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アール・エフ・ヤマカワ 代表取締役社長 木村奬氏
ものづくりから、空間づくりへ
白黒のモノトーン基調のテーブルに赤い彩りのチェアが映え、草木の香りのグリーンアロマが漂う。2026年1月に移転新設したアール・エフ・ヤマカワの大阪支社は、「魅せる」ショールーム兼「体感する」コワーキングオフィス「BRIDGEX(ブリジェックス)」を併設。同社の思いと企業価値を投影する、ブランディングを体現した空間だ。
大阪支社に併設されたショールーム兼コワーキングオフィス「BRIDGEX」。淀屋橋や肥後橋、所在地の高麗橋など「八百八橋」の水都・大阪にちなんだネーミングに「さまざまな人が集まって、橋を架け、化学反応を起こす空間になれば」(木村氏)との思いを込める
同社は、Royal Flush(ローヤルフラッシュ)と呼ばれるハニカム構造のテーブル天板の製造からオフィス家具メーカーに成長。ファブレス化を経て2018年に空間提案のトータルソリューション事業を開始し、さらなる発展を遂げた。
現在は、オフィス空間の企画から内装工事までワンストップの一貫サービスを提供するトータルソリューション、介護リフォーム、コワーキングオフィスなど、本業とシナジーが生まれる新事業は高い伸びを示し、2025年9月期の売上高成長率は前年度比120%に達した。
「販売店の要望やOEMに応える受け身のものづくりが、トータルソリューション事業で変わりました。『家具だけでなく、空間もより良いものを』というエンドユーザのニーズをダイレクトにキャッチできるようになり、商品開発や空間提案に生かす良いサイクルが生まれ、ODM※や自社ブランド展開など、当社にできることの範囲が広がり、提案レベルも着実に向上しています」
そう話すのは、祖父母の創業から4代目社長として2021年に就任し、確かな手応えを語る木村奬氏だ。2024年には企業理念「“デザインする”ことで、笑顔で暮らし、学び、働ける『場』を創る。」など、新たなMVVを策定した。自社が創り出す価値は何か、誰にどう提供し貢献するのかを、明文化している。
※Original Design Manufacturer:設計・デザイン・製造を一貫受託するビジネスモデル。他社設計で製造受託するOEM(Original Equipment Manufacturer)とは異なる
出所:アール・エフ・ヤマカワ公式ウェブサイト
「理念に掲げるデザインという言葉に、強いこだわりがあります。特に、存在意義に示した『その人の未来に、“ちょうどいい”』デザインが大事です。トータルソリューション事業はお客さまの課題や要望だけでなく、将来的な企業像や事業規模、働き方を詳しくヒアリングします。社員増を想定したスペースを確保し、どんな家具の組み合わせが、ちょうどいい空間になるかを妥協なく考える。いまの最適化よりも、3~5年先の未来を描き出す対話です」(木村氏)
「今日の最善は明日の最善ではない」とは松下幸之助氏の言葉だが、「ちょうどいい」価値のベストソリューションも常に変化し続ける。働く、学ぶ、暮らす。それぞれのありたい姿と進化形を、同じ目線で伴走し一緒に可視化する強みは、「未来設計力」とも呼べるだろう。
笑顔が生まれる「『場』を創る」ターゲットも明確だ。中小企業の顧客を最も大事にし、近年はスタートアップの応援にも力を注ぐ。
「生まれたての企業から中小・中堅企業へと成長していくステージに寄り添うことで、当社も成長し続けていきます。さらに学習塾の学びや、介護リフォームなど暮らしに密着したシーンにも、役立ちの場が広がっています」(木村氏)
いつでも、どこでも、誰にでもフィットするデザインのオフィス家具シリーズ「Lism(リスム)」
家具と働き方も「魅せる」ショールーム
デザインを基軸に創り出す価値とターゲットを明文化したMVVは、木村氏と社員が共有する道標となり、迷いを生まない判断の物差しになっている。自社HPでも公開し、社外に広く発信。「何を大事にする会社か」「お客さまの成長とともに自社も成長する」価値観を伝えるブランディングにもつなげている。
さらに、戦略的に「価値を伝える場」と位置付けるのが、冒頭に紹介した「BRIDGEX」や、三重本社・東京支社の「ショールーム兼社員が働くオフィス」だ。
「魅せる(見せる)場もつくらないと、伝えることは難しい。ショールーム兼オフィスは、商品を飾れて、しかも実際に社員が使ってみせる組み合わせです。見学に来たお客さまに『素晴らしい環境で仕事をされていますね』と体感してもらうだけでなく、そう言われることが社員の励みになり、そんな空間をもっとつくりたい、とブランディング向上の推進力が生まれます。
良い環境で気持ちよく仕事をしてもらうと社員のパフォーマンスは上がり、誇りを持って働くことができます。デザインも機能性も高いものを提供する空間と、グレーのスチールデスクが並ぶオフィスでは、違いは歴然ですよ」(木村氏)
2024年11月には福岡の中心街、天神・大名に無人運営のショールーム兼コワーキングオフィス「DESIGNITE(デザイナイト)」を開設。東京・大阪に次ぐ大都市圏の新天地開拓が始動した。
福岡のショールーム兼コワーキングオフィス「DESIGNITE」
「ショールームに新たな人員を配置するのは厳しいので、無人運営のコワーキングオフィスと組み合わせて、その収益で投資負担を軽減する発想が浮かびました。コワーキングオフィスは新規事業の挑戦ですが、事業所登録が可能なので、九州・福岡に拠点を構えたい全国の中小企業・スタートアップがメインターゲットです。
天神・大名エリアは地元・九州の『スタートアップの聖地』でもあります。良い家具だと実感してもらえればその場ですぐ購入判断できますし、事業を始めて企業化し、自社オフィスをつくる時に、空間提案で選ばれるチャンスも広がります。企業の成長ステージに伴走し続けるコンセプトは、不変です」(木村氏)
「魅せる」が伝わるブランディングへ、戦略的な広報PRやメディアリレーションにも力を注ぐ。プレスリリースやオウンドメディア活用などブランディングサービスを提供する専門企業を、外部パートナーに選定。また、ウェブ情報発信やSPツール制作の専門人材を新たに採用し、内製化も強化している。
「広報的なPRよりもプロモーション的な意味合いが強いですが、メディアリレーションで認知度を高める場を増やすことも大事です。SEO対策も『オフィス 家具』というメジャーワードでは、競合する大手には勝てません。でも『塾 家具』の組み合わせなら最上位に検索表示され、ナンバーワンのファーストコールカンパニーになれるのです」(木村氏)
誘客マーケティングの一環でもあるメディアリレーションでも、重視するのは「価値の差別化、明確化」だ。ここにも、組み合わせの妙が発揮されている。
「察しろ、感じろ」ではなく言語化し発信
近年、木村氏は多様なメディア媒体に、積極的に登場している。もちろん、明快な理由がある。アウターブランディングの発信が、実はインナーブランディングの浸透と強化にも結び付くからだ。
「自社を見つめ直すことができますし、メディアを見た社員に『社長はそんなことを考えているんだ』と端的に伝わります。全体に話せば薄まり、個別だと濃いけど他の人には伝わらない。濃く、まんべんなく自分の考えを伝えるには、メディアに出て発信する意味は大きいですね。私自身も、ブレてはいけないという意識が高まり、社員と同じ方向を見て仕事ができている実感があります。
何よりも大事なのは、言語化すること。経営者は、意外と自分がやりたいことを言葉にしていないものです。それを『察しろ』『感じろ』と言っても社員には伝わりません」(木村氏)
価値は伝わってこそ、事業も人も、ブランドも顧客も育つ。売上高30億円の社長就任時に「50億円を目指す」と掲げた目標達成も現実味を増す今、木村氏は仕入れ先だけでなく販路もグローバル展開を視野に入れる。
「本業のものづくりに対するこだわりを、もっと高めていこうと考えています。本業が育たないと次のレベルへ行けませんし、新規事業も本業にシナジーがあることが判断基準です。不要なものはなくしつつ、必要なものを足していく、という地道な作業で商品の純度を高め、空間提案の質も上げ、逆に空間提案に足りないところを商品開発で補う。そのサイクルを繰り返せば、おのずと50億円に近づいていきます」(木村氏)
PR・ブランディング戦略を進める軸になるのが「社員みんながデザイナー」になる姿だ。それは、モノ(家具)、コト(空間)、言葉、行動の全てに「相手の立場や気持ちになって、喜ばれ、幸せになれて、笑顔になることを、しっかり考える」(木村氏)、ソリューション型デザインを意味している
自らの経営思想を「削ぎ落としのデザイン」と語る木村氏。本当に必要な機能を見極めていらないものを省き、コストを下げ、手の届きやすい価格にする。残した最低限の機能で、価値を最大化する商品・空間づくりが、シンプルで機能的なデザインにつながっていく。当然、難しさは伴うが、自社の未来設計を導く確かな方向性が見えている。キーワードは「五感で感じるオフィス」だ。
「見る、触るの“二感”ぐらいしかなかったオフィスに、五感全ての感覚的な要素を取り入れていきます。アロマが漂い、音楽が流れ、仕事終わりに一杯楽しむ味わいもある。きれいなオフィスであることに加え、人間の五感に訴えかけることで、働く一人一人がもっと心地よい環境で仕事をできる空間を提案したいと思っています。
生産性が低いと言われる日本人と日本企業には、そんな空間が不可欠です。99%超を占める中小企業が元気になるための応援が大事ですし、中でも地方の中小企業は人材の採用・維持が難しい時代を迎えています。『オフィスが変わって快適になり、働きやすい』『こういう環境で、仕事がしたい』と魅せるブランディングが、大きな差別化ポイントになります」(木村氏)
大企業のオフィス改革が進む一方で、中小企業はまだこれから始まるところが多い。経営資源が限られる中、本業に直結する設備投資が優先され、多様な働き方の環境整備は二の次になりがちだが、木村氏は「まず、そこを変えていかないといけない」と熱く語る。
「良い社員が集まらないと、良い仕事ができない、ということです。結局、誰も未来は予測できないからこそ、目先の課題からもう一歩踏み込んで、本質的なところを自ら変えていきましょう、と。画一的にならず、それぞれの特色を生かすブランディング。その一助になる未来づくりのデザインを、これからも続けていきます」
企業プロフィール
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- アール・エフ・ヤマカワ(株)
- 所在地:三重県津市戸木町5141-23
- 創業:1962年
- 設立:1965年
- 代表者:代表取締役社長 木村 奬
- 売上高:40億2500万円(2025年9月期)
- 従業員数:53名(2025年9月期)
アール・エフ・ヤマカワ 代表取締役社長