急速な都市化や雇用と所得の増加による経済基盤の強化、急速な金融・貿易の拡大などトルコのグローバルな経済力が注目されている。ビジネスモデルイノベーション研究会が、2025年9月14~20日に現地を視察した内容をリポートする。
異文化共創が織りなす特色ある経済
アジアとヨーロッパの交差点、トルコ。本視察の狙いは、東西の文明がダイナミックに融合し、独自の経済成長を遂げるこの地から、未来のイノベーションのヒントを得ることである。古代より多様な文化が交差してきた歴史的背景は、現代においても欧米的な合理性とイスラム的な精神性を兼ね備えた、柔軟かつタフなビジネスモデルへとつながっている。高インフレという特異な経済課題を抱えながらも、巨大なイスラム経済圏へのゲートウェイとしての確かな地位を築くトルコ企業の戦略を体感し、日本企業が新興市場で成功するための「異文化共創」の軌跡を考察したい。
JETRO Istanbul
トルコに進出する日本企業の支援をはじめ、日本とトルコ間の貿易や投資の促進を手掛けるJETROイスタンブール。トルコ経済・ビジネス環境・日系企業の進出状況や労働環境といったビジネス参入の要諦について聴講した。
トルコは、欧州連合(EU)の関税同盟の一員でありながら、中東、アフリカ、中央アジアを結ぶ「地政学の要衝」としての役割を担っている。この立地は、巨大な市場へのアクセスを可能にする一方、国際情勢の不安定さをダイレクトに受けるリスクを内包する。国民性は、歴史的な荒波の中で培われた「タフな精神」と「勤勉性」が特徴と言われている。また、「インフレマインド」が根強く、貯蓄よりもモノへの投資を重視する消費行動が特徴的である。親日であり、若年人口が多く、都市化が進み消費力が増大している側面をチャンスと捉える一方で、慢性的な高インフレ、為替リスク、地場企業との価格競争の激しさといった乗り越えるべき課題が多い。
AYDIN TEKSTIL
欧州最大級の総合インテリアファブリックメーカー、AYDIN TEKSTILを訪問。創業65年以上の歴史を持つ同社の強みは、綿糸の調達から織布、染色、最終製品に至るまで、全てを国内で一貫して行う「垂直統合型」サプライチェーンにある。これにより、高品質な製品の安定供給と、顧客ニーズへの迅速な対応を実現している。
彼らはZARA Homeなどの欧米ブランドのOEMや、イスラム教のお祈りの際に敷く絨毯も手掛けている。
後者は市場シェアナンバーワンを誇っており、マレーシアやシンガポールといったイスラム教国において独自の強みを発揮している。徹底した品質管理と、イスラム文化の信仰に基づいたニッチ市場での圧倒的な地位が、同社の強靭なビジネスの礎を築いている。
ソファや椅子、マットレスなど、家具に使用される生地の製造を手掛けるAYDIN TEKSTIL。
ショールームではさまざまな生地がならぶ
LC Waikiki
トルコNo.1グローバルファッション企業。トルコ・イスタンブールに本社を構えるLC Waikikiは、国内シェアトップを誇り、アパレル業界を牽引するグローバルファッション企業である。同社の理念「誰もが着飾るに値する」は、単なる安価ではなく、「手頃な価格で質の高いファッション」を提供するという普遍的な価値に基づき、アパレルメーカーとしてグローバル市場でのプレゼンスを高めている。
同社は戦略的に競争環境の激しい西側市場を避け、中東、アフリカ、東欧、中央アジアといった巨大ながらも未成熟な「ライバルの少ない市場」を開拓。現在、82カ国1300店舗以上を有し、急速なグローバル展開を成功。未開拓市場の購買力と人口ボーナスを確実に捉え、地域の文化に合わせるローカル適応力を強みとしている。ターゲットおよび開拓するための条件の差別化を戦略的に推進し、欧州屈指のアパレルメーカーへと成長を遂げた、トルコ発のビジネスモデル×イノベーションの好例と言える。
トルコ発祥のファストファッションブランド「LC Waikiki」店舗の様子
Efendioglu Mermer
世界最大級の埋蔵量“大理石”ビジネス。世界の大理石埋蔵量の約40%を占めるトルコにおいて、Efendioglu Mermerは50年以上の歴史を持つリーディングカンパニーである。同社の強みは、自社で複数の採掘場を保有して行う「マイニング」から、最新技術による精密な大理石加工までを一貫して行う点にある。
同社は天然資源の優位性に甘んじることなく、伝統的な技術と現代的なデザイン性を融合させ、全て受注生産で高品質な製品を世界50カ国以上に供給している。製品は日本の高級百貨店や海外の5つ星ホテルにも採用されており、その品質は世界的に認められている。縁故主義が強いファミリービジネスの形態をとりながらも、世代を超えた技術継承と、革新的なデザインへの挑戦により、国際市場での確固たるブランドを確立している。
採石場から採掘された加工前の大理石
Efendioglu Mermer本社。美しさと耐久性を兼ね備えた大理石で建てられている
Yıldız Holding(Ülker)
トルコに本拠を置く世界有数の食品・飲料コングロマリットであるYıldız Holding。その傘下であるpladisグループは、Ülker・McVitie‘s・Godivaなどの有名ブランドをグローバルで展開し、菓子事業で年商約6000億円の規模を有する。
今回はGODIVAの視察を通じて、pladisグループのイスラム経済圏における圧倒的な市場存在価値を学ぶ貴重な機会となった。同社の戦略の特徴は、全商品がハラル認証に対応していることである。「誰でも安心して食べられるものを作る」というシンプルなコンセプトに基づき、トルコ国内で圧倒的なシェアを保持。さらに、マレーシアやインドネシアなどハラル市場の主要国においても優位性を築き、菓子事業においては、ネスレを凌駕する確固たる地位を築いている。同社は、食の安全と文化・宗教的規範の尊重という2つの軸で高い信頼を獲得しており、巨大なイスラム人口を背景とするマーケットにおいて、文化とビジネスの融合を成功させた好事例を示している。
ゴディバはベルギー発祥だが、2007年にトルコの製菓大手Ülker(Yıldız Holding)に買収された
TURASAN WINERY
ワイン発祥の地の1つとされるアナトリア地方、カッパドキアに位置するTURASAN WINERY。イスラム教の聖典であるコーランでは、一般的にアルコール飲料(ワインを含む)の摂取は禁じられているにもかかわらず、同社はイスラム教国においてワイン造りを行うというユニークな発想で独自のポジションを築いている。この地の特異な火山性土壌と、凝灰岩を掘って作られた洞窟セラーを利用することによって、自然の力で理想的な温度と湿度を保ち、高品質なワインの熟成を可能にする。
赤・白・ロゼの3種類のワインを手掛け、製造量は年間200万リットルにおよぶ。国際的な品種と土着品種の両方を栽培、カッパドキア独特のテロワールを生かし、最新の醸造技術と伝統的な手法を融合する環境に配慮した持続可能なワインを造る。また、有名なカッパドキアの気球ツアーと連携した「ワインツーリズム」を推進し、観光客へのアピールを強化。文化・宗教的制約の中で、観光資源とのシナジーを生み出すことで、独自の成長戦略を確立している点に、共創のヒントがある。
Turasan Wineryは1943年創業のワイナリー。エミル、ボルノバ・ミスケなどのトルコ固有品種や国際品種を使ったワインはお土産としても人気
ストラテジー&ドメイン チーフマネジャー