がよく分かりますから、お客さまへ的確な情報を提供することができ、その結果、売り上げが伸びるわけです。
もちろん、価格設定にも細心の配慮を払っています。鮮度が良く、おいしくて安全・安心な商品を、お客さまが納得する価格で提供する「価格コンシャス」を推進。店舗の雰囲気やミールソリューションと相まって、お買い物のトータルな値ごろ感を感じていただけるように努めています。
若松 “パートナーさん”とは、パート社員への敬意を込めたヤオコーらしい呼び方ですね。権限委譲されたパートナーさんが顧客と接しながら、自主的に考えて動いている様子が分かります。
パートナーさんをはじめとする従業員みんなで店を良くしていこう、お客さまに喜んでもらおう、と考える自由闊達な社風は、ヤオコーならではの「個店経営モデル」から生み出されたものでしょうか。
川野 そう言えると思います。小売りチェーンでは本部主導型の経営が一般的なのですが、それでは画一的な店舗に画一的な商品を並べることになります。 しかし、“食”は地域によっても個人によっても、好みが大きく異なるものです。そこに気付いて東証上場を機に、各店舗の状況に応じた店づくりや品ぞろえを行う個店経営へシフトしました。
現場では店長、社員、パートナーさんが一体となった「全員参加の商売」に励んでいます。それが結果的に私たちの「組織経営」にもなったのです。