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100年経営対談

100年経営対談 2018.02.28

地域経済をつなぎ未来を創る独創的な銀行ビジネスモデル

静岡銀行 中西 勝則氏

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“金融激戦区”静岡県を地盤に200超の拠点(県外・海外を含む)を展開する静岡銀行。6大地銀の一角を占める同行が地域経済に果たす役割は極めて大きく、これまでも、これからも、その取り組みが注目される銀行だ。全国地方銀行協会会長を2度務めた同行の中西勝則・代表取締役会長(前頭取)に、地域経済の発展とマイナス金利時代の地域金融機関の在り方について伺った。

 

 

意識改革・業務改革・オープンイノベーションで他行に先駆けた取り組み

 

若松 いつも次世代経営塾「Shizuginship」ではお世話になり、ありがとうございます。長いご縁に感謝します。静岡銀行は1943(昭和18)年に静岡三十五銀行と遠州銀行が合併して誕生、2018年で創立75年を迎えます。中西会長は2017年6月に頭取を退任されましたが、今日の「しずぎん」を形づくる上で特に留意されてきたことは何でしょう。

 

中西 頭取に就任(2005年6月)してから言ってきたことは「利他の心」です。お客さまをはじめとした、相手を思う気持ちですね。(資金を提供することで)私たちはお客さまを助け、付加価値を付けてもらうことを考えなくてはいけない。なぜなら、それが必ずこちらに戻ってくるからです。行員から見ると、銀行も利他の“他”です。(お客さまと銀行の成長を思う)その両立の中で行員個人が成長し、自立していくわけです。その意識改革を行ってきました。

 

若松 銀行業は、プロダクトをつくって付加価値を付けて売るビジネスではない分、利他の心がより必要なのでしょうね。利他の心を起点に取り組まれたことはありますか。

 

中西 昨今、働き方改革や業務量の削減が注目されていますが、私たちは15年前からBPR(Business Process Re-engineering=業務改革)に取り組んできました。一般に、旧来の銀行業務には無駄な部分が多く、業務プロセスが多いほどリスクは高まるし、手間もかかります。住宅ローンなどはその最たるものです。お客さまとの取引に関する膨大な書類を厳重に支店の金庫に保管していましたが、必要なときすぐに見つけられずアタフタしてしまう。これを高度なセキュリティーの下、電子化して別会社で一元管理することで、見たいときに誰でもパソコンで確認できるようにしました。結果として、ローン関連の業務の約6割がカットでき、リスクヘッジにもつながりました。他にもIT活用、システム化などを通じて省けるところは省き、BPRを精力的に進めた結果、10年前に比べると支店の業務量は8割くらい減っていると思います。BPRも、ただ縦割りで考えて業務を削減するのでなく、全体設計を重視しました。例えば、業務量削減による業務内容・役割の変更、それに伴い人事評価制度を「職務等級制度」に変えました。また、中期経営計画とリンクした業務目標設定や、個々人の目標設定と振り返りの仕組みづくりに至るまできめ細かく全体設計をしています。

 

若松 一部だけを変えると、全体の整合性が取れなくなります。働き方改革や生産性改革に取り組む場合でも全体コンセプトや全体最適が大切です。業務改革全体を通じて静岡銀行のビジネスモデルが変化し成長してきた、ということですね。

 

中西 その通りです。静岡市清水区草薙に2016年3月にオープンした「しずぎん本部タワー」も、「ワークスタイルを改革する」というコンセプトをもとに設計しました。建物を新しくすることが第一義ではなく、行内のコミュニケーションとチームワーク、仕事の見える化を実現できる機能を目指したのです。ほとんどの会議室の壁を透明なガラス張りにし、パーテーションを置かず、個人の座席を固定しないフリーアドレス制にしました。外部の視察も積極的に受け入れています。縦の階層も意識し、中央に階段を設置。また、各営業店とテレビ会議システムでつながることもできます。社員が自在に働ける環境をつくり、顧客満足を高め、生産性の向上に取り組んでいます。

 

若松 静岡銀行の取り組みには、全体にストーリーがあります。しずぎん本部タワーも一部を見学させていただきましたが、部分改善ではなく全体からの設計アプローチを選ばれたことは、特に労働環境への戦略投資であると感じました。容易にまねのできないところに強いコンセプトや意志を感じた次第です。

 

創立70 周年記念事業の一環として建設 された「しずぎん本部タワー」。最新の IT、防災、環境配慮型設備などを備え、 新しいワークスタイルを通じた生産性向 上にも取り組む。タワー内の「非常事態 対策室」は地域の防災拠点としての役 割も担っている

創立70 周年記念事業の一環として建設
された「しずぎん本部タワー」。最新の
IT、防災、環境配慮型設備などを備え、
新しいワークスタイルを通じた生産性向
上にも取り組む。タワー内の「非常事態
対策室」は地域の防災拠点としての役
割も担っている

 

 

 

金融環境の激変で価値観をリセットする

 

若松 銀行業務全般を見渡す広い視点で、いち早く社内外に開かれた経営を追求された。そうした先駆的な取り組みへのチャレンジが、静岡銀行の企業文化になっているようです。これまでのご経験を踏まえて、現在の激変する低金利時代における地方銀行はどうあるべきとお考えでしょうか。

 

中西 ひと昔前と大きく変わっていることは、業界全体の資金量。つまり、資金需要と供給の関係です。端的に言うと、需要が多くて供給が少ない時代は、銀行も周囲から大事にされて思うように動けました。お客さまの依頼に対しても「ノー・バット(No,But)」(一度断った後に代替案を示す)でした。今はその反対で、「イエス・バット(Yes,But)」(一度受け入れた後で提案する)でなくてはいけない。

 

若松 組織は本質的に変化を嫌います。しかし、外部環境の激変やフィンテックやAIなどの銀行業務に対する価値観の変化に応じて、個々の行員の皆さんとも考え方や対応を変えないといけません。一言で言えば「価値観のリセット」。私のコンサルティング経験からもそれを痛感します。業界を問わず「変化を経営できる組織」だけが勝ち残るのでしょう。

 

中西 プロダクトアウトから、マーケットインへの発想の転換こそが重要です。まず、マーケットに耳を傾けることです。銀行窓口でお客さまから個人や家庭の悩みを相談される時代ではなくなったとはいえ、フェース・ツー・フェースでお客さまのさまざまな情報を集めることは、お客さまと当行にとってよりよいビジネスにつながる、とても重要な働きです。当行では、支店のロビーに内部役席を配置し、お客さま目線の活動を徹底して重視するよう、指示しています。

 

若松 行員の方々が顧客へ柔軟に応対しながら情報価値の取捨選択を行い、本部と支店の明確な役割分担と連携プレーにつなげていく仕組みを構築されています。現在は、「モノ余りでコト不足の時代」。私は社会的課題と表現していますが、課題解決市場を創出することで成功している企業は数多くあります。やはり、時代に合わせてビジネスモデル自体を転換していくことが重要なのでしょう。特に、ここ数年はそのヤマ場になると思います。

 

中西 まずは現場でストーリーを作ることです。お客さまが望んでいることに応える、応えないことがどのような結果をもたらすのか、それによって当行の組織がどうなるのか、先々をシミュレーションする大切さを行内ではずっと言い続けています。

 

若松 当面の経営目標はどんな点に置かれているのでしょうか? さまざまな銀行サービスがある中で、低金利時代に特に力を入れようと考えているサービスなどがあれば、お聞かせください。

 

中西 期間内にM&Aをいくつ行うとか、手数料をどれだけ稼ぎ出すとか、そういう数値的な目標ではダメだと思います。それでは行員に数字を押し付けるだけになってしまうので、経営的にはもっとマクロな視点で物事を考える必要があります。例えば、景気が少しずつ上向いているのは本当にマイナス金利の影響なのかどうか。マイナス金利は銀行から見れば苦しい要因であることは確かですが、大事なことは、全体最適という視点に立って景気回復ができる金融政策を予見して、独自に判断、行動していくこと。そのために、当行で働く全員が政府や日銀、世の中に対して良い意味での懐疑心を持ち、自分たちなりの大胆さを発揮してビジネスに臨むことを目標にしています。