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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2018.10.31

「野菜のカゴメ」をビジョンに掲げて、「ピンチこそチャンス」の改革を推進 カゴメ 代表取締役社長 寺田 直行氏

トマトの会社から、野菜の会社に

 

若松 2025年に向けた長期ビジョンには、「トマトの会社から、野菜の会社に」が掲げられています。トマトやトマト加工食品のイメージの強かったカゴメですが、ここ数年は野菜の会社というイメージが浸透してきています。

 

寺田 2015年に、「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業になる」という目標(ありたい姿)を策定しました。カゴメは、「健康寿命の延伸」「農業振興・地方創生」「世界の食糧問題」の解決に取り組んでいますが、まず貢献できるのは健康寿命の延伸。それには、トマトの会社ではなく、「野菜の会社」とする方が合っています。

 

若松 「野菜のカゴメ」と言い切った方が、ドメインや本質的価値の拡大がメッセージとして伝わります。また、2040年ごろまでに女性社員比率50%以上を目指していらっしゃいますね。女性活躍に向けての取り組みをお聞かせください。

 

寺田 以前は女性社員への「配慮」だと思ってしていたことが、かえって責任あるポジションに就く機会を遠ざけてしまっていた側面があります。例えば、営業職の女性社員が育児休業明けで仕事復帰した際、「大変でしょうから」と配慮して内勤に変えるなどしていました。以前と同じように働きたい社員からすれば迷惑ですよね。国内で見るダイバーシティというのは、圧倒的に女性登用の問題にたどり着いてしまうのですが、これが当社でも決定的に遅れていました。そこで「ダイバーシティ推進室」を2015年に設置。他社が行った取り組みを3年でスピーディーにやりたいと期限を決めました。現在は営業職の女性社員がラインマネージャーになったほか、本部のマーケティングスタッフの女性比率は約40%に、女性管理職も誕生するなど活躍の場が広がっています。新卒社員も6割は女性。今年で3年目となり、見事に広がってきましたから推進室は役割を終え、消滅します(2018年10月1日付)

 

若松 期限を決めると、集中して取り組めますから成果も上がりやすい。中期経営計画を策定されていますが、これも目標と期限が明確になります。

 

寺田 おっしゃる通りです。2016年にスタートした3カ年中期経営計画では今年が最後の1年。10年先になっていたい姿から3年先の目標を定めて年度ごとに現状を確認していくと、経営は非常に分かりやすい。このサイクルを各事業部に当てはめていくと、持続的成長を描きやすくなります。業績悪化を招いた最大の要因は、大企業病にあったと私は考えています。大企業になると権限委譲が進みます。これには良い面もありますが、一方で全体よりも所属する事業部を優先する部分最適も進んでしまう。各部門の全社視点が希薄となってタコツボ化し、本部と現場の経営課題が乖離していくのです。この流れを断ち切るために組織改革を行い、役割を再定義した上で10年後の会社のあるべき姿、全体の中期課題を明らかにする。これを部門にブレークダウンする流れにしたところ、経営課題のズレがなくなりました。

 

 

ビジョンを掲げることから改革はスタートする

 

若松 カゴメの特徴として、個人株主が多いことが挙げられます。特に、株を長期保有する個人株主比率が高いと経営は安定しますね。

 

寺田 私どもは「お客さまファン株主」と呼んでいますが、個人株主さまは18万人に上り、株式の約半数を占めています。文字通り「お客さま資本」の会社ですから、お客さまとのコミュニケーションを特に重視しています。例えば、個人株主さまのうち男女10名を招待して質問や意見をお聞きする小規模な株主総会(社長と語る会)を、2014年以降は全国4カ所で毎年開催。約1時間の質疑応答の後、テストキッチンで野菜尽くしの料理を召し上がっていただくアットホームなイベントで、地域によっては10人の定員に対して300人の応募が寄せられるほど人気があります。その他、工場見学会やトマトの栽培体験、料理教室など、個人株主の皆さまにはさまざまなイベントに参加していただいています。

 

若松 10人程度ですと距離が近く、双方向のコミュニケーションによって関係性が深まります。一人一人を大切にするカゴメの姿勢は、就職活動中の学生の間で「神対応」として有名です。

 

 以前からエントリーシートに応募してくださった学生全員に、お礼状とトマトジュースなどを贈っています。2018年は約6000人に送付しましたが、SNSで話題となってネットニュースになったのは想定外の出来事でした。ただ、人を大事にし、感謝する気持ちは社内に浸透しており、カゴメの社風と言ってもよいでしょう。

 

若松 素晴らしい企業文化です。また、トマトケチャップやウスターソース、トマトジュースなど、多くの日本初を送り出したパイオニア精神もカゴメの企業文化の一つ。これを受け継ぐために取り組まれていることはありますか。

 

寺田 パイオニアとして市場を切り開いてきた歴史はありますが、食品はロングセラー商品ですから安住して変化に疎くなってしまいがちです。そこで、次のイノベーションに向けて新事業アイデアの社内公募を始めました。昨年は寄せられたアイデアが60件あり、最優秀賞の発案者は本部に異動して専任でイノベーションに挑戦しています。

 

若松 コンサルティングでは、若手社員を集めたジュニアボードの場で新商品や新事業に関するアイデアを出してもらうことがありますが、これからも商品を超えた新事業レベルのアイデア力を付けることが重要になってきます。

 

寺田 おっしゃる通りです。面白いのは、昨年選ばれた2つの最優秀賞は、いずれも異なる組織に属する社員が連携して出したアイデアだったこと。全体最適につながる協働、ワイガヤが出てきています。アイデアの公募はダイバーシティの一環として実施しましたが、部署を超えた関係ができていることに手応えを感じています。

 

若松 寺田社長は、ビジネスモデルだけでなく人の成長を促す改革に成功されました。最後に、社長業において大事にされていることをお聞きしたいですね。

 

田 経営を任されている以上、数字は重視しています。社長1年目はそればかり考えていましたし、それをきっかけに収益構造改革や働き方の改革などを進めてきました。しかし、数字はあくまで短期的な目標にすぎません。本質は「会社をどう変えるか」に尽きると思います。ありたい姿や長期ビジョンを掲げ、それに向かって会社を変えていく。簡単なことではありませんし、時間がかかります。会社を取り巻く環境変化への対応は欠かせませんが、それ以上に大事なのは社員の意識をどう変えるか。最後はそれに尽きると思います。

 

若松 社員一人一人が変われば会社が変わっていく。これが組織経営の本質です。私も「100年続く会社は、変化を経営することができる会社」と日々言っています。会社は変化しないと生き残れません。私も一人の社長として変化を恐れず改革を進めるリーダーシップに深い感銘を受けました。本日はありがとうございました。

 

カゴメ㈱ 代表取締役社長 寺田 直行(てらだ なおゆき)氏
1978年カゴメ入社。2004年営業推進部長、05年取締役執行役員、06年東京支社長を歴任し、08年より取締役常務執行役員、コンシューマー事業本部長。10年より取締役専務執行役員、13年代表取締役専務執行役員。14年より現職。社長就任以来、「社内の収益構造改革」と「働き方の改革」を主導。長期ビジョンとして、「『トマトの会社』から『野菜の会社』に。」とともに、「女性比率を50%に」を社内外に表明しダイバーシティ推進にも注力する。

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

PROFILE

  • カゴメ㈱
  • 【本社】
  • 所在地:〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦3-14-15
  • TEL:052-951-3571(代)
  • 【東京本社】
  • 所在地:〒103-8461 東京都中央区日本橋浜町3-21-1 日本橋浜町Fタワー
  • TEL:03-5623-8501(代)
  • 創業:1899年
  • 資本金:199億8500万円
  • 売上高:2142億1000万円(連結、2017年12月期)
  • 従業員数:2456名(2017年12月現在)
  • 事業内容:調味食品、保存食品、飲料、その他の食品の製造・販売、種苗、青果物の仕入れ・生産・販売
    http://www.kagome.co.jp/