ハイトーンボイスと徹底した商品ストーリー提案で顧客満足度を高め、お茶の間の人気を集めているのが、「ジャパネットたかた」創業者の髙田明氏だ。小さなカメラ店を売上高1500億円の通販大手に育て上げた背景には、どのような理念があったのか。経営哲学、会社への思い、次世代への期待などについて話を伺った。
株式会社ジャパネットたかた 前代表取締役社長/株式会社A and Live 代表取締役 髙田 明(たかた あきら)氏1948年長崎県生まれ。大阪経済大学卒業後、機械製造メーカーに就職し通訳として海外駐在を経験。74年に父親が経営するカメラ店へ入社。86 年に「株式会社たかた」として分離独立。99 年に現社名へ変更。90 年にラジオショッピングを手掛けたのを機に全国へネットワークを広げ、その後テレビ、チラシ・カタログなどの紙媒体、インターネットや携帯サイトなどでの通販事業を展開。2012 年には東京へオフィスとテレビスタジオを新たな拠点として開設。2015 年1 月に「株式会社ジャパネットたかた」の代表を退任し、同時に「株式会社A and Live」を設立。
社長業で必要なのは、「愛」です。 人を愛して感じる心がないと、人を動かすことはできないし、人に感動を伝えられません。 髙田 明氏
消費者1人ずつに呼び掛けるつもりで商品を提案
若松 私は髙田社長から、エアコンや高圧洗浄機などいろいろな商品を買いました(笑)。テレビでのプレゼンテーションは、髙田社長が目の前にいる感じ、お茶の間にいる感じがするから不思議です。あの臨場感はどこからくるのでしょう。 髙田 常にお客さまと対話をする気持ちで、カメラに近寄ったりします。社員に対しても同じで、家族のような感覚で接しています。私は道ですれ違う人からも、よく声を掛けられます。そういう距離感を会社全体で出したい。コールセンターでも、お客さまと家族のような会話ができる人を養成したいですね。 若松 顧客に最も受け入れられるのは「あなただけのビジネス」です。一方、商品はたくさん売らねばなりません。多くの消費者に向けて、「あなただけに提案している」というイメージを打ち出す。だから、多くの消費者が心奪われるのでしょうね。 髙田 50万人の視聴者がいれば、その一人一人に呼び掛けるつもりで話しています。最近は、高齢者にタブレット端末をご紹介しています。音声認識機能があり、指で触って体感的に操作するタブレット端末は、シニア世代にこそ適していますから。 若松 IT に苦手意識を持つ人も多い高齢者に、タブレット端末を売るのはすごいですね。商品の提案が全てソリューションになっています。主婦にも高齢者にも家族にも、それぞれの課題を解決する「ソリューション提案」。その切り口が常に新しくて「ハッとする」、「そういう使い方があったのか」と納得する。髙田社長ファンが多くいらっしゃるのも分かります。ところで、通販業界はこれからどのように進化するのでしょうか。 髙田 若い人たちは先端技術を使いこなしていますから、今後はネットスーパーが発展するでしょう。恐らく店舗は“ 倉庫” になりますよ。例えば、ネットで注文すれば、最寄りのコンビニエンスストアから商品が届く。これからの10年、20年で相当変わるでしょう。 若松 メディアミックスを進められていますが、ネットやテレビなど媒体別の購入割合はどれくらいでしょうか。 髙田 現在はネットとテレビが同じくらいで、紙媒体がそれより少し多い状況です。メディアミックスの特性で、テレビだけを見て購入するのではなく、テレビで見てからネットで購入する方も増えました。どの媒体から買ってもらってもよいのです。これからは、間違いなくネットが主流になり、テレビ通販も電話で注文を受けることはなくなるでしょう。コールセンターは注文を受けるのではなく、アフターサービスがメーンになります。こればかりは人がやらないと。 覚悟がないとミッションは貫けない 若松 ジャパネットたかたは事業そのものが「ビジネスモデルブランド」でありながら、分割払いの金利負担といった「サービスブランド」も数多く開発されました。さらなるブランド戦略が必要ですね。 髙田 企業の価格競争は、もう限界にきています。「日本一安い」と打ち出せば、必ず他社が同じことをするため、差別化も図れません。企業の評価は、お客さまとどこまで信頼関係をつくれるか。価格とサービスが一気通貫につながらないと評価されない時代が来るでしょう。今後は付加価値が重要になります。 若松 髙田社長が取り組んでこられた「商品に新たなストーリーを創り、語ることで価値を示すこと」は付加価値そのものです。 髙田 企業が選んだモノの価値に、お客さまがお金を払われる。金額に見合った価値を提供できれば、私たちだけの価値ではなく、生産者の価値にもなる。その価値観の共有は重要です。誠実に真実を貫き通し、本当の価値を見抜く力を持たねばなりません。 若松 どんな商品もミッションを持って生まれてきています。ミッションがなくなると商品寿命も尽きます。その大切さを、どのように組織に浸透させているのですか。 髙田 経営者には、覚悟が要りますね。覚悟がないと、ミッションや理念を貫く企業にはなれません。なかなか難しいですが、ブレない心で前進していく気持ちが必要でしょう。 世阿弥の言葉にあるように「自分が見ている目=我見」とは別に、「見られている目=離見」があります。「企業はこうあってほしい」という消費者が求める目を忘れたとき、我見に走る。その瞬間に売れなくなります。「安いです」と言っても、通じなくなる。見られている目を理解し、自分で見ることです。さらに、「見せる目=離見の見」も重要です。どう自分を見せるのか。これはテレビ通販だけでなく、全ての商売の本質だと考えます。
株式会社タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000 社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989 年タナベ経営入社、2009 年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。著書『100 年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか多数。
商品には生まれてきたミッションがある。 新たなストーリーをつくることで新たな価値が生まれる。 それを顧客や組織とどう共有するかが重要です。若松 孝彦