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研究リポート
建設ソリューション成長戦略研究会
人件費・資材の高騰、地方の衰退など、外部環境の変化に合わせて提供価値を進化させている企業を研究し、建設業界の発展に寄与する機会を作っています。
研究リポート 2025.11.14

村本建設の働き方改革と、DX推進について 村本建設

はじめに
村本建設は1908年に奈良県で「村本組」として創業された、間もなく社歴120年を迎える歴史企業である。
決して順風満帆な歴史ではなく、1993年には会社更生手続きを申し立てるなど、苦難の道のりを歩まれてきた。現在は完工高743億円、経常利益35億円、従業員数800名(2024年実績)を誇り、国内に11の営業拠点、海外を含む関連会社5社を有する中堅ゼネコンへと成長されている。
近年は「働き方改革」への取り組みを徹底して行い、年間休日日数130日、通称「チャレンジ130(イチサンマル)」という、建設業ではおよそ類を見ない高いハードルにチャレンジされてもいる。「働き方改革」は、従業員の労働時間・労働日数の削減という側面を持つと同時に、従業員からすれば残業手当が減るという現実もあり、思うように進まないケースも散見される。

しかし同社は、2024年の長時間労働の上限規制の年に、過去最高利益を達成された。その秘訣を、同社の働き方改革を先導された籏持幸弥氏(取締役専務執行役員 人財戦略本部本部長)にご教示いただいた。

開催日時:2025年9月11日(大阪開催)

 

講師の籏持氏と参加者の名刺交換と質疑応答
講師(籏持氏)と参加者の名刺交換と質疑応答

 

現場の業務負荷軽減を推進する組織体制の整備

 

同社の「働き方改革」への取り組みは、スタート当初から成果が表れたわけではない。むしろ、現場支援チームの組成など、働き方改革の環境は整ったものの、推進・徹底されない状態がしばらく続いていた。その真因は、改革推進の責任者が不在で、中途半端に現場任せになっていたことにあった。

 

同社では、現場の所長・主任・担当者が行っている業務の洗い出しと、掛かっている時間計測を行い、その中で現場の社員以外でも担える業務を選定して、「プレフロント」というチームへの移管を進めた。そして、プレフロントを現場の生産性向上を主導する「未来の村本建設の中核を担う組織」と位置付け、現場の業務負荷軽減を強力に推し進めた。

 

同社のプレフロントには現在、20名近くが在籍し、各種書類や図面の作成業務、現場における事務作業の請負い、品質検査など、メンバー個々の得意分野を活かした業務を行っている。

 

加えて同社では、写真撮影の専門チーム「とるんですチーム」や、アフターメンテナンスを専門に行う会社「村本ビルテクノ」の設立など、現場業務の負荷軽減を行う組織体制整備を徹底して行っている。

 

講演の様子

 


 

工務概算工程や粗利率の確認を徹底

 

同社ではプレフロントによる現場支援に加えて、概算段階での工務概算工程や粗利率の確認を徹底し、受注に対する一定の基準を設定して、適切な人員配置や工期確保を、発注者に対して交渉する取り組みも強化した。

 

現場を支援する体制がいくら整っても、無理が多い・無茶な現場ばかり受注していては、いずれ限界が訪れる。相手(発注者)あってのことなので、全ての要望が聞き入れるわけではないが、受注工事の入口段階で、可能な限り無理のない状態での受注を目指す。

 

この取り組みを主導したのが同社の「働き方推進本部」であり、受注から竣工までのプロセスの上流部分にまで踏み込んだことも、働き方改革が成功したポイントと言えよう。

 

シールド工事の現場視察の様子
シールド工事の現場視察の様子

 

「休みが増える≠利益の減少」。会社の覚悟を示す改革の断行

 

働き方改革を進めると、従業員の労働時間が減り、休みが増える。稼働時間が減るのだから、利益が減る。残業時間が減れば残業手当が減るので、従業員は主体的に残業削減に取り組まない…。多くの会社が直面する課題は、つまるところこれに尽きるだろう。

 

同社では、思い切った賃金アップを行うことで、残業手当の減少という従業員にとってのマイナスインパクトの軽減を図った。

 

また、他工事と比較すると手間暇がかかる物件、短工期や劣悪な条件の受注件数に制限を設けた。いわば、働き方改革を推進するための、「従業員ファーストの選別受注」だ。これは受注産業である建設業にとって、自分で自分の首を絞めかねない思い切った決断と言えよう。

 

賃金アップにしても、従業員ファーストの選別受注にしても、相当な覚悟がなければできないことだが、「企業理念の第一に掲げられている“社員の幸せを追求する”の実現のために断行した」という籏持氏の言には、畏敬の念を禁じ得ない。

 

そもそも働き方改革は、生産性の向上なくして実現し得ない。働き方改革のゴールは生産性の向上にある、といっても良いだろう。

 

今より多くの成果を上げる。そのための努力をする。企業人として当然の責務であるそのことを脇に置いて、休みを増やすことだけを目標としては、会社組織は成り立たない。従業員が幸せになるために、全社一丸となって生産性向上に取り組む。その覚悟を、会社としても示す。2024年問題の年に過去最高利益を実現した村本建設の働き方改革の取り組みには、学ぶべき点が多かった。

 

シールド工事の現場視察の様子1

シールド工事の現場視察の様子2
シールド工事の現場視察の様子

PROFILE
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籏持 幸弥 氏
村本建設株式会社
取締役専務執行役員