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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2018.09.19

時代を感じ、現場を見つめ、商機に変える経営哲学 ハイデイ日高 代表取締役会長 神田 正氏

 

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売上高406億円、経常利益45億円、経常利益率11.3%。15期連続増益と躍進を続ける東証1部上場企業のハイデイ日高。急成長の裏にあるのが時代の変化を商機に変えるトップの決断力と、社員を大事にする経営哲学だ。一代で400 店舗を超えるラーメンチェーンを築いた、同社の代表取締役会長・神田正氏に経営の要諦を伺った。

 

社員に支えられ15期連続増益を達成

 

若松 「熱烈中華食堂 日高屋」「焼鳥日高」などをチェーン展開するハイデイ日高は、首都圏を中心に400店舗以上を運営。売上高は前年比5.5%増の406億4300万円(2018年2月期)と東証1部上場企業として持続的成長を遂げていらっしゃいます。

 

神田 特別なことをして伸びたわけではなく、当たり前のことをやってきただけです。うちの商売は中華料理に携わる人なら誰でもできるビジネスですが、武器があるとすれば社員でしょうね。社員が会社を大きくしてくれました。

 

若松 業績を拝見すると経常利益率が高いという特徴があります。さらに、過去最高益の更新が続いています。高い業績を維持する企業には、好業績を生み出す仕組みや文化が根付いているものです。

 

神田 おかげさまで、営業利益、経常利益ともに15期連続で過去最高を更新しています。企業文化という意味では、無駄遣いしない文化が浸透しています。私自身、一度も社用車を持ったことはありませんし、接待交際費を使いません。上の背中を見て社員にも無駄遣いをしない文化が浸透していますから、当社に接待交際費はほとんどありません。世の中には接待交際費の金額(の大きさ)を自慢する会社もありますが、そのお金を社員の給与に充てたい。これが私の考え方です。そうすれば、社員の家族も喜んでくれますから。

 

若松 まったく同感です。私も社用車は持っていません。業績は日々の積み重ねで作られます。好業績を継続するには、トップをはじめとする社員一人一人に業績を作り出す行動が落とし込まれていることが重要ですね。

 

 

個の強みを生かしチーム力で多店舗展開

 

若松 駅前立地の出店を積極的に進めており、目標600店舗を掲げていらっしゃいます。チェーン展開をスタートした1980年代、同業他社は郊外のロードサイドに出店するところが多く、“駅前立地”という戦略は業界で非常識と捉えられていました。

 

神田 当社の創業は1973年。店舗はさいたま市の大宮にありましたが、駅前にはおでんやラーメンの屋台があって最終電車の時間まで人だかりができていました。当時は首都圏のどの駅前でも屋台がありましたが、道路交通法や行政の規制が厳しくなる中でその数は急速に減少していきました。駅前出店を決断した大きな理由は、「屋台のお客さんはどこに行くのだろう?」と思ったから。それに、低価格のハンバーガーショップや牛丼店が駅前立地で成功しているのに、「日本の国民食とも言えるラーメン店が駅前にないのはおかしい」と矛盾を感じていたこともありました。挑戦してみると、そこには宝の山がありました。

 

若松 家賃の高い駅前立地を軌道に乗せたポイントはどこにあるのでしょうか。

 

神田 家賃を回収するには長時間営業が欠かせませんが、同業のほとんどは個人経営のため福利厚生の整備がネックになっていました。当社はそこに力を入れたことで、チェーン展開を進めることができました。

 

若松 早くから加工工場を持つなど、仕事の分業を進めた点も、チェーン展開やローコストオペレーションの原動力となっています。セントラルキッチンという言葉すらない時代でしたが、比較的早い時期に工場を建設されましたね。

 

神田 工場をつくったのは1986年、まだ3店舗しかない時期でした。大宮でラーメン店を経営しながら駅に向かう人を観察すると、お弁当を持って電車通勤している人がだんだんと減っていることに気付きました。そこに商機があると思い、社長(高橋均氏)と弟(現顧問・町田功氏)に「それぞれが店を経営するのではなく、組んでやれば生活の基盤は十分につくれる」と話したところ、2人は残ってくれました。この決断が全ての始まりです。私はお金を借りて勝負するのが好きでしたが商品開発には暗かった。そこで、味や商品にこだわる現社長には商品開発を担当してもらい、地道にコツコツやる弟には工場を任せたところ非常にうまくいきました。いつも「ここで終わらない」「もっと店を増やしていこう」と3人で話し合いながら事業を進めてきたことが今につながっています。

 

 

リーダーの決断が企業の成長を決定する

 

若松 屋台や弁当といった、誰にでも見えている風景を見逃さない点が素晴らしい。特に、逆風に立たされた屋台を見てほとんどの人は「屋台の時代は終わった」と考えますが、顧客の動きに着目されるところに卓越した経営センスがうかがえます。

 

神田 格好良く言えば、世の中の流れ、風を捕まえたということかな(笑)。もちろん、クルマ社会がもてはやされる時代に駅前出店するのだから、金融機関からは「ばかげている」と反対されましたよ。でも、私は屋台のお客さまに懸けてみたかった。企業の存続は経営者の決断にかかっています。決断してから半年や1年で正しいかどうかは分かりませんが、5年、10年たつと見えてきます。社長がどのような決断をするかが成長を決定付けると私は考えます。

 

若松 決断は社長にしかできません。決定と決断は違います。情報が豊富にある中で決めるのは決定、決断は情報不足の中で行うため難しい。決断の起点をどこに置いているのでしょうか?

 

神田 勘でしょうね。正直なところ経営は勘だと思いますし、それは逆転の発想の中にあるように感じています。人が行かない道にこそ、チャンスがあります。

 

若松 決断の起点が逆転の発想にあるというのは、非常に興味深いお話です。みんなが反対する尖った発想によって新市場が生まれた事例は枚挙にいとまがありません。反対に、役員全員が賛成するような挑戦は成功しないものです。全て逆を行けば成功するわけではありませんが、逆から見ることは決断する上で価値があります。

 

神田 以前、テレビでアネハヅルの生態を追ったドキュメンタリーが放映されていました。アネハヅルの群れは日本を離れるとヒマラヤを超えて何千㎞も旅をします。ですから、群れのリーダーは最も良いタイミングを選びます。逆風のタイミングを選べば体力を消耗して目的地までたどり着けませんから。これは企業経営と非常に似ています。世の中の流れに沿っていない決断をした会社の社員はかわいそうですよ。同業にも成長している会社と低迷している会社がありますが、どちらの会社の社員も一生懸命働いています。しかし、経営者が決断を誤れば成長を続けることなどできません。

 

若松 おっしゃる通りです。戦略の失敗は戦術ではカバーできません。ですから、経営者の勘は企業の将来にとって非常に重要です。

 

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日高屋定番メニューの「中華そば」390円と「餃子」230円(6個)。関東1都5県で約400店舗を展開する